女性も知っておきたい「男性更年期」について知る連載。第2回は、男性ホルモン「テストステロン」についてです。男性更年期の原因となるのは、テストステロンの減少ですが、このホルモンにはどんな働きがあるのでしょうか。
【教えていただいた方】
低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢医学会理事など。前立腺がん、腎臓がんのロボット手術などから、男性更年期などまで、泌尿器科で扱う幅広い診療内容に長けたエキスパート。 市ヶ谷ひもろぎクリニックでは男性更年期外来を担当
テストステロンは、脳の視床下部からの指令で、おもに精巣で作られる
女性の更年期が女性ホルモン「エストロゲン」の減少によって起こるように、男性の更年期は、男性ホルモン「テストステロン」の減少が原因で起こります。そこで知っておきたいのが、テストステロンとは、どんなホルモンなのかということ。
「男性ホルモンのテストステロンは、女性にとってのエストロゲンのようなもので、男性を男性らしくするために必要なだけでなく、男性の体を守る働きがあります。テストステロンは、脳の視床下部からテストステロンを作れという指令が出されることで、おもに精巣で作られます。そのほかに、記憶を司る部分である海馬でも作られることがわかっています」(井手先生)
↑テストステロンには、男性らしい体格を作り、性機能を高める作用がある
「テストステロンには、筋肉量を増やしたり、太い骨格を作ったり、体毛を増やしたりといった男らしい体を作る作用や、性機能を向上させる作用があります。また、造血作用や、抗炎症作用、動脈硬化を防ぐ作用のほか、最近では認知機能にも関わっていることがわかっています。
さらに、テストステロンの作用はメンタル面にも大きな影響があります。テストステロンは“社会性のホルモン”とも呼ばれ、活動量を高めたり、意欲やチャレンジ精神を高めたり、社会貢献の気持ちを高めたり、集中力ややる気を高めたりする作用があります。
また、面白いところでは、テストステロンは、嘘をつかないことにも関係しています。誰も見ていない状況下でサイコロを振ってもらい、1なら1000円、6なら6000円と、出た目の大きさに応じて賞金がもらえるという実験をしたところ、テストステロンを投与されたグループより、投与されなかったグループのほうが嘘の申告をしたという結果があります。テストステロン濃度が上がると、嘘をつかない人が増えたのです。テストステロンが高いと正直で、公平・公正になるのに対し、テストステロンが低いと、嘘つきで公平・公正さのない、いわゆる“悪代官”のようになりやすくなります」
テストステロンのおもな作用
・筋肉と骨を強くする
・体毛を増やす
・性機能を高める
・造血作用
・動脈硬化を防ぐ
・抗炎症作用
・認知機能を高める
・意欲やチャレンジ精神を高める
・社会貢献精神を高める
・集中力、やる気を高める
・正直になる
多くの人がイメージする“できる男”は、テストステロンが高い人
このように、テストステロンには、男性性を高めるさまざまな作用があり、男性の魅力にも大きく関わっているそう。
「一般的に、“できる男”といわれる男性は、年収が多い、女性にもてる、スポーツ万能、性機能が高い、健康寿命が長いといった条件を兼ね備えていますが、これはまさに、テストステロンが高い人のことです。
実際に、イギリスの証券会社で働く男性の年収とテストステロンの値を調べた調査では、テストステロンの濃度が高い人のほうが年収が多いことがわかっています。また、アメリカの研究では、女子大生にテストステロンの高い人と低い人の顔写真を見せる実験をしたところ、テストステロンが高い人のほうを選ぶ人が多かったという報告もあります」
テストステロンは、女性の体でも分泌されている
ちなみに、テストステロンは女性の体でも分泌されているそう。
「女性の体でもテストステロンは分泌されていて、その値の高い女性はアグレッシブになります。女性の場合は、閉経前はテストステロンはおもに卵巣で作られ、閉経後は副腎で作られます。そして副腎で作られるテストステロンは、アロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換されます。ですから、閉経後もエストロゲンは完全にゼロになるわけではないのです。ただし、アロマターゼの活性機能は、高い人もいれば、低い人もいます」
このようにさまざまな働きがあるテストステロン。男性の体でこれが減ってしまうことで、男性更年期障害=LOH症候群が生じます。
「テストステロンは、加齢だけでなく、ストレスや飲酒、睡眠不足、肥満などによっても減少するので、男性更年期の症状が出る年齢は人によって違います。40代以降の男性なら誰にでも起こる可能性はあるので、女性にもぜひ知っておいていただきたいですね」
次回は、このLOH症候群について、詳しくご紹介します。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/和田美穂