閉経以降は卵巣腫瘍や腫れに要注意
更年期以降、卵巣に腫瘍がある人は注意が必要と前回伺いましたが、40代以上の女性で、卵巣の腫瘍や腫れがあると言われている人は、私の周りにもいます。良性の腫瘍と診断されていても、注意すべきなのでしょうか?
「更年期以降、特に50歳以降の卵巣腫瘍(卵巣の子宮内膜症のチョコレート嚢胞も含む)は、以前に良性と言われていても注意すべきです。過去の検査で良性であっても、悪性に変化する種類のものもあるからです。特に閉経後に発生した卵巣腫瘍は、半数近くが悪性というデータもあります。一般に卵巣の腫瘍は大きいほうが、がん化のリスクが高いのですが、小さくても卵巣がんだった例もあります。
卵巣腫瘍のある人が異常を早く見つけるには、婦人科での経腟超音波検査が有効です。卵巣に腫瘍があると言われたことがある方は、閉経しても、油断しないで定期的に検査を受け、状態によっては手術で切除したほうが安心です。40歳以上で大きくなっていくチョコレート嚢胞(卵巣の子宮内膜症)を持っている人、50歳以上や閉経後の卵巣腫瘍がある人は、摘出することについて担当医と相談して、指示に従うことをおすすめしたいです」(上坊敏子先生)
閉経して、卵巣や子宮の仕事は終えたから安心、と思ってはいけないですね。更年期以降も年1回程度は婦人科検診を受けて、経腟超音波で卵巣や子宮の状態を診てもらうことは忘れないようにしたいです。
「そのとおりだと思います。また、もしも子宮筋腫などの手術を受けるときには、卵巣を温存する(残す)ことも多いと思いますが、卵巣は温存しても卵管を摘出しておくと、卵巣がんの予防につながります。卵管にできたがんが卵巣に転移して、卵巣がんにつながるという最近のデータがあるからです」
卵巣がんの1割が遺伝性。HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)とは?
卵巣がんには、遺伝性のものもあるといわれていますが、どのような場合、遺伝性に気をつけたらよいでしょうか?
「卵巣がんの約10%は遺伝性です。血縁に乳がん、卵巣がんなどの方が複数いらっしゃる場合は、HBOCの可能性があります。遺伝性での卵巣がんで代表的なものが、BRCA1、BRCA2遺伝子に病的変異があるHBOCです。HBOCの可能性がある方のチェックリストを紹介します」
【HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)のチェックリスト】
あなた自身を含めた血縁者の中に下記に1つでも該当する人がいる場合は、HBOCである可能性が高いと考えられます。
□がん発症の有無にかかわらず、血縁者にBRCA1、BRCA2遺伝子の検査で病的異変があると診断された人がいる
□ 自身が乳がんと診断され、かつ以下のいずれかに該当する
・ 45歳以下で乳がんと診断された
・両側の乳がん(同時性あるいは異時性)と診断された
・ 片方の乳房に複数回乳がん(原発性)を診断された
□ 60歳以下でトリプルネガティブの乳がんと診断された
□血縁者に乳がん、または卵巣がん、すい臓がんと診断された人がいる
□自身が男性で乳がんと診断された
□ 自身が卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
□ 自身がすい臓がんと診断され、かつ以下のいずれかに該当する
・血縁者に乳がんまたは卵巣がん、前立腺がん、すい臓がん、悪性黒色腫のいずれかと診断された人が二人以上いる
・「がん遺伝子パネル検査」で、BRCA1、BRCA2遺伝子の病的変異を生まれつき持っている可能性があるという結果が出た
*近い血縁ほど、遺伝情報を共有している割合が大きいといえます。
血縁者の範囲/第一度近親者:父母、兄弟・姉妹、子ども(遺伝情報を50%共有する関係)、
第二度近親者:祖父母、おじ・おば、おい・めい、孫、異母・異父の兄弟・姉妹(遺伝情報を25%共有する関係)、
第三度近親者:曾祖父母、大おじ・大おば、いとこ、おい・めいの子ども、曾孫など(遺伝情報を12.5%共有する関係)
参考文献/「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を理解いただくために Ver.2022-1」(JOHBOC)
遺伝性乳がん卵巣がんについてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
遺伝性なら予防的に卵巣・卵管を切除するのも選択肢のひとつ
チェックリストで該当する項目があり、不安な人は、婦人科や乳腺外科で相談し、必要なら遺伝カウンセリング、遺伝学的検査ができる医療機関を紹介してもらいましょう。
「HBOCの診断には、BRCA1、BRCA2遺伝子の遺伝学的検査が必須ですが、乳がんまたは卵巣がんを発症した人は、この遺伝カウンセリング、遺伝学的検査が保険診療で受けられます。
また、もしHBOCとわかった場合、予防的に乳房や卵巣・卵管を摘出する手術を受けるという選択肢もあり、保険診療で受けられる場合もあります。この手術により、卵巣がんに関連した死亡率は95%低下したと報告されています。担当医とよく相談してください。
BRCA1、BRCA2遺伝子に変異があった場合には、子どもに2分の1の確率で変異が伝わります。HBOCの場合は、50~80%が乳がんに罹患、70歳までの卵巣がん発症率は40%以上、卵巣がんも乳がんも比較的若年で発症し、男性乳がんも見られるなどの特徴があります」
低用量ピルは、卵巣がん、子宮体がんのリスク低下に
原因も含めて、わからないことが多い卵巣がんですが、経口避妊薬(低用量ピル)の予防効果が注目されているようですね。
「少なくとも経口避妊薬(低用量ピル)を1年以上服用していた人は、服用中止後も20年以上、卵巣がん、子宮体がんの予防効果の持続が期待できます。
服用期間が長いと、リスクはより低下します。卵巣がんは1~5年間服用で23%、10年以上で50%以上リスクを低下させます。子宮体がんは、4年間の服用で56%、8年間の服用で67%がんリスクが低下します。HBOC家系でも卵巣がんリスクを低下させるというデータもあります」
【教えていただいた方】
北里大学病院教授、社会保険相模野病院婦人科腫瘍センター長を経て現職。産婦人科専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医。著書に『新版 知っておきたい子宮の病気』(新星出版社)、『卵巣の病気』(講談社)ほか多数
【美加から今回のまとめ!】
4回にわたって子宮体がん、卵巣がんについて、上坊先生にわかりやすく教えていただきました。更年期以降、閉経しても子宮や卵巣の存在を忘れずに、定期的に婦人科検診を受けていきたいですね。
増田美加さん
Mika Masuda
女性医療ジャーナリスト。1962年生まれ。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを専門に取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行っている
イラスト/かくたりかこ 構成・文/増田美加