女性ホルモンが減少する更年期世代から、血管の老化が始まります。60歳を過ぎると、それがさらに加速します。予防するには、上手に脂質コントロールをすることが大切です。
天野惠子さん Keiko Amano
1942年生まれ。女性内科医師。静風荘病院特別顧問。
日本における「性差医療」のスペシャリスト。
診療は完全予約制で、初診は30分以上かけて丁寧に行うなど、
医療に対する真摯な姿 勢に定評が
中性脂肪やコレステロールを
適正に保つことが大切です
「コレステロール値を下げよう…といった言葉をよく聞くことから、中性脂肪やコレステロールは悪者のように思われています。しかし、コレステロールはタンパク質や糖質と並ぶ、3大栄養素の脂質の一種で、生命維持に欠かせないものです」と天野惠子先生。
人間の体にある約37兆個の細胞の細胞膜の材料になり、ウイルスなどの侵入を防ぐ働きをしています。コレステロールが少なすぎると細胞膜が弱くなり、免疫力が低下して、血管がもろくなります。体内にあるコレステロールの1/4は脳にあり、脳の神経細胞や神経線維も保護しています。ほかに、さまざまなホルモンや脂肪の吸収を助ける胆汁酸、骨を丈夫にするビタミンDの原料にもなります。
「しかしながら、コレステロールや中性脂肪が増えすぎると、血液の流れが悪くなり、血管に悪影響を与えます。血管の健康を維持するためには、適正にコントロールすることが大切です」
摂取した栄養はエネルギー源として使われます。しかし、そこで余った分は中性脂肪やLDLコレステロールに。栄養の偏りや運動不足が続くと、脂質異常と診断されることもあるので要注意!
女性ホルモンの減少で
動脈硬化が進みます
女性ホルモンが低下する更年期頃から注意すべきことに、「血管の老化」があります。女性ホルモンであるエストロゲンは自律神経を整えたり、骨や皮膚、脳の健康に関係しています。さらに、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を抑え、HDL(善玉)コレステロールを増やし、血管壁の柔軟性を保つ働きもしています。
「更年期からは、こうした女性ホルモンがもたらす恩恵がなくなるため、急速にLDLコレステロールや中性脂肪が増え、HDLコレステロールが減り、血管の硬化が進みます。こうなると、LDLコレステロールが血管の内壁にたまり、ドロドロの粥(かゆ)状のプラークに。血液の流れが悪くなり、さらに動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクがぐんと高まります」
このように、女性の血管の加齢変化にエストロゲンが大きく関係しているわけです。ですから特に閉経後は意識的に、血管のケアをしていく必要があります。
次回は、中性脂肪やコレステロールの新しい基準範囲や、簡単に取り組める脂質コントロールの方法などをご紹介します。
イラスト/坂田優子 取材・原文/山村浩子