この人が登場するだけで、作品の世界観が一気にバージョンアップする。
問答無用の大女優であり、近年は話題作、注目作にも臆することなく出演、そして快演。
60年以上のキャリアを経て彼女は今、どんな思いで新しい作品に飛びこんでいくのか。
その存在感と美貌とオーラを支えているものは、そしてそのパワーの源は、いったい何?
撮影/富田一也 ヘア&メイク/森田光子 スタイリスト/村井 緑 取材・文/岡本麻佑
三田佳子さん
Profile
みた・よしこ●1941年10月8日生まれ。中学・高校時代から多数のテレビ・ラジオに出演。東京女子美術大学付属高校卒業と同時に東映に入社。’60年に『殺られてたまるか』のヒロイン役で映画デビュー。日本映画全盛期を代表するスター女優のひとりとして60本以上の映画に出演。1967年に独立し、舞台、テレビにも活躍の場を広げた。NHK大河ドラマには2度主演。近年の主な出演作にドラマ『凪のお暇』『すぐ死ぬんだから』『プロミス・シンデレラ』、映画『約束のネバーランド』など。オフィシャルブログ「佳子のガラパゴス遊歩」
60代で私、生まれ変わったんです!
10月28日に公開される映画『天間荘の三姉妹』は、不思議でステキでほっこりする、あったかい作品。天界と地上の間にある老舗温泉旅館・天間荘を舞台に、そこに長逗留している謎の老婦人を演じているのが三田佳子さんだ。
旅館の若女将を務めるのぞみ(大島優子)とその妹かなえ(門脇麦)が、たまえ(のん)を迎え、三姉妹が初めて顔を揃えるところから物語は始まる。なぜ3 人は会ったことがなかったのか、なぜたまえはここに来たのか、そしてどこに向かうのか。
もつれた糸がほぐれるようにひとつひとつの謎が解け、氷が溶けるようにわだかまりが消え、哀しみが昇華していく。
原作は髙橋ツトム氏による人気コミック『スカイハイ』シリーズのスピンオフ作品。
映像の美しさと浮遊しているような空気感が、日常と背中合わせにある生と死、孤独、家族の喪失などなど、シリアスなテーマを浮き彫りにする。
実は三田さん、クランクイン直前まで化膿性肩関節炎の手術のために入院していたそう。
「さすがの私もね、今回は無理なのかしらと思って『降板させてください』って言ったんです。でも監督以下スタッフもキャストも、『三田さんでやりたい』と言ってくださった。『治るまで待ちます』って。
ですから私、衣装合わせも病室からリモートでして、退院して1週間足らずで荷物をまとめてロケ地の北海道に向かったんです。生きるか死ぬかの役だから、なんかその入院期間が今回の役作りになったんじゃないかしら(笑)」
華やかなショートヘアにサングラス。口をへの字に曲げて、不機嫌な老女を見事に演じている。
「まずは原作ありき、ですから。熱烈な原作ファンの方もいらっしゃるので、コミックに出てくる老女・財前玲子に一歩でも近づこうと思ったんです。への字の口がものすごく特徴的だったので、これだけは真似しようと。
でも監督やカメラマンが、私の知らない間にひどく陰影をつけて横顔や首筋を撮ったりしていて、スクリーンで見たら、もうすごいことになっていて。なんだ、口を曲げなくても十分怖かったわって(笑)」
自分に求められているものは、全力で出し尽くす覚悟がある。
「適当にやってしまったら、出る価値がありませんもの。いつも、なんでも真剣です!(笑)」
物語の中には、天間荘の宿泊客に過去を回想させる走馬灯が登場する。三田さんだったら、人生の最後に何を思い出しますか? 思い切って尋ねてみたら。
「さあ、もういろいろいろいろありますから。何が映し出されるか、私が聞きたいくらいよ(笑)」
少女時代に第二次世界大戦を体験し、防空壕に飛びこんだことも。学生時代からラジオや創成期のテレビCMに出演。有名画家のモデルも務めた。その美しさが評判となり、すべての映画会社からスカウトが来たとか。
「日本橋の芸者の置屋さんからも声がかかったんですよ(笑)。結局、東映専属の女優になって、それから幾星霜。60年以上経っちゃった。紆余曲折がありましたけど」
数多くの映画に出演し、20代半ばで独立。求められるままテレビや舞台に進出し、トップ女優として長年大活躍。当時公表されていた長者番付に、何度も上位で登場していた。
その一方プライベートで問題を抱え、活動を休まざるを得ない時期もあり。重い病気で復帰を危ぶまれたこともあった。まさに波瀾万丈!
そんな彼女が大変身を遂げたのが、2009年の舞台『印獣』。それまでの大女優の殻を脱ぎ捨てるように、宮藤官九郎さん作のこの舞台で、今まで見たこともない姿を見せたのだ。
「生の舞台で歌って踊って、べらべらしゃべって。一人で8役ですよ。ランドセルは背負うわ、胸元のこんなところに手を入れられたり、めちゃくちゃなんですよ。
本当にあれで全部壊れて、急に別の役者人生が始まったんです。そこからはもう、役者として怖いものがなくなって、何でも当たって砕けろ。実人生でもいろいろなことがあったから、私、たくましくなりました」
そしてもうひとつ、三田佳子という存在がぐっと身近なものになるきっかけがあった。4年前に始めたブログだ。
「芸能界とは関係のない人たち、お世話になっている銀行のオジサンとかに相談したんです。『私がブログなんか始めるのはどうかしら?』って。すると何人かの人が、『三田さんは実像とイメージが全然違って伝わっているから、やったほうがいいと思います』って。
私、粗忽なところもいっぱいありますからね。それを包み隠さず発信するようになったら、『カワイイから佳子ちゃんと呼ばせてください』なんてコメントも来るようになって(笑)」
ペットの猫や飾っている花のこと、家の鍵を無くした失敗談などなど、ふんわり面白いエピソードを綺麗な写真と共にアップすることが習慣に。写真のクオリティも文章のグレードも、さすがの仕上がり。すべて自分で、気の向くままに発信しているという。
「年をとるとね、日常のモノを見る感覚が鈍るんです。ドーンと大まかになって、鷹揚になるならいいけど、同時にどんどん立派になっちゃう。そうなったらもう、戻れないです。私は立派になんてなりたくないから、小さなものにもいちいち反応して、載せているの」
しかもブログは、もうひとつ良いことを運んできてくれた。
「写真に添える文章を書くことで、鍛えられるんです。自分の思ったことを短く的確に表現するのって、意外と難しいのね。それを続けていくことで、着眼点とかモノを見る力とか、私自身学んでいると思います。
それがこれからの演技にプラスになるかどうかはわかりませんけど、人の言うことをキャッチする力は、ついていきますよね」
もうすぐ81歳、まだまだ演じることに貪欲だ。
「あと10年生きれば90ですから。やっぱり役者としてなんとかやれるのは、10年がいいとこだと思うのね。ですから、ここまで頑張ってきたけど、残りはたった10年ですよ」
今の頑張り、そしてこれからの10年(以上)のために、三田さんは何をしているのか。
美と健康の秘訣は、この記事の後半で詳しく語っていただこう。
(三田さんの病歴と健康についてのインタビュー後編はコチラ)
『天間荘の三姉妹』
天界と地上の間にある老舗旅館「天間荘」を舞台に描かれるヒューマン・ファンタジー。交通事故で臨死状態に陥った小川たまえ(のん)は、謎の女性イズコ(柴咲コウ)に連れられて「天間荘」を訪れ、若女将・天間のぞみ(大島優子)とその妹かなえ(門脇麦)、大女将・恵子(寺島しのぶ)に迎えられる。現世では天涯孤独の身の上だったたまえだが、実はのぞみとかなえの腹違いの妹。イズコはたまえに、天間荘でしばらく過ごした後、現世に戻るか天界へ旅立つか、決めればいいと言うのだが・・・・。
2022年10月28日(金)より全国公開
配給:東映
原作:髙橋ツトム「天間荘の三姉妹-スカイハイ-」(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL刊)
脚本:嶋田うれ葉
監督:北村龍平
出演:のん 門脇麦/大島優子 三田佳子(特別出演)ほか
主題歌:「Beautiful World」玉置浩二 feat.絢香
©2022髙橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
公式サイト:https://www.tenmasou.com/