(PHOTO/Richard Tao on Unsplash)
自分でコントロールすることができない、睡眠中の姿勢(寝姿勢)や寝相。
「気づいたら、いつも横向き寝やうつ伏せ寝になっている」
「最近、寝言が多い」
「寝ているときによく動く」
こんな自覚症状や、家族からの指摘はありませんか?
もしかしたら、そこに不調が隠れている可能性があるかもしれません。
どんな不調が寝姿勢から推測できるのか、整形外科医の山田朱織先生と、睡眠専門医の坪田聡先生にお話をききました。
♦寝姿勢で疑われる、代表的な3つの不調
パターン①
「気づくと横向きやうつ伏せ姿勢で寝ていることが多い」
↓
疑われる不調:睡眠時無呼吸症候群(SAS)
上を向いて寝られない場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の疑いが考えられるそう。
「SASは肥満による喉まわりの脂肪で空気の通り道である上気道が狭くなったり、生まれつき舌が大きい、あごが小さいといったことなどが原因で、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる無呼吸状態が起こる病気です」(山田先生)
「SASの人は、あお向けに寝ると息が詰まってつらいと感じる人が多く、気がつくと横向きやうつ伏せの姿勢をとっていることが多いです」(坪田先生)
でも最近は、こんな驚きの実験結果も。
「実験により、SASの患者さんでも適切な枕を使えば、寝返りを打って上を向くことができるようになるし、上向きの姿勢でも無呼吸になりにくい傾向があるとわかってきました」(山田先生)
また四十肩などで肩が痛い場合、痛いほうが下だと寝られないので、反対側の肩を下にして寝る人も多いのだそう。
この四十肩も、適切な枕を使っていれば、痛いほうの肩を下にして寝ても痛くならないため、自然に寝返りができるようになるのだとか。
第一回目でご紹介したように、寝返りは睡眠中に「体液を循環させる」「体温を調節する」「姿勢のリセット」という大事な役割があります。
そのためにも自分に合った枕を使うことで、自然な寝返りを妨げないことが大切です。
パターン②
「寝言や寝ている間の動きが激しい」
↓
疑われる不調:レム睡眠行動障害
寝言が多い、寝ている間の動きが激しい、という場合はレム睡眠症候群が疑われるそう。
「睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があります。
レム睡眠は夢を見ているときの睡眠ですが、通常、睡眠中は脳から体につながる運動神経がブロックされていて、夢で見ている通りに体は動かない仕組みになっています。
そこがうまくいかない場合、レム睡眠中に激しく体が動いてしまうのです」(坪田先生)
レム睡眠行動障害の原因ははっきりしていませんが、パーキンソン病やレビー小体型認知症の前触れとして現れるケースも。
これらは50代以降の男性が発症することが多く、定年退職した男性のいびきが大きくなったり寝言が増えてきて、動きが激しくなって家族が気づく、というパターンが多いのだとか。
「例えば、戦っている夢を見たら実際に体を動かして隣で寝ている人を殴ってしまうとか、走っている夢のときは寝ているにもかかわらずベッドから立ち上がって動き出し、それによりベッドから落ちて骨折をしてしまう、という場合も。
さまざまな弊害が出てくる怖い病気です」(坪田先生)
危険につながる可能性もあるので、気になることがある人は睡眠専門医に相談をしましょう。
パターン③寝姿勢が安定しない
疑われる病気:むずむず脚症候群
睡眠中、ひっきりなしに脚がもぞもぞ動いてしまうのが、「むずむず脚症候群」。
「じっとしているときに、脚に異常な感覚が起こり、寝ている間にも脚に違和感があるため、自然と脚を動かさずにはいられなくなるのです。
むずむずした感じのほか、ほてる、虫が這う感覚がある、という人もいます」(坪田先生)
脚を動かしてしまうので必要以上に寝返りを打ってしまったり、脚がむずむずしたりぴりぴりする、かゆいといった感覚があり、目が覚めやすい状態になるこの病気。
寝ても睡眠の質が悪くなるので、熟睡感が得られないというケースも多いそう。
また、睡眠中に四肢の運動異常が起きる「周期性四肢運動障害」も、むずむず脚症候群と合併しやすい病気なのだそう。
こちらも睡眠が妨げられてしまう病気です。
「むずむず脚症候群の場合、よく寝られないからといって自己判断で市販の睡眠改善薬を飲むと、よりつらくなるといわれています。
思い当たることがあれば、一度睡眠の専門医に相談してみたほうがいいかもしれません」(坪田先生)
◆40代~50代は睡眠の曲がり角! 今こそ行動すべきとき
これらの兆候に当てはまるわけではないけれど、年を重ねるにつれ寝ても疲れが取れず、よく眠れなくなっている気がする…。
「そんな人は、もしかしたら若い頃から寝具が合っていなかった可能性があります。
若い頃は寝具が合っていなくてもある程度リカバリーできてしまうけれど、年齢を重ねるうちにそうはいかなくなってきます」(山田先生)
だからこそ、自分に合った寝具選びが重要なのだそう。
「自分に合った枕やマットレスを使っていれば、寝ているときにいい姿勢がとれて、日中生じた姿勢の歪みやくずれもリセットされます。
そのため、起きたあとの体調もよくなります。
健康な人はもちろんのこと、頸椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった整形外科的な病気がある人はなおさら、寝ている間の姿勢を注意しなければなりません。
」(山田先生)
山田先生によると、40代~50代は睡眠の曲がり角。
今のうちに自分に合った寝具で睡眠中に姿勢のリセットをしておかないと、この先さらに年齢を重ねたときにつらい思いをしかねません。
また、寝ている間に姿勢をリセットすることに加えて、起きているときも姿勢を正すエクササイズをすることで、姿勢は段違いによくなるそう。
そこで、日中に行うといい簡単エクササイズを山田先生に教えていただきました。
◆3秒エクササイズで日中の姿勢をリセット
1.肩幅に脚を開く
脚を肩幅程度に開き、両手を下ろして力を抜きます。目線は10度くらい落とします。
2.胸を起こす
背すじを伸ばして胸を起こします。きちんと起こせているかわからない場合は、鎖骨と鎖骨の間に親指と中指を当てて引き下ろしてみましょう。または手のひらを鎖骨の下に当て、下へ引っ張るようにしてみます。
3.胸を開く
胸を横に開きます。お腹を引き込むと同時に肛門を締めて、お腹が出たり反り腰にならないように注意しましょう。
うまく肛門を締めることができない人は、お尻の左右の肉を真ん中にぎゅっと寄せるようにしてみましょう。
慣れれば3秒でできるこのエクササイズは、思いついたときこまめにやることが大切です。
「家事をするときだったら、掃除機をかける、台所で洗い物をする、など作業がひとつ終わったら1回行ってみてください。
仕事中にはトイレに立ったときはもちろんのこと、椅子に座りながらでもできるので、同じ姿勢をずっととっているなと思ったら、そのつどやってみて」(山田先生)
山田先生は患者さんにエクササイズを指導する際にご自身でも行うほか、クリニック内を移動するときなどちょっとした時間にも積極的に行っているそう。
姿勢が悪いと、体に負担をかけるだけではなく、見た目もぐっと老けた印象になってしまいます。
そうならないためにも、ぜひこの3秒エクササイズを習慣にしませんか。
〈教えていただいた方〉
1963年生まれ。雨晴クリニック院長。睡眠専門医として30年以上現場に立ち続ける。日本睡眠学会に所属。ヘルスケア・コーチング研究会代表世話人も務める。医師として診療にあたるうちに、睡眠障害がほかの病気の発症や経過に深く関係していることに気づき、睡眠障害の治療を開始。その後治療から予防に重点をシフトし、睡眠の質を向上させる指導や普及に尽力。2005年に生涯学習開発財団認定コーチを取得。『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)ほか著書多数。
取材・文/倉澤真由美