いちばん大切に扱うべき“自分”というものに、ようやく目を向けられたと前回のインタビューでお話してくれた寺島しのぶさんが、これまでの自分に足りなかったものとは一体何でしょうか。
大切なものは健康、手放すべきは無駄な力み
ヨガは「気持ちいいなあ」の先にいくことが大事。先生から「“さらに1㎝伸ばしてみよう”という挑戦が、前向きな気持ちにつながります」と言われて、また納得。その1㎝の伸びが、まさに老いとの闘い! でもえげつなくではなく、ちょっと頑張る(笑)。
48年間生きてきて、「自分で決断してきた」という自負はありますが、本来、対人コミュニケーション下手な私には、人の「生の言葉」が必要なんだ、ということも学びでした。
「やってみましょう」と言われること。自分の弱みを出せること。そんなやりとりが、心と体をほどいてくれるきっかけになるんだなあ、と。
特に、4歳年上の鍼灸師の従姉妹には毎日のように電話で話を聞いてもらい、命拾いをしました。病院でお医者さんにこんなことを言われた…と泣きつくと、「そりゃ医者は病気を探すのが仕事だから。
でも人の意見に振り回される前に、自分が大丈夫と思えるかどうかが大事だよ」と、的確なコメントをくれて。
コロナ禍によって、人の意見に振り回されることなく、自分はどう考え、感じ、生きていくのかを誰もが問われたのではと思います。心の問題を抱えたときも、人は助けてはくれるけど、最後は自分で腹に落とさないと、どんどん流されて軸がブレてしまう。
結局、すべて自分に返ってくるわけです。心身ともに大事なくこられたこと、一年でここまで浮上できたことに、感謝しなければいけませんね。
怒濤(どとう)の一年で、大切なものは「健康」、手放すべきは「無駄な力み」と自覚しました。これまでの自分に足りなかったもの。それは、頑張るところと緩めるところというモードの上手な切り替えです。
仕事では「寺島しのぶは強くありたい!」でもいい。けれどプライベートでは、完璧にできない自分を受け入れていい。実際、ずっと寝ている私の様子を見て、8歳の息子・眞秀も、「お母さん、まずいんだな」と理解してくれたようです。
「ちょっと体がだるいから、お風呂入れてくれる?」とか「あれ持ってきてくれる?」とSOSを出すと、フットワーク軽く動いてくれるようになりました。
もうちょっと気楽に、「まあいいか」もあり。つねにピリピリとアンテナを張っていた自分とおさらばできたら、本当の意味で強くしなやかな生き方がかなうのかな、と感じています。
寺島しのぶさん Shinobu Terajima
1972年生まれ。舞台・映画を中心に女優として活躍。10年『キャタピラー』ではベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。映画公開待機作に『アーヤと魔女』『Arc』『キネマの神様』がある。07年にフランス人のクリエイティブディレクター、ローラン・グナシアさんと結婚。12年長男の眞秀くんを出産
撮影/玉置順子(t.cube) ヘア&メイク/平元敬一(ノーブル) スタイリスト/中井綾子(crepe) 取材・原文/井尾淳子