「がん家系」だけじゃない本当のリスク
こんにちは。斎藤糧三です。
「機能性医学」を専門に、日本機能性医学研究所の所長を務め、表参道のクリニックで診療しています。
昭和の時代、「うちはがん家系だから」と肩を落とす方がたくさんいましたね。
でも、国立がん研究センターの最新データを見ても、がんの9割は生活習慣や環境要因がカギを握っています。がんの種類にもよりますが「遺伝性腫瘍」は5〜10%程度にすぎません。
がんを「運命」で片づけてしまうのは、もったいない時代になりました。

がんリスクを高める生活習慣とは?
がんになるリスクを上げてしまう生活習慣、環境とはなんでしょう? 「自分には関係ない」と思いがちなことも、じわじわとリスクにつながっていることが多いかもしれません。
実はもうかなり確実なことが発表されていて、国立がん研究センターでは次のような生活習慣が要注意とされています。
がんリスクを上げる主な生活習慣・要因(国立がん研究センターHPより)
【1】喫煙(受動喫煙も含む!)
【2】飲酒(女性は男性よりも飲酒の影響を受けやすい)
【3】塩分のとりすぎ・野菜不足・熱すぎる飲み物や食べ物
【4】運動不足(普段あまり体を動かさない)
【5】肥満・痩せすぎ
【6】感染症対策(ピロリ菌やウイルスなど)をしていない
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「家族の習慣」が「家族の病気」につながる
親や祖父母、親戚にがんになった人が多いと、つい遺伝と思いがちです。でも自分たち家族自身で作られるリスクも大きいんです。体質や遺伝だけじゃなく、家族ぐるみの習慣が根っこにあるということ。
例えば…
◎子どもの頃から家族そろって濃い味、脂っこいものが好き
◎食事は炭水化物中心、野菜が少なめ
◎夕食後にみんなで晩酌やお菓子を食べる
◎運動はあまりしない、休日は家でゴロゴロ
◎近所の買い物にも車で行く
◎親も子も夜ふかしが当たり前…
◎家族で箸やコップを使い回す(ピロリ菌感染リスク)

こうした長年の家族の生活パターンは、大人になっても「当たり前」として続きがち。家を出たり、結婚したあとも「実家のクセ」って、意外としぶとく残るものです。
「遺伝性がん」はごく一部。ただし、乳がんは例外も
もちろん「遺伝で起こるがん」もゼロではありません。
BRCA1・BRCA2遺伝子の変異による乳がん・卵巣がんなどは代表例。家族に、若くして乳がんや卵巣がんになった人がいる場合は、ぜひ専門医に相談してくださいね。
ただし、多くのがんは「遺伝」よりも「習慣・環境」が決め手ということを忘れないで。
ピロリ菌やHPV(ヒトパピローマウイルス)など、感染症が発端となる胃がん・子宮頸がんは、ワクチンで予防できる時代です。最近では、HPVワクチンが子宮頸がんだけでなく咽頭がんのリスク軽減にも効果が期待できることもわかってきました。
これまで「運命」と思われてきたがんも、令和の今は「自分で守る」選択肢がぐっと増えているってことです!
睡眠不足と乳がんの意外な関係
そして今や、日本人女性の9人に1人が乳がんを経験する時代。しかも、欧米では発症率が減少傾向なのに、日本ではまだ増加傾向です。身近なリスクだからこそ、「家系」だけに縛られないアップデートが必須!
乳がんリスクに大きくかかわる生活習慣のひとつ、それは「睡眠不足」です。
東北大学が宮城県の女性約2万4000人を7年間追跡した大規模調査(2008年British Journal of Cancer誌)では、
平均睡眠時間6時間以下の女性は、7時間以上の女性に比べて乳がん発症リスクが約1.6倍になることがわかっています。
睡眠は「美容」だけでなく健康の根っこ。侮れません。

「座りっぱなし」が乳がんを呼ぶ!
もうひとつ見逃せないのが、「座っている時間の長さ」。
京都府立医大などぼ研究チームによる大規模な調査でも、1日7時間以上座っている女性は、座る時間が7時間未満の女性に比べて乳がんの発症リスクが有意に高くなることが明らかに。海外の研究でもこの傾向は共通していました。
デスクワークや車生活が当たり前になった今、「座りっぱなし」は新しいリスクともいえそうです。こまめに立ち上がる・できるだけ歩く、という習慣、ぜひ意識してみてください。
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【令和時代の乳がん対策、ここに注目!】
■ 睡眠は7時間以上をキープ
■こまめに動く! 座りっぱなしを避ける
■定期検診やセルフチェックを忘れずに
■食事・運動・体重管理も意識
■家族歴が気になる人は、遺伝子検査や専門医に相談も
■まとめ■ 令和の常識はこれ!
昭和の常識:がんは家系で決まる。仕方がない
↓
令和の常識:がんの主な原因は生活習慣や環境!遺伝性はごく一部
がんは「変えられるリスク要因」もたくさんあります。家族歴であきらめないで! 今日の選択が未来を変えます。
【教えていただいた方】

1973年生まれ。日本医科大学卒業後、産婦人科医に。その後、美容皮膚科治療、栄養療法、点滴療法、ホルモン療法を統合したトータルアンチエイジング理論を確立。2008年「日本機能性医学研究所」を設立(2009年に法人化)。2017年、スーパーフードとしての牧草牛(グラスフェッドビーフ)の普及を目指し、日本初の牧草牛専門精肉店「Saito Farm」をオープン。2022年、機能性医学と再生医療を融合させた治療拠点として「斎藤クリニック」を開設。著書に『サーファーに花粉症はいない』(小学館)、『糖質制限+肉食でケトン体回路を回し健康的に痩せる!ケトジェニックダイエット』(講談社)、『病気を遠ざける! 1日1回日光浴 日本人は知らないビタミンDの実力』(講談社+α新書)ほか多数。斎藤クリニック、Saito Farm
イラスト/小迎裕美子 取材・文・画像制作/蓮見則子



