(PHOTO/Andrew Seaman on unsplash)
Q.「私は左向き寝でないと入眠できないのですが、毎晩連続して行うと、体によくないですか?」(52歳)
A.入眠時の姿勢がずっと続くわけではありません。
「おそらくですが、この方は布団に入ったときから朝までずっと左向きで寝ているわけではないと思います。
前に山田先生からお話があったように、寝返りは生理現象ともいえるもの。
入眠時は毎回左向きでも、眠っている間にちゃんと寝返りを打って動いていれば、入眠時の姿勢がいつも同じでも特に問題ありません。
寝つきをよくすることは大事なので、もし寝るときに左向きになっているほうが落ち着くというのであれば、それでかまいません。
気にしなくていいと思いますよ」(坪田先生)
とはいえ、いつも同じ方向で入眠していると、体が歪むなどの心配はあるのでしょうか。
「歪みに関しても、やはり寝返りができていれば、特に気にしなくていいと思います。
でも、偏って寝ていると感じるのであれば、ストレッチングをするのがおすすめです。
起きたときに、上半身をあお向けにしたまま、下半身を左右にねじるストレッチをしましょう。
左右が同じくらい動くよう整えるといいですね」(坪田先生)
Q.「あお向け寝をしていても気づくと右向き寝になっています。これは体に隠れた不調があるなど、何か理由があるのでしょうか」(49歳)
A.寝返りをしていれば向きは気にしなくてOKですが、向きにより楽になる症状も。
こちらの悩みも、「睡眠中にしっかり寝返りができているのであれば問題ありません」と坪田先生。
ただし、寝る向きによって内臓の負担を減らすことができるなどといったこともあるそう。
「全身を循環した血液は、心臓右上の右心房に戻ってきます。
そのため、右を下に寝ると重力の影響で血液が心臓に戻って来やすく、心臓の負担を軽減することができるといわれています」(坪田先生)
また整体サロンなどでは、左を下にして寝ると便秘対策になる、右向き寝はむくみが取れやすい、と紹介している場合もあるようです。
「横行結腸というお腹を横切る腸がありますが、これは右から左に内容物が流れていきます。
そのため、左を下にすると重力に従って内容物が流れやすく、便が流れやすく便秘解消につながるとされています。
また、左鎖骨の下あたりに太いリンパ管があり、左向き寝をするとリンパの流れがよくなるためむくみが取れやすいのかもしれませんね」(坪田先生)
◆柔らかすぎる枕で横向き寝すると、こわばりやしびれの原因に!?
山田先生や坪田先生がおっしゃるように、入眠時の向きはあまり気にしなくても大丈夫なようですが、横向き寝で特に気をつけたいのが枕の硬さ。
山田先生によると、柔らかすぎる枕で寝てしまうと、さまざまな不調を呼んでしまうのだそう。
「横向きで柔らかい枕を使うと、頭が沈みすぎて首の角度が非常に悪くなってしまいます。
すると首の中に通っている神経を圧迫することに。
また、首の神経を取り巻く骨や椎間板の状態は加齢とともに悪くなることが多いです」(山田先生)
OurAge世代は、骨や椎間板という大事な部分も調子が悪くなってくる世代。
40代後半から椎間板の水分が減少したり弾力性が低下したりして働きが悪くなり、50代からは骨量が減少するケースが増えてきます。
「そんなところに、自分に合っていない寝具を使うことで神経を圧迫すると、悪条件が重なり、結果、手のしびれやこわばりが出やすくなってしまいます」(山田先生)
気をつけたいのが、世代的にも、「更年期だから不調なんだ」「更年期だから仕方がない」と更年期のせいにして、寝具が合っていないゆえの不調だと気づかないこと。
もしかしたらその不調は寝具を整えれば緩和されるかもと考えて、一度枕やマットレスを見直してみるといいかもしれません。
◆横向きで寝るときは、体の中心を床と平行に
自分に合った寝具が選べていれば、横向きに寝ているときは下のイラストのように体の中心線が床と平行になるのだそう。
この状態だと健康な人がスムーズに寝返りを打てるのはもちろんのこと、力が弱くなってきた高齢者でもラクに寝返りが打てるというから驚きです。
「肩が痛い、膝が痛いなどの不調があると、つい肩の下に何か敷いたり、膝の下にミニクッションを入れたり、抱き枕を使ってみたり。
何かをプラスしてつらさを逃れようとしてしまいますが、これは間違っています。
肩が痛いからと肩の下にタオルを敷いて緩衝材にしようとすると、体の軸が歪んで、かえってそのタオルが肩を圧迫して痛みを招いてしまいます。
抱き枕やクッションなども、適切な寝返りを妨げるので、これも痛みの元になりかねません。
シンプルに寝姿勢を整えること。
これこそが、痛みを軽減し体をメンテナンスすることにつながります」(山田先生)
〈教えていただいた方〉
1963年生まれ。雨晴クリニック院長。睡眠専門医として30年以上現場に立ち続ける。日本睡眠学会に所属。ヘルスケア・コーチング研究会代表世話人も務める。医師として診療にあたるうちに、睡眠障害がほかの病気の発症や経過に深く関係していることに気づき、睡眠障害の治療を開始。その後治療から予防に重点をシフトし、睡眠の質を向上させる指導や普及に尽力。2005年に生涯学習開発財団認定コーチを取得。『女性ホルモンが整う オトナ女子の睡眠ノート』(総合法令出版)ほか著書多数。
取材・文/倉澤真由美 イラスト/シギハラ・サトシ