『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は 2019年の夏の、と言うより、2019年の大ヒット映画の一本です。タランティーノ監督の作品中、最高の興行収入を上げているのはもちろんですが、グローバルな興行収入は現段階で3億5000万ドル。ものスゴい数字を出しています。
ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオの“強力スターパワー”が追い風となって、まさに順風満帆の世界航海を果たしたのです。二人とも素晴らしい演技を見せています。
舞台は1969年、人気が下降気味のテレビ西部劇スター、リック・ダルトンをレオが演じ、ブラッドはリックの長年のスタントマンで親友の、クリフ・ブースという役どころ。 レオは、時代の流れの中で取り残されて行くテレビスターの苛立ちと寂しさをにじみ出しながら、スターの気取りも忘れていない演技で、さすがという感じです。
今回のブラッドの役者としての円熟度は目をみはるものがあります。まるで演じてないような楽な雰囲気の中で、なんとも言えない包容力を醸し出しています。「人生なるようにしかならない」という、悟りとも諦めともいえる生き方を淡々としているスタントマンの役作りが素晴らしいのです。
彼が無駄に年をとってないのは明白です。Tシャツを脱ぐシーンでは会場からため息が聞こえて来ました。あのシーンの為の準備は?と聞かれて「スタントマンがブヨブヨしてるわけにはいかないだろう?だから、あのシーンのためというわけではなく、それなりのトレーニングは当然さ」とにこやかです。
タランティーノ監督は、最初からレオとブラッドの組み合わせを考えて脚本を書いたわけではないと言ってますが、レオとブラッドの違う良さを見極めて大スターの2人を使ったのは、リスクをとりつつも大成功だったと思います。
ブラッド演じるクリフ・ブースの侘びしげなトレーラーハウスには同居人がいます。ブランデーと呼ばれるピット・ブル犬ですが カンヌで“パームドッグ賞”(パルムドールではなく)をもらった名犬です。
「相棒のブランデーが最高ですね。彼〈雄犬だと思って〉との共演はどんな感じでしたか?」と聞かれて「君、あれは“彼女”だよ、彼ではない。彼女が傷つくから気をつけてね」と笑わせてから「最高の共演者だった。僕のことをブラッド・ピットと知らない共演者は本当にありがたいんだ。 ブラッド・ピットから開放されるって気持ちよいことだから。それに顔をペロペロ舐めてくれたしね」とユーモアたっぷり。
「犬飼ってますか?」「イエス、今現在二匹。ハグしてくれるし泳ぐ相手もしてくれる」
ブラッドはあの有名なHOLLYWOOD サインのそばに住んでると言ってましたから、あの辺を歩いていると、2匹の犬を連れた彼に遭遇するかもしれません!
レオとブラッドは2人が演じた役の違いと同じくらい違う、とタランティーノ監督は言ってます。実際、ずいぶん違います。レオはインタビューに時間ピッタリに現れて、はっきりした言葉を選んで真面目にキチッと答え、無駄なくどんどん会見を進ませます。レオ自身が言ってますが「物事を複雑にしない、シンプルに進む」、それが彼の対応にハッキリ出ています。
ブラッドはちょっと遅れて現れて「ハァァイ、わあ、見慣れた顔が並んでる。再会って感じだなあ」とゆったりとスタートします。「勇気を奮い起こさないとできないことはありますか?」と聞かれて「いろいろな人に囲まれてる時。自分の言いたいことをまとめてハッキリ言うことに、今でも恐怖心に近いものを感じる時がある」と言ってました。
理路整然と応えるレオと、言葉を探してモタつくブラッドの違いがハッキリ出ていて、おもしろいと思いました。
ハリウッド大通リの5ブロックを2日間閉鎖し、ハリウッドのど真ん中を1969年に塗り替えての撮影当日。その時の話をレオが教えてくれました。クリフ( ブラッド)の運転でハリウッド大通りを通過するシーン。69年はまだまだラブ&ピースを呼びかけて、のんびり生きるヒッピーであふれてました。ヒッピー風の衣装をつけたエキストラが何百人と道を歩いているのが背景です。
レオが「あっ、あそこに僕の父がいる」とブラッドに言うと「オー、クール。あれはヒッピーの格好をしたエキストラだよ」とブラッドは冗談だと思って答えます。「いや、あのヒッピーが僕の父なんだ」とレオ。「オー、クール。お父さんがヒッピーの衣装を着て、エキストラ出演してるんだ」「いや違う。出てるわけじゃなくてあれが僕の父なんだ。あれは父の普段の格好なんだ」とレオは説明して大笑いしたそうです。レオの両親は元ヒッピー、今もヒッピーだと笑ってました。
なんだか、とても楽しい撮影だったのではないでしょうか。