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横隔膜と下半身、変顔、水素とシルビア・グラブさん(インタビュー/後編)

20代からずーっと次から次に、舞台の仕事に打ち込んできたシルビア・グラブさん。

コロナ禍でこの2年、思いがけない余白の時間を過ごすことで、40代後半の自分の心と体を見つめ直すことになったという。

三谷幸喜さん作・演出の舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』の稽古に入った今は、リセットした喉と体で、絶好調。

最高のパフォーマンスをするために、彼女が今、自分に課しているのは・・・。

 

(日本語の読み書きが苦手なシルビアさんが『鎌倉殿の13人』に出演するまでを語った、インタビュー前編はコチラ

 

撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑

シルビア・グラブさん

シルビア・グラブさん
Profile

シルビア・グラブ●1974年7月17日、東京都生まれ。聖心インターナショナルスクール在籍中から音楽活動を開始。ボストン大学卒業後、1997年に舞台『ジェリーズ・ガールズ』に出演以降、『エリザベート』『アイ・ガット・マーマン』『レ・ミゼラブル』などミュージカルを中心に数多くの舞台に出演。ストレートプレイにも活躍の場を広げ、2008年に『レベッカ』で第34回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞。2012年には三谷幸喜氏の舞台『国民の映画』で読売演劇大賞・優秀女優賞を受賞。2022年には第43回松尾芸能賞・優秀賞を受賞。2005年、俳優の髙嶋政宏氏と結婚。

 

コロナ禍転じて自分磨き

 

年に5~6本、ミュージカルや演劇の舞台に立っていたシルビア・グラブさん。コロナ禍になっていったん、すべてのエンターテインメントがストップしてしまったとき、めちゃめちゃ落ち込んだという。

 

「いつ復活するかもわからない。毎日家で、何をしていいのかもわからない。ずっとテレビの前に座って、昼も夜も逆転しちゃって。3日間くらいシャワーも浴びずに過ごしていて。

そんな自粛生活が2ヶ月くらい続いたときに、“いや、これはヤバイ!”と気がついたんです。“これはマズイ。このままだと、突然仕事が再開しても、人前に立てる自分じゃない。体力もビジュアルもなにもかも、ダメになってしまう!”って(笑)。

今は中断していますが、何か人前に立つパフォーマンスをしようと思って、一時期YouTubeで、子どもの歌を英語で教えるということをやったりしました(「シルビア・グラブのLet’s Sing in English!!!」)」

 

2005年に俳優の髙嶋政宏さんと結婚。すでに17年も経つ仲良し夫婦だけれど、お互い仕事で忙しく、コロナ禍になって初めて二人でゆっくり自宅で過ごすことに。

 

「最初は二人とも仕事ができないストレスが溜まっていたし、ちょっとしたことでイライラしたりしていました。でもそれを乗り越えたら、逆に前よりも仲良くなっちゃった(笑)。

彼が、すごく料理上手になったんです、このコロナ期間に。シェフとか料理人の友達がいっぱいいるので、『こういう食材が今ウチにあるんだけど、一番おいしく食べるにはどうしたらいい?』って聞いて、それを実行して、出来たものを私がいただくという(笑)。ビーフシチューなんて、最高でした。

あとは知り合いのソムリエさんにおいしいワインを選んで送っていただいて、それを二人で飲んだりして、ストレス解消していました。

やっぱり、免疫力を上げるには笑顔が大切なんですね。笑うことが一番。笑うこととおいしいものを食べることが、私の元気のもとだと確信しています」

シルビア・グラブ

そうこうするうちに少しずつ、エンターテインメント復活の兆しが生まれ、2020年7月には『三谷幸喜のショーガール』ソーシャルディスタンスバージョンの公演が実現。舞台初日はお客さんの拍手に迎えられ、涙が出るほどうれしかったとか。

 

「私はやっぱりこれが好きだったんだって再確認できました」

 

それと同時にシルビアさん、大事なことに気がついた。

 

「さすがにもう若くはないので、いろいろな部分で衰えてきているということに、やっと気がついたんです(笑)。

私は怠け者なので、今までトレーニングとか、特別なことはなーんにもしていなかった。20代のときに筋トレもすすめられたんですけど、もともと筋肉がすぐについてしまう体質なのか、ちょっとやるとムキムキになってしまう。大きくなってしまうから、一切やらなかったんです。それで平気でした。

それ以降もずっと舞台で踊ったり歌ったりしていたから、それでどうにかキープできていたんですね。だけどこの年齢になって舞台に立たない時間があると、あっという間に筋肉が落ちて、体力もなくなる。舞台が好き、芝居が好きということは、努力しないといけないんだなって」

 

 

衰えるのは体力だけではなくて。

 

「一番は声かもしれないです。若い頃は寝起きでもいつでも声が出ていたのに、今は少し舞台を離れると声がすぐに枯れたりして。

そんな自分にびっくりして、そしてはっきり自覚できたんです。なにかしら努力しないと、舞台人としての私をキープできないぞって。

声の衰えは、明らかに横隔膜のまわりの筋力の衰えから来ているんです。あとは、足を含めての下半身。声って、やっぱり全身で出すんですよ」

 

そこで探したのがYouTube。体力キープのためのエクササイズ、柔軟性を保つためのストレッチ、そして発声練習と、必要なトレーニングを教えてくれるチャンネルがたくさん見つかった。

 

「その中から自分に合うものを見つけて、常にやるようになりました。どのチャンネルがいいのかは、自分との相性で判断します。いろいろやってみて結局そこに戻る、というのが見つかりました。毎日やっていると確実に違いますね」

シルビア・グラブ

これは読者の皆さんにもおすすめ、と教えてくれたのが、呼吸法。

 

「横隔膜をすごく意識して、息を吸いながら思いきり広げます。そしてできるだけゆっくり、コントロールしながら息を吐いていく。息を押し出すように、ちょっとずつ出すんです。

これ、めっちゃ疲れるんですよ。クラシックの声楽の呼吸法で、完全にここ、横隔膜がエンジンなのが、やってみてわかりました。踊りの人はこのへんを締めるけど、歌の人は広げないといけない。

この呼吸法をやるとね、芝居のときの台詞も楽になります。大きい声で張らなければいけないときも、全然、使えるんです」

 

だから今のシルビアさんは、トレーニング・マスト・ゴー・オン!(トレーニングを止めるな)

 

「これからは40代、50代と、やり続けることが大事なのだと思います。

舞台に立つ人たちを見ていても、ずっとバレエをやっている人は、背筋が伸びていて、めっちゃ姿勢が良かったり、階段を軽々と上り下りしていますものね。やはり足腰をちゃんと鍛えなければ!

ちょっとしたことでいいんです。1時間2時間やる必要はなくて、たぶん1日10分でもいい、なにかやる、そして続けることですよね。私も今、毎日、稽古場に通う車の中で、すごい変顔をしています。顔の筋肉をストレッチしたり緩めたり。停車中、隣の車の人が見たら驚くでしょうね(笑)」

 

ちなみに、夫の髙嶋政宏さんは趣味人というだけでなく、健康オタクとしても有名。自宅に酸素カプセルがあるんですよね?

 

「邪魔なんですよね、大きくて。しかも今は酸素じゃなくて水素になりました(笑)。

ポータブルの水素吸入器を買って、カニューレで入れるので、まるで病人のよう。ドラマの現場とか移動中もずっとやっているらしく、新幹線でもやってると、大丈夫かなって思うけど(笑)、本人は健康のためだからって、気にしていないみたい。でも“そんなにいいなら私も”って、たまーに使わせてもらうことはあります」

 

「そうそう、そういえば」と、シルビアさんが最後にもうひとつ、健康の秘訣を思い出してくれた。

 

「最近、よもぎ蒸しに通い始めました。知り合いの人にすすめられて、試してみたんです。週1くらいですけど、やはり体を温めるのって大切なんですね。調子良くなりましたよ」

 

忙しさが続いていたら、忘れていたかも知れない自分磨き。禍転じて福となるじゃないけど、コロナ禍でできた余白の時間は、シルビアさんが自分を見直す良い機会になったようだ。

 

『ショウ・マスト・ゴー・オン』

舞台「ショウ・マスト・ゴー・オン」キャスト

三谷幸喜氏が「劇団サンシャインボーイズ」で上演した伝説の戯曲(1991年初演/1994年再演)を28年後の今、リニューアル上演。総勢16名のキャストが舞台上を駆け巡る、ノンストップコメディ。『マクベス』を上演する舞台袖、まもなく開演時間が迫る中、舞台監督・進藤(鈴木京香)と舞台監督助手・木戸(ウエンツ瑛士)、演出部・のえ(秋元才加)が忙しく働く中で、次々と問題が起こる。開演後も次々に起こるアクシデント。果たしてこの舞台はカーテンコールにたどりつけるのか?

 

出演:鈴木京香 尾上松也 ウエンツ瑛士 シルビア・グラブ 小林隆 新納慎也 秋元才加 浅野和之 ほか

作・演出:三谷幸喜

福岡公演 202022年11月7日(月)~13日(日) キャナルシティ劇場

京都公演 2022年11月17日(木)~11月20日(日) 京都劇場

東京公演 2022年11月25日(金)~12月27日(火) 世田谷パブリックシアター

企画・製作:シス・カンパニー

https://www.siscompany.com/showmust/

 

 

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