かわいくて華やかでいつも生き生き、OurAge世代の憧れの的、風吹ジュンさん。重ねた年齢の数だけ、魅力を増しているように見えます。どんな思いが、どんな毎日が、今の彼女をつくっているのでしょう?
若いときがピークだなんて噓だと思う
<不老不死>とか<永遠の命>とか、人類の夢のように言う人はいるけれど、もしも実現したら、どうなるのでしょう?
「たぶん、誰も本当に望んではいないと思うんです。そうなったらいいね、なんて夢物語として語られることはあっても。むしろ恐怖、想像もつかない怖いことかもしれない――。それを映像にしてみせたのが、この作品だと思います」
映画『Arc アーク』は、近未来、人類がストップエイジング技術により不老不死を手に入れた世界の物語。風吹さんがその中で演じているのは、遺伝子異常によりその施術を受けられず、自然な形で老いていく一人の女性です。
時の流れに逆らうことなく、運命を受け入れて死を迎えようとするその姿は、孤高にしてチャーミング。そこだけモノクロームの映像の中で、生き生きと命の輝きを演じています。
「人間は、生まれたときから死に向かっている。そんなイメージ、若いときはないですよね。私も20代の頃、大人からそう聞かされて、そのとき初めて自分の命について考えました。この映画のタイトル『Arc アーク』は“弓形のもの”という意味で、命は弧を描いて終わっていく、という意味らしいんですけど。
でも、若いときがいちばんピークで、そのあとは落ちていくだけ、というイメージを、私は受け入れたくないの。若さと引き換えに得るものって、いっぱいあるじゃないですか。年をとるって悪くないなって、今、すごく実感しているんです」
それは風吹さんが69歳になった今、噓偽りなく思うこと。
「私の一番の楽しみはやっぱり映画で、暇さえあれば観ているんです。時々、昔観た映画をもう一度観ることもあって、すると若い頃と今とでは、感じるものがまったく違う。年齢を重ねると、こんなに見えてくるものが違うのかって、驚きます。それはとても楽しいことだし、豊かなことだと思うのね。
だから、若いうちに死を選んでしまう人がいるけれど、残念としか言いようがありません。年をとってからの、この面白さを知らずにいるなんて。今の私は、時間があればあるだけ、楽しいの。映画だけじゃない。覚えることも観ることも知ることも、まだまだ無限にあって、毎日、楽しくてしょうがないんです(笑)」
どうやら風吹さんのアークは、年齢を重ねながらつねに上昇中。まだまだピークは先にあるようです。
『Arc アーク』
ケン・リュウの「円弧(アーク)」(『もののあはれ ケン・リュウ短篇傑作集2』所収)を原作に、石川慶監督が映画化。出演は芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫ほか。近未来を舞台に、不老不死の施術を受けて生き続ける女性リナ。彼女が最後に下す決断は…。6月25日より公開中
風吹ジュンさん Jun Fubuki
1952年生まれ。’75年、テレビドラマ「寺内貫太郞一家2」で女優デビュー。映画『無能の人』(’91年)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、『コキーユ〜貝殻』(’99年)で報知映画賞主演女優賞を受賞。幅広い演技力で映画、ドラマに活躍中。近年の出演作に映画『マチネの終わりに』『浅田家!』、テレビドラマ「やすらぎの刻~道」。2020年、毎日映画コンクール田中絹代賞を受賞
撮影/萩庭桂太 ヘア&メイク/石邑麻由 スタイリスト/岡本純子(Afelia) 取材・原文/岡本麻佑