歯周病は感染症。「うつる」病気です!
歯周病はプラーク(歯垢)の中に潜む細菌=歯周病菌が引き起こす「感染症」です。
では、歯周病菌は、いつどこからやってくるの?
「歯周病菌が感染する経路は唾液です。歯が生えていない赤ちゃんの口の中には歯周病菌はいません。
歯が生える頃から、家族を介して歯周病菌が入ってきます。愛情たっぷりのキスや、大人が噛んだものを与えるなんていう行為には注意が必要なんですよ」
と語るのは、歯科医師の塚原妹美先生。

唾液感染ということはペットや恋人からのキスでも、強い歯周病菌がうつる可能性も!
とはいえ、菌がいるだけで歯周病を発症するわけではありません。歯周病になるかどうかは、セルフケアや生活習慣次第。菌を増やさない、悪さをさせないことが大切です。
「プラークより手強い」バイオフィルムとは?
歯周病の原因は、プラークだけではありません。長く放置されたプラークが膜のように変化した「バイオフィルム」こそが、見えない強敵。
バイオフィルムは排水溝のヌルヌルのようなもの。細菌が作り出すネバネバの膜です。それが歯の表面や歯周ポケットにくっつき、歯周病菌がその中で増殖していきます。
歯周病菌が増えるとバイオフィルムはどんどん成熟し、より厚く強くなり、落としにくい状態に。できたばかりの段階なら歯みがきでも落とせますが、頑丈になると普通のケアでは取り除けなくなってしまいます。
「歯科医院では、エアフローというジェット洗浄などで除去できますが、それが必要な状態になる前に、日々のセルフケアでバイオフィルムをため込まないことがいちばん大切なんです。
歯周病菌はゼロにできなくても、増やさない・定着させないことはできる。そのカギを握っているのが丁寧な歯磨きだということを知っておきたいですね」

「クリーニングお願いします」では、歯周病は治せません!
だからといって「歯医者さんでクリーニングしてもらえば安心」と思っていませんか? ここがちょっとした落とし穴。
「よく『クリーニングしてください』と歯医者さんに行く方がいますが、それ、何を指して言っているのかが曖昧なんです。歯をツルツルに磨くことなのか、歯石を取ることなのか、バイオフィルムを除去することなのか…。
クリーニングは目的によってまったく別物。歯周病を治すためのケアは、ただきれいにしてもらうのとは違います。
実際、保険診療でできるのは歯石除去や『機械的歯面清掃』といわれるものなど、あくまで治療として必要な処置。見た目をきれいにする目的で行うケア(いわゆる自費のクリーニング)とは、意味合いも内容も違うんです」
そして近年、歯周病の治療後のケア=メンテナンスにも、新しい制度が生まれています。
例えば、歯ぐきの状態が安定した人に行う「SPT(歯周病安定期治療)」。それより前の段階──まだポケットが浅い人には、「P重防(歯周病重症化予防治療)」という保険診療もできるようになりました。これは2020年から始まったばかりの新しい制度です。
どちらも、症状が落ち着いたあと、再発を防ぐための大切なケア。1本でも歯周病がある人なら対象になるので、「まだそんな段階じゃない」と思わず、早めに相談してみることをおすすめします。
若くても油断できない!歯周病はすでに始まっているかも?
歯周病は「年配者の病気」と思われがちですが、実はそうとも限りません。統計では15〜24歳でも約2割がすでに歯周病。35〜44歳では4割、45〜54歳ではなんと半数に達します。
「歯周病は若い世代でも意外と多いんですよ。特に、『私は大丈夫』と思っている人でも、検査をすると歯周病が見つかるケースが多いもの。
高齢になって歯を失わないためにも正しく歯周病を恐れ、早めにケアする意識が大事です」
厚生労働省の「歯科疾患実態調査」(2022年)によると、80歳で20本以上の歯を保てている人は51.6%。昔に比べて増えてはいますが、それでも歯を守り切れていない人が約半分いるという事実は見逃せません。
しかも、歯を失う原因のトップが、虫歯ではなく歯周病(約37%)!
この調査(公益財団法人 8020推進財団/2018年)からも、歯周病は静かに進行し、気づいたときには抜歯…という人がとても多いということがわかります。
「歯周病が進むと、歯を支える骨が溶けてしまいます。深いところで割れたり折れたりした歯は、もう残せないケースもあるんです。もしかして自分も歯周病…? そう思ったら、まずは歯科医院で検査を。今のうちに気づけることが歯を守る最大のチャンスです」
【教えていただいた方】

歯学博士(再生医療)。医療法人社団宏礼会 塚原デンタルクリニック勤務。医療法人社団宏礼会 行徳TM歯科院長。歯科衛生士学校で講師を務めたり、新聞でコラムを担当するなど、歯科医院へ行くことの重要性を訴える歯科医師。 塚原デンタルクリニック 行徳TM歯科
イラスト/内藤しなこ 取材・文/蓮見則子


