『しがらみを捨ててこれからを楽しむ人生のやめどき』
著者インタビュー
上野千鶴子さん
Chizuko Ueno
社会学者。東京大学名誉教授。NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。女性学・ジェンダー研究のパイオニアとして専門学校、大学、大学院、社会人教育など高等教育機関で40年間、教育と研究に従事。著書に『家父長制と資本制』(岩波現代文庫)『おひとりさまの老後』(文春文庫)など多数
“前向き”よりも“機嫌よく”。
人生の荷物を下ろすヒントに
人生100年時代、いつまでも現役でありたいと望む人は多いはず。そんななか、料理のやめどき、クラス会のやめどき、はては“人生のやめどき”まで、あらゆるものの終わり方について軽快に語り合っている本書。
「最近私、いくつになっても夢を持つべきだとか、どんなときでも前向きにって言い方がイヤになってきたの。だってもう前はないんだから(笑)」と、上野さんはあっけらかん。
「それよりも、これからは機嫌よく生きることが大事だと思う。私自身、最近お会いする方に『若い頃は邪気がいっぱいありましたが、どんどん抜けて無邪気になりました』って言っているのよ」
なんの、切れ味するどい上野節は対談のそこかしこに! 世代もキャラも違う樋口さんとざっくばらんに語り合う様子から、お二人の信頼関係、仲良し感も伝わってきました。
「話していていちばん思ったのは、樋口さん、人生やめどきなんてこれっぽっちも思ってないってこと(笑)。断捨離のやめどきが話題になったときには、私が身につけていたスカーフを形見分けに頂戴なんておっしゃっていて」
おしゃれやゴミ出しなど身近な話題だけでなく、家族のやめどき、介護のやめどきといった深く考えさせられるものもありました。
「親のやめどき、嫁のやめどきとかね。私は嫁はやったことないけど、親に対してよい娘でいられるのは2泊3日が限度。娘コスプレという感じね。以前、『上野さんにとって親の存在とは?』って聞かれたときに『はた迷惑です』って答えたことがあったんだけど、批判より共感が多くて面くらいました」
また、“健康寿命のやめどき”は、これからの社会全体にとって大きなテーマ。
「私が超高齢化社会になってよかったと思うのは、簡単に死なせてはもらえないってこと。目が悪くなったり、耳が遠くなったり、足腰が不自由になったりして要介護状態になるでしょ? 多くの人は弱者になって強者のままではいられない。強者のやめどきね」
誰しも健康寿命は延ばしたい。けれど、人生の終わりに弱者の立場を体験するのは意義のあること、と上野さんは言います。
それにしても、上野さんは何かと過激、樋口さんはどちらかといえば保守的、それぞれの意見に違いがあるところも本書の魅力です。
「私は過激じゃないのよ、素直なだけ。でも、樋口さんは私よりずっと品がよいの。だから今回、セックスのやめどきについて話せなかったのが残念だわ(笑)」と、最後まで刺激的に締めくくってくださいました!
『しがらみを捨ててこれからを楽しむ人生のやめどき』
樋口恵子、上野千鶴子 著/マガジンハウス
1,400円
評論家の樋口恵子さんと社会学者の上野千鶴子さんが、家族、仕事、趣味、あらゆるやめどきについて語り合う一冊。意見を同じくするところ、まったく嚙み合わないところ、それぞれに楽しく生きるヒントが満載!
撮影/矢部ひとみ 取材・原文/小田芳枝