男性の更年期障害「LOH症候群」は、病院で治療できるので、放置せずに治療をするのが賢明。でも何科を受診すればいい?どんな治療をするの?…そんな素朴な疑問に、泌尿器科医の井手久満先生に答えてもらいました。
教えていただいたのは
低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢医学会理事など。前立腺がん、腎臓がんのロボット手術などから、男性更年期などまで、泌尿器科で扱う幅広い診療内容に長けたエキスパート。 市ヶ谷ひもろぎクリニックでは男性更年期外来を担当
LOH症候群を疑ったら泌尿器科か専門外来へ
Q.LOH症候群が疑われる場合は、何科に行けばよいのでしょうか?
A.泌尿器科を受診しましょう。または、最近、医療機関によってはLOH症候群を専門的に診療している「メンズヘルス外来」や「男性更年期外来」を設けているところもあるので、そういったところならよりよいですね。
日本メンズヘルス医学会のホームページには、全国にあるメンズヘルス外来が掲載されているので、近くにないか調べてみるのもおすすめです。
Q.LOH症候群かどうかを診断するには、病院では、どんな検査を行うのでしょうか?
A.診察では問診票やAMSスコアの記入をいただいたうえで、採血をしてテストステロンの値を調べます。AMSスコアが50点以上で、血液検査で総テストステロン値が250ng/dl以下、遊離型テストステロンの値が7.5pg/ml以下であればLOH症候群と診断されます。最近は、唾液でテストステロンの値を調べる方法も登場しています。
Q.LOH症候群と診断された場合、どんな治療をするのですか?
A.女性の更年期治療では女性ホルモンを補充しますが、それと同じように、LOH症候群の治療の基本は、テストステロンの補充です。方法は、筋肉注射と、軟膏やゲル剤などの塗り薬があります。血液検査でテストステロンの値が著しく低下している場合は保険が利くこともありますが、自費の場合もあります。クリニックで検査をしたうえで、事前に確認してみましょう。
また、もうひとつの治療法が漢方薬です。テストステロンを増やす効果がある「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」という漢方薬を用いることが多いです。だるい、気力が出ない、疲れやすいなどの症状に特に効果的です。
そのほか、食事や運動などの生活指導も並行して行います。私の経験では、これらの治療で、8〜9割の患者さんの症状が改善していきます。
LOH症候群のおもな治療法
・テストステロン補充療法
・漢方薬
・生活習慣の指導
Q.テストステロン補充療法には、副作用はないのでしょうか?
A.テストステロン補充療法は、テストステロンが少ない人にホルモンを補う方法なので副作用はほとんどありません。ただし補充量が多いと、血液の濃度が上がる多血症を引き起こすことがあります。また、長期間補充すると、精子を作る機能が抑制され、不妊を招くことがあります。
そのため子どもを希望する人に対しては、女性ホルモンの一種で、テストステロンの分泌を促す作用があるHCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)を投与します。医師の指導のもとに治療を行えば、危険性はありません。
現代人にとってホルモン補充療法は重要な選択肢
ホルモン補充療法というと抵抗を感じる人も少なくないかもしれませんが、現代人にとっては重要な選択肢だと井手先生は話します。
「大昔の狩猟時代には、人間は30歳ほどで亡くなっていました。男性ホルモンや女性ホルモンが減って生殖能力が失われると、人は死んでいたのです。ところが、現代では医療の進歩や食事や衛生状態の改善などによって寿命が延び、人生100年時代となっています。
現代は高齢になっても働かなくてはいけない時代なので、元気でいないと社会も成り立ちません。そのためにも、失われたホルモンをいかにリカバーするかが大事で、老化も“病気”ととらえて、なるべく緩やかにすることが望ましいです。
男性ホルモンや女性ホルモンが減ると生活の質も下がってしまいます。ですから男性も女性も必要に応じてホルモンを補うことは、現代人にとって重要な選択肢だと思います」(井手先生)
Q.LOH症候群を改善するための生活指導としては、病院ではどんなことがすすめられるのでしょうか?
A.更年期の男性は肥満になりやすく、3人に1人はBMI(肥満度を表す体格指数で、体重(kg)÷身長(m)²で算出する)が25以上ともいわれています。肥満になると、テストステロンの分泌量が減ることがわかっているので、ウォーキングなどの運動を習慣にすることや、お酒の飲みすぎや、脂っこいものの食べすぎなどといった太りやすい食事の改善をすすめます。
運動して筋肉を使えばテストステロンが増えることがわかっているので、筋トレなどもおすすめです。また、睡眠不足やストレスでもテストステロンは減ってしまうので、十分な睡眠をとり、ストレスを発散できるようなことを生活に取り入れることも指導します。
次回は、パートナーがLOH症候群になったときに、自分にできることについて詳しくご紹介します。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/和田美穂