秋も深まってまいりました。食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、そして読書の秋!今日は「読書の秋」を堪能するのにピッタリの1冊をレコメンドしたいと思います。
ところでみなさん、この方はどなただと思いますか?
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憂いを帯びた表情、知的な雰囲気…なんだか某俳優さんに似ている気も。実はこの方、
開高健さん
なんです!
ふみっちー、それを知ったとき「ええええー!!?」と叫んでしまいました。だって開高先生といえば“日本のヘミングウェイ”とも言われる方。ベトナム戦争に従軍したり、アマゾン川でピラーニャと格闘したり。簡潔で力強い文章でリアルな世界を描き、まさに“行動する作家”のイメージ。その方の若い頃は、こんな繊細な雰囲気だった!?
…と書くと、ふみっちーの無知ぶりをさらしてしまうのですが、開高先生の根本部分は若い頃も、ダンディで福々しい雰囲気になった後年も、どうも変わらないらしいのです。その辺はいろいろな著作をお読みいただければ明らかになってくるのですが、今回はこの本!
「開高健のパリ」
20代の終わりに初めて訪れたパリは、以来何度も訪れるようになった、開高先生にとっての「特別な場所」。そして、この街の風景を描き続けてきた画家ユトリロ。実はほとんど知られていなかったようですが、開高先生はユトリロについての評論も書いているのです。この本は、開高健のパリ滞在記+ユトリロの絵とその解説+そしてパリの風景写真が掲載されて、まさに「大人の絵本」。読むだけで、持っているだけでパリ旅行気分が味わえる、贅沢な1冊なのです。
ではちょっと中身もご紹介。
ユトリロの絵に、開高先生の格調高く精緻な文章、そして紡ぎだされる60年代パリの風景。レトロな雰囲気がまた、たまりませんー。
たとえば
「朝、旅館から這いだしてキャフェへいき、三日月パンと牛乳入りコーヒーを召し上る。(中略)午後の三時頃にビールとハムを棒パンにはさんだのをやる。(中略)映画か芝居を見にでかけ、十一時頃に名物玉ネギスープをどんぶり鉢ですすり、“夜食”ということになる。」
うおー、レトロでいい!「三日月パン」はあれよね?「牛乳入りコーヒー」はあれよね?「玉ネギスープ」は当然あれよね!ということで、軽く編集部で盛り上がりました。
流麗な筆致で描かれるパリの風景。どこか古ぼけて、きれいじゃなくて、暗くよどんでいたりします。それがまた、“開高健”という異邦人の視点に感じられて、独特のパリを見ている気持ちになります。
パリに行きたいけど行けないーという方、秋ならではの物憂げな雰囲気に浸りたい方、なんでもいいからきれいな本が欲しい方、とにかく一度この本をのぞいてみてください。豊潤で無限な“心のパリ”が広がっていますよ!しかもナビゲーターは日本文学界の誇る“巨匠”、開高健なのですから。
※記事中の画像はすべて許可を得て掲出しています。