【対談したのは…】
幅広い世代の女性の診療・カウンセリングを行う地域密着型クリニック「 聖順会 ジュノ・ヴェスタ クリニック八田」院長。著書に『思春期女子のからだと心 Q&A 資料ダウンロード付き』(労働教育センター)、『産婦人科医が教える オトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)ほか。
更年期は生活習慣病予防ヘシフトすべし!
増田さん:更年期世代は、女性ホルモンのエストロゲンがほぼセロに近づいて、心と体の守り神がなくなる時期。子宮体がん、卵巣がん、乳がんと女性のがんが増えてきますし、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も増えてきます。どんなふうに対策していくのがいいと、八田真理子先生は考えていますか?
八田先生:更年期は、生活習慣を見直すとてもいい時期です。更年期は、人生の折り返し地点で、ちょうど人生の2分の1ですからね。人生100年時代どころではなく、アンチエイジング医学の世界では、人生120年時代ともいわれています。これまで、悪かった習慣をリセットするのに、ちょうどいいのです。例えば喫煙や運動不足、睡眠不足、暴飲暴食などの不摂生な生活をリセットするチャンスです。
増田さん:生活習慣の見直しといえば、まず食事ですが、更年期以降どんなことに気をつけることが大事ですか?
八田先生:飽食の時代といわれる現代なのに、きちんと栄養素がとれていない女性が増えています。それが、月経トラブルや更年期のつらい症状など、女性特有の不調を引き起こす一因にもなっていると考えています。
日本は、世界一、食品添加物の多い国だと思います。ファストフードやインスタント食品などを食べていると、体のためになる栄養素はとれません。一品でもいいから、有機野菜や減農薬野菜などの食材を使って、添加物の入っていない調味料で、体のためになる食事を作ってほしいです。
増田さん:八田先生のクリニック併設で、野菜中心のメニューを提供するテイクアウト専門店「キッチン・ヴェスタ」を開設されたのは、そんな思いからですか?
八田先生:「キッチン・ヴェスタ」では、地元で採れた新鮮な有機・減農薬野菜を厳選した調味料を使って、サラダやお惣菜を作って販売しています。女性の健康を考えた、特に女性に不足しがちな栄養素を積極的に取り入れたメニューを日替わりで提供しているんです。
食事はミネラル不足に注意。調味料は大事
増田さん:まさに、「医食同源 (いしょくどうげん)」ですね。日頃から体によくて、バランスのとれた、おいしい食事を食べれば、病気予防になるし、体のケアにもつながりますね。
八田先生:薬で治療する前に、食事で体を整えてほしいのです。若い人だけでなく、更年期の人もミネラル不足の人が多いです。ミネラルが不足すると、イライラ、だるい、眠れないなどの不調が起こります。
また、亜鉛が不足している女性も多いのを感じます。血糖値が上がるような、糖質過多の食事では、亜鉛が使われて不足します。亜鉛不足では、皮膚の乾燥、貧血、味覚障害が起こります。血液検査で亜鉛値80~130µg/dLなら正常ですが、60µg/dL未満だと亜鉛欠乏症になります。そんな人に亜鉛を補充すると元気になる場合が多いです。亜鉛などのミネラルは、食事からしかとれません。主食と副菜4皿以上が並ぶ食事を心がけてください。
増田さん:調味料も重要ですよね。化学調味料無添加のものを使っていると、添加物入りの調味料が入っていると、舌がすぐわかります。
八田先生:酢、塩、しょう油、ドレッシングなども有機で無添加のものは、本当においしい。天然のお酢や岩塩は、マグネシウムやカリウムが豊富です。私、閉経が54歳だったのですが、運動は継続していたのに、閉経したら急におなかまわりに肉がついてきたんですね。でも、このキッチンで作ったものを食べ出したら、体重も落ちたし、血圧も下がりました。どうしてだろう?と考えたら、調味料を変えたからだと気づいたんです。降圧剤も必要なくなったし、頭痛もなくなり、体調はとてもよくなりました。
テイクアウト専門の「キッチン・ヴェスタ」。メニューは日替わりです。仕入れの都合上、予告なしにお休みすることがあります
テイクアウト専門キッチンで、1パック¥380~(税込み)。売り切れ次第終了です
厳選したこだわりの調味料だけを使っています
契約農家さんより仕入れた有機野菜。野菜本来の味でおいしく、安心安全の野菜です
増田さん:本当に食事って大事ですよね。口から入ったものが数カ月後の自分をつくるわけですものね。
八田先生:ヒトの60~70兆個ある細胞は、すべて入れ替わります。血液は約4カ月、骨は4~5カ月、筋肉や肝臓は約2カ月、皮膚は28~30日、胃腸は数日で再生するようです。ですから、新陳代謝が正常に働いていれば、ヒトの体は4カ月もすると、まったく新しく生まれ変わることになります。ですから、食べたもの、飲んだものが細胞になることを念頭において、食事をとりたいですね。
増田さん:食事や血圧コントロールでいえば、レコーディングもいいですよね。私は、毎日食べたものや血圧を測って、ノートに記録するようにしただけで、血圧が下がりました。体重も体脂肪も増えません。閉経後も血圧は、110/70 mmHg前後を推移しています。記録すると、無意識に毎日の生活に気をつけるようになるものですね。
無理なく続けられる運動を生活に取り入れて
増田さん:八田先生は以前から、忙しくても運動を生活の中に上手に取り入れていますよね?
八田先生:運動は週4日、1日30分以上は行っています。ジムでの筋トレと有酸素運動を中心にしています。もっとハードにしていたときもあったけれど、運動は無理せずに継続することが大事だから、今はそんな感じです。
増田さん:私も運動は、毎日家で30分、スタジオでの筋トレやピラティスは週4日を習慣にしています。運動は、メンタルにもいいですよね。
ウエイトを使ってハーフスクワットする増田さん
ラットプルダウンで肩甲骨まわりを筋トレ
八田先生:定期的な運動は、メンタルケアはもちろん、良質の睡眠にも効果があります。閉経以降、減っていく骨にも筋肉にも重要です。運動の効果は、たくさんのエビデンスがありますから、更年期は運動を始めるチャンスです。将来の認知症、フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)、寝たきり予防のためにも有効です。
増田さん:それから、今行っている食事や運動が生活習慣病をきちんと予防できているのかを確認するためにも、更年期以降こそ、検診がますます重要になってきますね。年1回は、受けるべきといわれていますが、どんな検診を受けることが重要でしょうか?
八田先生:生活習慣病が増えますから、自治体や企業で行っている健康診断(一般健診)は欠かさず毎年受けてほしいです。がん検診は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんは、最低限受けましょう。それから、更年期以降は急激に骨密度が低下する年齢ですから、骨粗しょう症検診で骨密度を測定しましょう。歯科検診、眼科検診も忘れずに。
増田さん:ストレス対策も、上手にしないといけない年齢ですね。一人の時間をつくって自分を見つめ直す時間をとるとか…。先日、脳科学者の先生を取材したら、更年期は習い事を始めるといい時期と言っていました。学生時代にやっていた、経験値があるものを選ぶとチャレンジのハードルが下がって、上達も早くなって継続しやすいらしいです。仕事や家庭以外にリフレッシュできる自分の時間づくりになりますね。
八田先生:趣味や習い事で新たなチャレンジをするのはいいですね。楽器演奏などは、脳にも神経にも刺激になるし、グループでやればコミュニケーションの場にもなって、将来の認知症予防にもつながるし、一石二鳥ですね。今はオンラインでも習えますしね。更年期からは、夫のため、子どものための時間を自分の時間へ30分でもスライドして使うようにできるといいですね。
最後に残るのはGSM問題
増田さん:閉経後、最後に残る問題は、私の場合もそうなのですが、GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)だと思うのです。尿もれ、腟の乾燥や萎縮、性交痛の対策は大事です。骨盤底ケアは、閉経後の女性が忘れてはならないものだと思います。八田先生のクリニックにも、ケアや治療にたくさんの女性が来ていますよね。
八田先生:閉経後の課題として、GSMは多くの女性の関心事になると思います。骨盤底トレーニングや腟ケアを意識することは大切です。閉経後の尿もれ、腟乾燥や萎縮による痛みやトラブルのケアは、QOLにも大きく関わるため、クリニックでも要望が高いです。腟や外陰部へのCO2レーザー治療「モナリザタッチ®」や、フェムゾーンへのジェルによるケアなどを私のクリニックでは行っています。「モナリザタッチ®」の治療をする女性の約3割がパートナーとのセックスのためです。更年期以降のパートナーとの性生活を大切にする人がいらっしゃるのは、うれしいことです。
増田さん:GSM対策に、八田先生は新しい治療を春から開始されるとのこと、また取材して紹介したいと思います。
【美加から今回のまとめ!】
閉経後は、自分ファーストで考えて、エストロゲンのバリアがなくなった体を見直し、人生の転換点であることを意識して、早め早めに対策していくことが大切です。八田先生とのお話で出てきた更年期から実践したいこと5か条をまとめます。
【更年期から実践したいこと5か条】
第1条 食事 生活習慣病対策を視野に入れて
第2条 運動 一生使える筋肉と骨のために。フレイル予防にも
第3条 検診 一般健診、5大がん検診、骨粗しょう症検診、歯科検診、眼科検診は定期的に
第4条 ストレス対策 趣味や習い事でリラックス時間を。脳(認知症予防)のためにも
第5条 GSM対策 骨盤底トレーニング、尿もれ、腟の乾燥、萎縮ケアを
増田美加さん
Mika Masuda
女性医療ジャーナリスト。1962年生まれ。35年にわたり女性の医療、ヘルスケアを専門に取材。自身が乳がんに罹患してからは、がん啓発活動を積極的に行っている
イラスト/かくたりかこ 取材・構成/増田美加