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空腹と筋肉痛は、上手に生かして健康長寿

ストレスを避けるのではなく上手に利用する──私たちが忌避しがちなストレスも、うまく乗りこなすことができれば、生命力を高めたり自分の成長につなげられる、と言う伊藤裕先生。今回は、とても身近な「食事」と「運動」について、ストレスを逆手にとって健康長寿に生かすコツをお聞きしました。

「空腹ストレス」は体を活性化させる

お腹が空くとイライラしたり、集中力がなくなったり、力が出なくてやる気も起きなかったり。
空腹をストレスに感じる人も多いのではないでしょうか。

でも実は、「食べる」という行為は、私たちの体にとって大きなストレスなんです。

 

「食べることは体に異物を取り込むこと。

体にとって毒になるリスクが含まれている可能性も高いですし、ほかの動物をとらえる際には命の危険を伴います。

そして食べ物が体に入ってきたら、分解し、必要な栄養素を体に取り込む一方で、有害な物質や病原体などは排除しなければならない。

 

そうした複雑でデリケートな作業を、消化器官は同時に行っています。これは最もエネルギーを使う活動であり、体にとっては大きなストレスなのです」(伊藤裕先生)

 

こんなに大きなストレスがありながらも、生命維持のためには食べないという選択肢はありません。

 

「そのため、空腹はとてもつらく感じるし、一刻も早くその状態から逃れたいと思う。それが『空腹ストレス』です。
血糖値が下がったり胃の収縮によって空腹ストレスが生じると、それを脳が感知。

 

そのシグナルはとても強力で、何をおいても私たちの体に『食べる』ことを促します。だから食欲というのはなかなかコントロールが難しいのです

 

お腹が空くまで食べない&腹八分目が生命力を上げる

ところが、この空腹ストレスは上手に利用することで体の活性を高めることができるそう。

 

「お腹が空いて栄養が足りない状態のとき、胃からグレリンというホルモンが分泌され、脳に『食べ物を食べよう』と促します。

同時に、新陳代謝を進める成長ホルモンの分泌も促進。また、細胞の中にあって私たちの活動のエネルギーとなるATPを作り出しているミトコンドリアを活性化させます。

 

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実はグレリンにはさまざまな健康効果があることがわかっています。

年老いたラットにグレリンを投与したところ、筋力低下や腎臓病が改善したという報告や、がんで痩せてしまった人、心不全、呼吸不全などが回復したなどヒトへの効果も明らかになっています。

また、食事の摂取カロリーを7~8割に抑えると、糖尿病や心臓病、認知症が減って寿命が延びることが動物実験で証明されています。

お腹が空いたら食べるほうが健康長寿

グレリンは空腹を感じると分泌されるので、だらだら食べ続けていたり、空腹でもないのに『時間だから』と食事をしていては、分泌が低下します。

会社など組織で働いていて昼休みの時間が決まっている場合は、お腹が空いていなくてもその時間でランチを食べざるを得ない人も多いでしょう。

でも、グレリンをしっかり分泌させて健康に役立てるには、お腹がグーっと鳴るまで食事をしないことがポイントなのです。

 

また、お腹が空いているわけではないのに、口寂しさからおやつをつまむのがクセになっている人はいませんか?

ちょこちょこ食べているとお腹が空く暇がなく、ミトコンドリアの活性につながりません。

 

私自身は、1回の食事量は少なく、でも栄養を考えて何回かに食事を分けてとっています。

またよく噛んで食べることで、多くのホルモンが順次分泌され、効率のいい消化吸収につながるため、忙しくても1回の食事に30分はかけるようにしています」

 

運動によるストレスを生かすには「ちょっとキツイ」ことが大事

50代ともなれば筋力や体力の低下を感じ、自分でジムに行くなどして体力づくりをしている人も多いかもしれません。

 

「例えば筋トレをして筋肉に負荷をかけると、筋肉痛になりますね。

しっかり休んで栄養を補給すると筋肉痛は治り、前よりも筋肉が強くなる。これを『超回復』といいます。

まさに運動による筋肉へのストレスのいい作用です。

この作用をしっかり生かすには、キツイと思える負荷の運動を正しい動きでやること。

 

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これを私が身をもって知ったのは、ここ2~3年です。

コロナ禍ではジムに行かず、自宅でセルフトレーニングをしていたのですが、どうも無自覚のうちに楽なやり方でやってしまっていたんですね。

コロナが明け、ジムに行くようになるとそれがよくわかりました。

ジムでは毎回トレーナーさんがついてくれて、筋肉の使い方、動かし方を教えてくれつつ、前回よりもかける負荷を上げてきます。

当然その後筋肉痛になるわけですが、それが回復して…というのを繰り返していくと、きちんと筋肉が増えていっているのがわかる。

ストレスをかけてもらっている効果を実感します。

 

運動はしないよりするほうがいいに決まっていますが、せっかくやるなら、わかっている人に見てもらいながら『けっこうキツイな』と感じる負荷をかけてもらうのがいいと思います」

 

【教えていただいた方】

伊藤 裕
伊藤 裕さん
医学博士

慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。1983年京都大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、スタンフォード大学で博士研究員。京都大学医学部助教授を経て、慶應大学医学部にて教授、2023年より現職。著書やメディア等でホルモンの仕組みや体の働きなどをわかりやすく解説。著書多数。

 

イラスト/ツルモトマイ 取材・文/遊佐信子

 

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