こんな時期だからこそ、おうちでできる新しい趣味を開拓しようと「ヴィフアール 水彩画スターターキット」なるものを手に入れて、水彩画に挑戦。するとひょんなことから、TVでも活躍されている野村重存(のむらしげあり)先生にオンラインでお目にかかり、絵を見てもらえることに。(※前編はこちら)
せっかく始めるのなら少しでもまともな絵を描きたいと、ひさびさの水彩画に悪戦苦闘した体験をもとに、野村先生に水彩画のコツを伺ってみると、あれよあれよという間に、西洋絵画の技法にまで話は発展!
さらに「投げやりになっていないところがよい」と(根気を)褒めてもらった私の絵に、ある問題点が・・・・・・。
なにはともあれ、まずは、私が一番”難しい”と感じた「水」の使い方から、水彩画のコツをうかがってみました。
<絵画レッスンプロ 野村重存先生プロフィール>
1959年 東京生まれ 多摩美術大学大学院修了。現在、多摩美術大学非常勤講師ほか、カルチャースクール、生涯学習講座の水彩画、デッサンなどを中心にした講師や技法書の執筆など絵画レッスンプロとして活動。
TBS「プレバト」をはじめ、TV番組にも多数ご出演中。公式HPはこちら
水彩画が水彩画たるゆえん。水のコントロールは練習と慣れ
水が少なすぎると絵の具がかすれてしまい、多すぎると紙の上に水たまりができる。はたまた、次の色を塗るタイミングがつかめず足した色がにじんでしまったり。「げげっ」と思うことが多かった「水」の使い方。
(上)普通の筆で描いたあと、この水筆で色をぼかします
「水彩絵の具は、絵の具の溶き具合で紙の白さを透かして見せることで、きれいな発色になるとうかがいました。その「溶き具合」が、ものすごく難しいと思うのですが」(スージー)
「初心者の方は、水の使い過ぎの方が多いので、少しの水でやっていくと思ったように描けます。それに慣れてきたら、水が多めの表現をしていきます。紙を先に濡らしておくと、こんな風ににじむなどの体験しながら、少しずつ慣れていくといいですね。水のコントロールは練習が必要、それと慣れです」(野村先生)
自分の持っている絵の具が、どのくらいの水でどんな溶け方をするのか、どんな風ににじむのかがわかると、自分のイメージに近い塗り方がわかってくるそう。とにかく練習練習、ふむふむ。
次にうかがったのは、色のこと。
実は、3色あれば、なんでも描けるんです
「南天の実の色を描くとき、赤い色を作るのがすごく大変でした。初心者は絵の具の色数をたくさん持っていたほうがいいのでしょうか」(スージー)
「色がたくさんあったからといって、思い通りの絵が描けるとは限らないんです。本当は、3色あれば、あらゆるのもが描けるんですよ。こういうと身も蓋もないですが(笑)。マゼンタ(赤紫)、シアン(緑みのある青)、イエロー(黄)の3色あれば、なんでも描けるんです。印刷の知識のある出版社の方だから、ご存じとは思いますが(笑) 」(野村先生)
(上)オンライン画像で3色を見せてくださった野村先生のお手元。ピントが来ていなくてすみません
3原色! 小学校の時の図工の時間に、何と何を混ぜたら何色になると学んだし、仕事でも使っているので混色の知識はあるけれど、ふつうは、なかなか難しいような気がします。
「色の混ぜ方は学んでいくしかないのですが、色は無限に変化します。それに合わせていくと、色が無限に必要でしょ。そこで、ルネッサンスの絵画技法から、ものごとを明暗で見ようという流れになっていくんです」(野村先生)
3原色の話から、技法へ。美術の授業みたいになってきましたよ~。
色よりも大事なこと
「精密に撮影されたモノクロ写真の中には、何か季節を感じたり、色を感じたりするものがありますよね。明暗階調を操作されているから、明暗しかないもので色を感じることができるんですね。
そもそも、光のないところでは色はない。色は光の反射ですから。絵を描く時に最初にやることは明暗を描くこと。あれがこの色で、これがあの色でということより、濃淡を描き分けることのほうが大事です。
(上)南天の絵の下書きと、使おうとした絵の具。みごとに、色のことしか気にしていませんでした
私の講座で森のスケッチをしている時、苦労して色を塗るけれども、自然な景色にならない、見えている色にならない、という方には『色数を減らして描いてみましょう』とご案内するんです。すると、はるかに自然な景色にしあがる。目に見えるものと同じ色を再現することをあきらめた。そうなるとどうするかというと、森の緑の濃淡を描き分けようとする。影、濃い薄い。濃淡だけで描き分けたら、自然な森の絵になったんです。
描くべきは明暗の階調。光と影を描くことで、色彩の再現にはならないけれど、自然な感じになるんです。これが、西洋絵画の基本で、水彩画の基本です」(野村先生)
明暗、光と影、濃淡を描き分けられたら、たくさんの色の絵の具を使わずとも自然な絵が描ける、と。スターターキットに、さらに色を足そうとしていた私って。
私が描いた貝が、シイタケになってしまった理由とは
対象物の色を再現することばかりに夢中になっていた私。初心者の上達のコツとして、水のことや、色の作り方などのお話をうかがってしまいましたが、基本中の基本は、どうやらそこにはないようです・・・・・・。
「スージーさんの描いた絵は、丁寧に描かれていてすごくいい感じと話したのですが、明暗が足りないんです! 光の調子が描かれていないので、立体感がない。貝殻のゴロンとした立体感を描くなら、どこが明るくてどこが暗いのかを描きわけることが大切です。」(野村先生)
だから、ぺしゃんこのシイタケになってしまったのか(涙)。(※前編をご覧くださいませ)
「水彩画に限らず、西洋画法の根本はデッサン、素描です。鉛筆1本で明暗を描けるようになれば、現実感を持っている絵になってきます。それができないかぎり、形に色をつけただけの図にしかなりません」(野村先生)
優しい微笑みで、きっぱり! 私は、まずコレ(下の写真)を描くつもりでスタートすればよかったんですね。
(上)前編で描いた貝殻の写真を、モノクロにするとこんな感じ
「水彩画の良さは、簡単なそろえで始められること。鉛筆で明暗を描き分けて、3色で色を塗っていきます。上達してきたら、紙選びの楽しさもでてきますよ」(野村先生)
たくさんのお話を、ありがとうございました! まずは、デッサンから始めてみます! 野村先生。
画用紙に向かい、対象物を真剣に見て、鉛筆を走らせる。絵の具で色をつけていく。余計なことを考えない時間は、まさにマインドフルネス。向く向かないはありそうだけれど、興味を持ったかたは、ぜひ。私も続けられそうです。(※「ヴィフアール 水彩画スターターキット」の詳細はこちらから見られますよ~)
それにしても、明暗を描くことねぇ。そういえば、実家に飾ってある祖父が趣味で描いたという水彩画はどんな感じだったっけ?
う~ん。光と影は感じるな~。明治時代の家屋の照明とか、土壁の感じとか。明暗が描かれている絵は、時空を超えて想像をかきたてます。それが、リアルということ?
小さいころから、ずっとそこにあったユリの絵。自分が水彩画を始めたことで、90年以上前に描かれた絵を見上げ、くしくも亡き祖父が絵を描く姿に思いをはせることになったのでした。