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50代が「老後はのんびり」と夢想してはいけない理由

嫌われ者であるはずのストレスが、実は健康や成長の糧になる──ストレスを味方につけるという考え方をお伝えしてきた本連載も、今回が最終回。そろそろ老後のことも頭をよぎる50代、「仕事をやめたらのんびりしたいな」と考える人も多いのでは? 人生100年時代、ストレスを健康長寿に生かす方法を伊藤裕先生に教えていただきました。

老後のストレスは健康長寿のカギ

ストレスは早死にを招く──こう思い込んでいる人は多いのではないでしょうか?
ところが「健康な長寿者は、案外ストレスの多い生活を送っているようです」と伊藤裕先生。

 

「私が所属する慶應義塾大学医学部には『百寿総合研究センター』という、100歳以上の方を研究する機関があります。そこでの調査では、栄養状態がよく、免疫力が高い人が長生きをする傾向が見られました。

さらに生活についてヒアリングしたところ、活発に立ち働いていたり、いわゆる『ストレスフルな生活』を送っている人が多いこともわかりました。

 

また、私が理事を務める日本抗加齢医学会で2005年に100歳以上の方にインタビューしたことがあります。その中には、教師、学者、お茶やお花の指導者など、いわゆる『先生』と呼ばれる人が多くいました。
『先生』と呼ばれる立場の方々では、人前に出たらシャンとしていないといけない、いい加減なことはできない、といったプレッシャーが自分自身に与えられ、自分を律する力がストレスとしていい方向に働いているのかもしれません。

 

『ブルーゾーン』という言葉をご存じでしょうか?

100歳以上の健康長寿者が多い地域のことを指すのですが、日本の沖縄、海外ではイタリアのサルデーニャ島、米カリフォルニア州のロマリンダなど世界に5カ所あるといわれています。

 

体の特性上、もともと女性のほうが男性より長生きしやすい傾向があります。実際に沖縄の百寿者は女性のほうが多い。
ですが、その他の地域では男女比が1:1なのです。
この理由として私が考えているのは、男女のコミュニケーション力の違いです。

 

あくまで傾向ですが、女性はコミュニティを形成しておしゃべりしたり出かけたり、何歳になっても友達や周囲の人と関わっている方が多い。
一方で日本の男性は、仕事一辺倒で生きてきて、いざ退職して老後を迎えると地域に友人がいない。そこから作ろうと思ってもプライドもあってなかなかうまくいかないという場合が多いようです。

 

それと比べると、海外の方は男女関係なくコミュニケーションを取るのが上手な方が多い。だから男性も女性も長生きする。

人間関係はさまざまなストレスのもとですが、煩わしさや悩みを感じながらも人とかかわっていくことは、心身の健康維持と幸福感のカギなのです」

 

記事が続きます

趣味だけに生きないで、仕事を続けよう

今が猛烈に忙しい人なら、老後は何もしないでゆっくりしたいと思うかもしれませんね。

でも健康的な長生きを目指すなら「できるだけ仕事は続けたほうがいい」と伊藤先生。

老後はのんびりせず働く方がよい

 

「なにも正社員で、今と同じペースで、というのではありません。
アルバイトでもパートタイムでも何でもいいのです。責任者という立場ではなくても、仕事をしている以上はどんな仕事であれ自分の持ち場には責任が生じます。

 

よく『好きなことだけやって生きていきたい』という方がいます。
でも、例えばフラワーアレンジが趣味だとして、ただ習うのと、仕事として教える立場でいるのと、どちらが緊張感を持って過ごせるでしょうか?

 

責任が何もないのは、ストレスがない代わりに、その恩恵を受けることもありません。

繰り返しになりますが、緊張感でストレスがずっと続くことがいけないのであって、ストレスそのものが悪いわけではないのです。

それでも、趣味があって人との交流がある分、引きこもって生活をするよりはマシですが」

 

夫やパートナーなどの老後が心配な人は、地域の活動をすすめてみるといいそう。

「友人が多かったり趣味があるという人はそのままでいいですが、あまりかかわる人がいない男性の場合は老後に注意です。

そういう人には、町内会の役員やマンションの管理組合の仕事などを、どんどんやってもらいましょう。

責任も生じますし、本来なら付き合うことがあまりないような相手と折衝したり、クレームや意見を受け付けたり、というのはなかなかストレスの多いことでしょう。
でも結果的にはそのストレスが心身にハリを生んで、充実した老後を過ごせると思いますよ」

 

 

【教えていただいた方】

伊藤 裕
伊藤 裕さん
医学博士

慶應義塾大学名誉教授、同大学予防医療センター特任教授。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。1983年京都大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、スタンフォード大学で博士研究員。京都大学医学部助教授を経て、慶應大学医学部にて教授、2023年より現職。著書やメディア等でホルモンの仕組みや体の働きなどをわかりやすく解説。著書多数。

 

イラスト/ツルモトマイ 取材・文/遊佐信子

 

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伊藤裕先生の話題の著書はこちら

『なぜストレスフルな人がいつまでも若いのか』書影

 

 

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