「老後のお金のことが心配」。そんな女性たちを心強くサポートしている安田まゆみさん。OurAgeでは女50歳からのキラキラ老後計画の連載を担当しています。職業はファイナンシャルプランナーですが、肩書きは「マネーセラピスト」。そのネーミングに込めた想いとは?
安田まゆみ/マネーセラピスト、ファイナンシャルプランナー
東京・銀座の「元気が出るお金の相談所」所長。FP歴23年目。これまでの相談件数は7,000件以上、講演回数は1千回を超える。一男一女を育てあげた後、義父と実父を看取り、現在は義母と実母の介護に直面中。 お得な情報はより多くの人に知らせてあげたい!というおせっかいな性格。著書に『そろそろ親とお金の話をしてください』(ポプラ新書)などがある。
「あなたが興味があるのは、ここしかない!」
これは、安田さんの高校時代に担任の先生に言われた言葉。
「人間関係学科」への進学の後押しでした。
「高校は長野県上田市にある公立の女子高(当時)で、私は生徒会長をしていました。
その頃は(1975年頃)高校生にも社会運動の機運が高まっていて、
高校の制服を廃止にしたりしましたね。自由でいいじゃない、って。
その後、3年生の時に大病をして、大学受験ができなくなり、とにかく来年大学に行くならば、お金を貯めようと働きつつ、夜は、公民館主催の社会人学校で、地元の歴史など学んでいました。
そうこうしているうちに高校の担任の先生が、大学の人間関係学科への推薦の話を持ってきてくれまして。哲学、心理学、教育学、社会学など、人間関係に関することがすべて学べる。
『あなたが興味があるのは、ここしかない!』と断言されたんです(笑)。
そして入学し、確かに学ぶ内容はとても面白かった。
さらに私は寮生活をしていたのですが、障がい者の人も何人かいて、
視覚障害のある友人と、聴覚障害のある友人をどうやってつなげてあげようかとか。一緒に生活をしながら学び合う日々は、とても充実し、勉強になり、やりがいがありました」
卒業後は「社会教育主事」になりたい、と思うようになったのだそうです。
「社会教育主事とは、市町村の生活福祉課などで市民のための学びの場を企画するような仕事です。
しかし、当時公害が社会問題になり、主婦の勉強会の場が公害反対運動の署名活動の場と化して、社会教育の場が社会運動の場になってしまうことが問題視され、社会教育の現場で人材募集がなくなってしまったんです。
それで、ちょうど募集をしていたミニコミ誌の会社に就職し、編集者になりました」
編集者時代は、月間で雑誌を作ることに加え、PTAや労働組合などで
新聞や冊子の作り方を教えたり、講演なども行っていたそうです。
「充実はしていましたがあまりの多忙な日々に体調を崩し、もうこの仕事はやめよう、
と思っていたときに、損害保険会社のAIU保険会社(当時)で役員をしていた義理の父が、
リタイア後に代理店を開いていて『うちで働けば?』と誘ってくれました。
13年の編集者生活を辞めて、損害保険の代理店の道に入りました」
「知らない」で損をする人がいないように
金融の仕事は初めてだったので、まずは研修を受けることに。
研修生を卒業したら義父の代理店で働く予定でしたが、
その途中で「もう自分は引退するから任せる」と、突然のリタイア宣言。
しかたなく代理店ごと引き継いだといいます。
「AIUはアメリカの会社で、あちらは訴訟の国ですから、考え方の基本がリスクマネジメントなんですね。好奇心旺盛な私にとっては、研修の毎日がとても面白かったですね。
あの頃学んだことは、今でも重要な考え方になっています。
研修生の間は、セールスするのは損害保険が中心でしたが、生命保険の募集人としての資格も取らされて、生命保険も売らなければならなくなりましたが、どうやって売ればいいか全然わからなかった。
損害保険は、毎年のように更新がありますから、来年は私の代理店で契約を、といえるのですが、生命保険は、入れば一生保障がついているのですから、簡単に乗り換えてくださいとは言えません。
乗り換えることはお客様にとって、余計な費用負担がかかると思っていました。
なので、当時は、どうしたら生命保険をセールスしていったらよいのかわからなかったのですが、ある時、ターニングポイントが訪れました。
先輩に教わったんです。
『生命保険に入っている大半の人は、自分の保険のことを知らない。
入っている保険が、自分のライフスタイルに合っているかどうかなんて、考えたこともない。
まず、今入っている保険を解説してあげるだけでも、自分のニーズに合っているかがわかってくる。ニーズに合っていなければ、合うものを提案してあげれば、お客様には喜ばれるよ』と。
確かに私も、自分の保険について、保証がいつまであって、
保険料はいつまで、いくら払っていくのか、きちんと把握していませんでした。
ちょうどその頃、定期付き終身保険の更新型保険が売り出されてから10年満期を迎えるころで、『10年ごとに保険料が上がる』というニュースで騒ぎになっていたんです。
『え、そんなの知らなかった!』という人があちこちに。
そこで私は『知識があれば人の生活を守れるのではないか、問題があったらどう解決すればいいか、知っていることを教えたい!』と思うようになり、
生来のお節介な性格も相まって、生命保険のコンサルティングを始めるようになりました」
ところが安田さんは、41歳の時にある想いがあって
FP(ファイナンシャルプランナー)の資格を取得します。
「保険屋さんって、結局解決方法が保険商品を買ってもらうことになってしまうじゃないですか。でも目の前にいるお客さんに今必要なことは、保険に入ることではないかもしれない。って思うようになったんですよ。
だからもっと広くお金の知識を得て、お客様のサポートができたらいいなぁと。
それで、FPの資格を取ることにしました。
最初は初級のAFP(アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー)から。
引き続き、子育てをしながら夜中に勉強を続け、
4年かけて上級のFP資格であり国際資格のCFP(サーティファイドファイナンシャルプランナー)の資格を取りました。
テレビでの家計診断から、NHKの生放送にも出演するように
FPになったからといって、お客様がすぐに増えるわけではありません。
加えて、最初の頃は失敗続きだったといいます。
「なんだか勘違いしていたんですよね、私(笑)。
相談にいらっしゃるお客様に対して、ダメ出しばっかり。
『これじゃダメですね』なんて言われたお客様が、リピートなんてするわけない。
あるとき『顧客心理』を学ぶ機会があり、この仕事はとくに
心理学やコミュニケーションが重要なのだと気がつきました。
同時に、行動経済学も学ぶようになって、
『人間は必ずしも正しい選択をするとは限らない』ことがわかってくるんです。
人は一人一人違います。ですが、多くの場合、ある問題を抱えたときに、
選択肢を狭めて考えてしまったりするんです。
理屈では、お金を貯めなくてはいけない。無駄なことにお金を使ってはいけない。
そうわかっているのに、それができない。だから悩む。
そういう心の仕組みがわかるようになると、一人一人の抱える問題に(主に心の問題)に
目を向けると解決が早いことに気が付き始めるわけです。
間違った行動や判断をしていても、ダメ出しをせずに
『でも大丈夫。これから何とかしましょう』と言えるようになりました。
お金の問題は、心の問題なんですよね。
こんなふうに心理学やコーチングを本格的に学ぶようになったのは、50歳くらいからですね。今もずっと学び続けています」
FPに関する本もそんなにたくさんなかったころに、FP仲間で出版することになり、
元編集者の安田さんは、仲間の原稿の編集を専門家として手伝うことに。
「みんなに原稿を書いてもらうんですが、そもそも文章を書く専門家じゃないから、
当時は原稿がひどい(笑)。おまけにお金の専門的な話なので、
出版社の編集者も分からない部分が多い。そこで、私が両方の橋渡しをして、
原稿も書き直したりしていました。
そんな私の事をどなたかが聞きつけてくださり、
日本テレビの夕方のニュース番組で『あなたの家計簿見せてください』という
ロケに行くコーナーへのレギュラー出演が決まりました。
回を重ねていくうちに、そのニュース番組のレギュラーコメンテーターとして、
毎週のように生放送に出演することになりました。
生放送で面白くしゃべるおばちゃんだと思ってくれたんでしょうね。
そこからNHKやTBSなどにも呼ばれるようになって、テレビへの出演回数は、
なんだかんだで100回近くになりました。
そのころには、徐々に相談依頼も増え始め、講演などの依頼も同じように増えていきました」
お金のことって、明るい話ばかりじゃない
安田さんは、FPになった当初は教育資金や住宅ローンの相談も受けていましたが、
自身が50歳を過ぎて、老後の資金相談専門にシフトしていったそうです。
「講演やセミナー、個人相談などを行う中で、
この先の生活を不安に思っている人がすごく多いことに気がついたんです。
それで私はシニア期の資産管理を専門にしようと決めました。
そのために活用しようと思ったのがエンディングノート。
当時、家族に伝えたい想いや葬儀の希望、死後の資産などについて記しておくものとして
世に出始めたのですが、書いているという人はほとんどいなかった。
というよりも、『書けない』という声が多かったんですね。
それで、いろんな人になぜ書けないのかインタビューしたんです。
どういうものなら書けるのか。どんな気持ちになれば書けるのか。
それで生まれたのがこの分冊方式の『メッセージノート』です。
『ライフデザイン編』は自分が認知症になった時など、“これからどうしたい”という意思を書き記すもの。介護や医療を受ける際に、自分の意思を伝える役目をもつものです。
『シークレット編』は自分の死後、遺された家族に伝えたい想いや財産の分け方など、今はまだ秘密にしておきたいことを書くものです。
経験上、生きているうちと死後に伝えたいことは分けた方がいいことがわかったからです。
また、インタビューをもとに、書くところはできるだけ少なくしています」
下の写真の冊子が、安田さんが代表となり立ち上げた一般社団法人エンディングメッセージ普及協会発行の「メッセージノート」です。
協会では、複雑な制度や信託の仕組みなどを啓蒙していく活動も行っているそうです。
さて、肩書きの「マネーセラピスト」。
名乗ったFPは、おそらく日本で初めてではないかと思います。
なぜ“セラピスト”なのでしょうか。
「これまでの人生でお金を貯めることに真剣に向き合ってこなかった人にとって、
これからお金を貯めていく、家計を見直す話って決して楽しい話じゃない。
でも、この先どうすればいいか、少しでも明るい気持ちで取り組みたいじゃないですか。
だから私は、キャッシュフロー表(毎年の支出・収入や資産の増減を記した表)を作って、
将来を一喜一憂することはおすすめしていません。
多くのFPはこの表をもとにアドバイスをする傾向にありますが、
私は人生のお金の管理で大事なことは数字の増減だけではないと思っています。
本当に大事なことは、この先“自分らしく”幸せに生きていくこと。
まずそれがあって、じゃあ、この先のお金はどうすればいいかを考えなくちゃ。
私は、クライアントさんには最初、
『私の未来予想図』『私のひそかな願望リスト』『我が家の人生年表』を
書いてもらいます。死ぬまでにやらないと後悔することなど、書きだしてもらうんです。
お金の問題は、心の問題から解決するのが私の強み。
貯金がなかったり、浪費グセがあっても今の自分がダメだと思わないでほしいんです。
これから改善していくことはできますから。
お金って、数字が大事なんじゃなくて、どう生きたいかを考えることなんです。
心理学を学ぶ中でそのことに気が付いていきました」
女50歳からのキラキラ老後計画をぜひ読んでみてください。
わかりやすく、ときには意外な判断で、
安田さんがその人に合った老後計画に導いていくことに驚くかも。
老後の心配ばかりしていたのが、「そう考えればいいのか」と知ることで元気が出て、
逆に将来が楽しみになるかもしれません。
撮影/山田英博 取材・文/島田ゆかり