ストレスに強い・弱いは生まれつきじゃない
第3回では「空腹」と「筋トレ」という身体的なストレスを、健康に生かす考え方をお伝えしました。
でも毎日の生活の中では、肉体的なストレスよりもむしろ精神的なストレスで悩んだり苦労している人も多いかもしれません。
「ストレスに負けない自分になりたい」というのは、多くの人が思っていることでしょう。
「『ストレス耐性』という言葉を最近よく聞きますね。ストレスに対処して乗り越える能力のことを指します。
プロのスポーツ選手など大きな舞台で活躍している人などは、大きなストレスを感じているであろうはずなのに、しっかり結果を出します。
でもこうした方々だって、生まれつきストレス耐性が高かったわけではないと思います。
もちろん緊張の度合いなどは個人差があるかもしれませんが、生まれつき強靭な精神の持ち主というのはいません。どんな人でも必ず、ストレスを経験してそれを乗り越える、というのを繰り返して強くなっていくのです。
だから、もし自分のことを『生まれつきストレスに弱いタイプだ』と思っているなら、それは自分次第で変えられると考え直してみてほしいです」(伊藤裕先生)
もちろん、もともとの性格というものはあり、基本的な性格が明るい人もいます。ただ、明るい性格の遺伝子があるのかは疑問、とのこと。
「それよりは、育ってきた環境が大きいです。
赤ちゃんの頃から周囲の人に笑顔で話しかけられていた、自分が言ったこと・やったことが受け入れられてきた、といったことを積み重ねて成長した人のほうが、あまり物事を悪くとらえない傾向があります。そのためストレス耐性は大きいと思われます。
でもそのような環境でなかった人が、今さら子どもの頃に戻れるわけではありません。50代からストレス耐性を高めるには、周りに頼らず自分で自分のマインドセットを変えることです」
ストレスへ対処する方法=「ストレスコーピング」
ストレス耐性を高めるための対策や戦略のことを「ストレスコーピング」といいます。
誰にでもできて、伊藤先生おすすめのストレスコーピングは「書くこと」。

「『ストレスに弱い』と自覚している人は、嫌なことばかりが記憶に残りやすい性分なのかもしれません。今日あんなことがあった、そういえば2週間前にも…といった具合です。
でも、それは印象が強烈だっただけで、実際の生活の中ではおそらく、いいことも悪いことも同じくらいあるはずです。
印象に左右されて『人生嫌なことばかり』『ストレスが多い』とならないためには、“見える化”してみましょう。
いいことがあったら〇、嫌なことがあったら×、どっちもなかったなら△、というように手帳などに記録してみるのです。それを1カ月続けて集計してみたら、おそらくほぼイーブンになると思います。
いいことというのは、なにも『宝くじが当たった』とか大きなことじゃなくてOK。髪型を変えたら似合うと言われた、などささいなことで十分。
数値的なデータがあると自分の生活を客観的に見つめ直しやすくなります。
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私自身も嫌なことがあったら、すぐにノートに書いていますよ。スマホのメモ機能ではなく手書きです。
書く作業そのものが私にとってはコーピング。
文章にまとめるというのは、人に読ませる・読ませないにかかわらず、出来事を整理して可視化することです。
すごく嫌だった・ショックだったという出来事は、頭の中で考え続けているとモヤモヤが止まらず記憶に居座り続け、どうかすると実際以上に悪かったように感じてしまいがち。
でも、ノートに文章で書いてみるとわずか数行で収まってしまい、『ま、こんなもんか』と思えたりする。
忘れられはしなくても、魔法のランプの中に魔人が入るように、シュッと収まってしまうことも多いです。
ポイントは読み返さないこと。書いたら書いたっきりでOK。振り返ってわざわざ悪感情を呼び起こす必要はありません。
すぐにできてお金もかからないので、ぜひ試してみてください」
【教えていただいた方】

慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。1983年京都大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、スタンフォード大学で博士研究員。京都大学医学部助教授を経て、慶應大学医学部にて教授、2023年より現職。著書やメディア等でホルモンの仕組みや体の働きなどをわかりやすく解説。著書多数。
イラスト/ツルモトマイ 取材・文/遊佐信子
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