主に動脈硬化が引き起こす虚血性心疾患に注意!
『廃用症候群(はいようしょうこうぐん)』という言葉を聞いたことはありませんか?
「これは病気やケガなどで長期にわたる安静生活により、活動量が著しく低下することで、筋肉や体力、内臓機能の低下、精神的症状などが現れるものです。
これがきっかけとなり、やがて『寝たきり』になることがあります。
心臓の病気で『寝たきり』になるケースも、この『廃用症候群』に多く見られます。この症状は『生活不活発病』とも呼ばれています。
心臓は一定のリズムで収縮と弛緩を繰り返して、全身に血液を送り出すポンプ役を果たしています。その拍動は、健康な成人で毎分60~80回程度、1日約10万回も行われています。
それを可能にするために、心臓の表面には『冠動脈(かんどうみゃく)』が張り巡らされ、血液とともに酸素と栄養が供給されています。
第2回で動脈硬化のお話をしました。生活習慣の乱れなどで血管に動脈硬化が起こると、血液の通り道が狭くなったり詰まってしまうことで、体の各臓器に酸素や栄養が十分に届けられなくなります。
※動脈硬化については第2回参照。
これが冠動脈で起こると、心筋が酸素不足になり機能が低下します。この状態を『心筋虚血(きょけつ)』といい、心筋虚血が原因で起こる疾患の総称を『虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)』と呼んでいます」(鈩裕和先生)
強い痛みがある狭心症は心筋の酸素不足が原因
「虚血性心疾患の代表的なものが狭心症で、その原因のひとつが冠動脈の動脈硬化です。動脈硬化により血管内壁にプラークがたまり、血管内が狭くなると血液の流れが悪くなります。これを労作(ろうさ)性狭心症といいます。

もうひとつ、血管がなんらかの原因で痙攣(けいれん)を起こすことにより、血液の通り道が狭くなるものもあります。これを血管攣縮(れんしゅく)性狭心症といいます。
労作性狭心症は運動時など心臓の動きが活発になったときに、血管攣縮性狭心症は就寝時など安静時に起こる傾向があります。
いずれの狭心症も強い胸の痛みがありますが、数十秒~数分で治まります。ただし、糖尿病により神経障害があると、痛みを感じないケースもあります。主な治療法は血管を広げる薬物療法になります。
記事が続きます
一方で、血管が完全に詰まって、血流が止まってしまうのが心筋梗塞です。心筋梗塞になるとその先の心筋が壊死してしまうことがあります。こうなると元に戻らず、命にかかわります。一刻も早い治療が必要で、6時間以内だと生存率が向上します。しかし、多くの人がこのゴールデンタイム内に治療を受けられずに、命が助かったとしても、心不全でその後の生活が寝たきりになることがあります。
主な治療は、血管の塞がれた部分にカテーテルを通し、風船で広げる『バルーン療法』や『ステント療法』、もしくは血栓(血の塊)を薬剤で溶かす『血栓溶解療法』などです。
そして、心臓が十分な血液を送り出せなくなり、機能低下が長く続く状態を慢性心不全といいます。1回で送り出せる血液の量が減るため、拍動が増え、疲労感、手足が冷える、息切れ、むくみなどの症状が現れます。治療は生活習慣の改善と薬物療法が中心になります。
こうした心臓の多くは動脈硬化が原因なので、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病をきちんと治療することが大切です」
血栓を作る不整脈にも注意!
最近、疲労やストレスがたまると、脈が乱れると感じたことはありませんか?
実は、こうした不整脈は30歳以上になると誰にでも起こるのだといいます。
「不整脈があっても必ず心臓病が隠れているわけではありません。しかし、注意したほうがよい不整脈もあります。
不整脈には心拍数が減る『徐脈性』と、増える『頻脈性』のタイプがあります。なかでも頻脈性に含まれる『心房細動』には注意が必要です。
これは心房で異常な電気信号が発生することにより、痙攣するように収縮して拍動が乱れるものです。動悸や息苦しさ、胸の痛みなどを感じるほか、問題は心房内に血栓ができやすくなることです。
この血の塊が血流に乗り脳に運ばれて、脳梗塞を起こすことがあるのです。これを『心原性脳塞栓症』といい、心房細動でできる血栓は大きいのでとても危険です。心房細動がある人はない人に比べて、脳梗塞のリスクは数倍高くなるといわれています。
治療法は心拍数を調整したり、血栓をできにくくする投薬療法、カテーテルを使ったり、外科手術により電気信号が伝わる経路を遮断する方法などがあります。
記事が続きます
ほかに注意が必要な心臓の病気には、心臓の筋肉やそれを包んでいる心膜にウイルスや細菌が感染する『心筋炎・心膜炎』、心臓の弁の形態異常や機能が低下する『心臓弁膜症』、心筋に原因不明の異常が起こり心機能が低下する『特発性心筋症』などがあります」
これらの病気も加齢に伴い増えてくるので、気になる場合は一度、医療機関で検査をしてもらうとよさそうです。
【教えていただいた方】

医療法人社団つくしんぼ会理事長。平成9年に、外来診療から訪問医療介護、在宅看取りまで連携したサービスを提供できる専門機関「つくしんぼ会」を設立。職種間の垣根を越えて自由に議論できる環境作りに努め、治療介護計画を立案し実践する体制を構築。患者に寄り添う医療を実践する。著・監修書『身近な人の突然死・寝たきりを防ぐ心臓と脳の正しいケア』(自由国民社)など。

イラスト/小迎裕美子 取材・文/山村浩子


