2冊目のスタイルブック『草笛光子 90歳のクローゼット』は、大人の女性たちがこの先10年、20年、30年、どう装うか、どう生きるかの指針になってくれそうだ。
ゴージャスな服はさらっと。シンプルな服はチャーミングに。
どんなファッションも自分流に着こなしてしまう理由は、どうやら服の中身。
歌とダンス、そして演技で磨き抜かれたそのボディ、いったいどうやってキープしているのだろう?
(草笛さんのファッションやグレイヘアについてのインタビュー前編はコチラ)
撮影/天日恵美子(『草笛光子 90歳のクローゼット』より) 取材・文/岡本麻佑
草笛光子さん
Profile
くさぶえ・みつこ●1933年10月22日、神奈川県生まれ。1950年松竹歌劇団に入団、53年『純潔革命』で映画デビュー。主な映画出演作に「社長シリーズ」『犬神家の一族』ほか「横溝正史シリーズ」『沈まぬ太陽』『武士の家計簿』『老後の資金がありません』など。舞台では『ラ・マンチャの男』『王様と私』『シカゴ』『ピピン』『6週間のダンスレッスン』などに出演。近年のTVドラマでは11回目のNHK大河ドラマ出演作である『鎌倉殿の13人』の比丘尼(ひきのあま)役が大好評。1999年に紫綬褒章、2005年に旭日小綬章を受章。
トレーニングも喉のケアも、女優であるために
週に1度、2時間。16年前から草笛光子さんは、パーソナルトレーナーの指導の下、自宅でトレーニングに励んでいる。メニューは主に、ストレッチの後バランスボールで体の軸を整え、筋肉トレーニングも。
もうすぐ90歳の今もハイヒールで歩ける強靱な足腰は、やはりトレーニングの成果なのだ。
「だって私、何十年もハイヒールで舞台で踊ってきましたから。ハイヒールを履かないと仕事にならないし、履くと気持ちもシャキッとします。
もちろん、トレーニングが面倒だなって思う日もありますよ。でも動くと体も頭もすっきりするから、私にはやっぱり必要なんだと思っています。
動いて汗かいて『はい終わった、お疲れさま!』って言った後に飲むジュースがおいしいの! そのときに、今私、すごく栄養がとれているなって思います。
おいしいと思うときは絶対に、栄養になってると信じているの。そう思いません?(笑)」
トレーニングを始める前から、毎日欠かさず続けてきたルーティンワークもある。
「朝、目が覚めるとまず、自分の体と向き合うんです。ベッドの中で背伸びをして、手の指を1本ずつ動かし、腕全体と、足の指先から脚全体もぐーんと伸ばして、それから『はぁーっ』と力を抜くの。
少しずつ伸びを大きくしながら何度かくり返して、そうしながら手や足、腰や背中の感覚を確かめます。どこか悪いときはそのタイミングで何か違和感があるから、わかるのね。
それから体を横向きにして、ゆっくり起き上がるんです。慢性的な腰痛とかギックリ腰にならずにここまで来られたのは、この背伸び体操のおかげだって、私、信じてます。
だから体重計にも、乗ったことないの。数字で測らなくても、自分の状態がわかるから」
さらにトレーナーに勧められたのが、毎日の心がけ。
「起きたらまずストレッチをして、外に出て歩きなさいって言われてます。でもね、起きてもパジャマを着たまま、何もする気が起こらない日だってありますよ(笑)。
そんなに私、ストイックじゃないの。いい加減なのよ。もうちょっと自分に厳格にならないといけないんだけど」
元気の素になっている食べ物は、フルーツ。そして、お肉。
「分厚いステーキなんて食べにくいから、最近は薄くて良いお肉をいただいてます。お肉はやっぱり、食べると元気になりますものね」
話していると、表情豊かで明るくて。気がついたのは、その声の通りの良さ。
「そうね、つい最近も『草笛さん、声が強くてよく出ますね』って言われました。
何もトレーニングはしていないし、最近は舞台も歌もやってないけど、でも、自分の音がちゃんと出ていないと、私の耳が怒るから(笑)。
毎晩寝るときに、乾燥対策はしています。睡眠中に喉が渇かないように、濡らして緩く絞ったタオルを5~6枚重ねて、枕元に置いて寝ます。あと加湿器を一晩中、強くではなく弱めにしてつけておきます。そうすると朝になってやっぱり違いますよ」
そんな努力の積み重ねは、自分の仕事への覚悟と責任があるから。
「伝えるのが私たちの仕事だと思っていますから。自分がテレビや舞台で話すからには、ちゃんとはっきり、言葉の端々まで伝えることができなければ、女優とは言えませんものね?
こういう仕事を持ったからには、それが基本。だから体を鍛えるのも喉のケアも、私の仕事の一部なんです」
もちろん脳への刺激も、忘れない。
「特別なことはしていませんけど、新聞だけは毎日、読みます。政治も経済も事件のことも、世の中で起こっていることを知っておくのは、女優として必要なこと、大事なことだと思うんです。
スポーツニュースも、ちゃんとチェックしますよ。大谷翔平さんのことだって、私、詳しいです(笑)」
今もTVドラマや映画界から、オファーが続く。次の仕事の話になると、シャキッと表情が引き締まった。
「いろんな役を演じてきましたけど、まだまだ演じきっていない役はいっぱいあります。
次に演じる予定の役は、90代でひとり暮らしの女性。先日もその仕事の件でヘアメイクさんと打ち合わせをして、三つ編みをバレッタでまとめる髪にしましょうって決めたんだけど、家に帰ってひと晩考えたの。
90歳の女性が毎朝目が覚めて自分で三つ編みなんてするかしら?って。もっと手軽な、簡単な髪にしないと、90歳というリアリティがないんじゃないかしら?って。だから悪いけど今度メイクさんに会ったら言おうと思ってる」
演じることへの情熱は、ますます燃えさかるばかり。美しく、アクティブに、チャーミングに。草笛さんは自分の力で、90代の日々を切り開いて行く。
『草笛光子 90歳のクローゼット』
著者:草笛光子(主婦と生活社 1870円)
「散歩や買い物などTPOに合わせた着こなし」「おしゃれに見せる6つの鍵」「タンスに眠っている服と小物を蘇らせる」といったファッションの話はもちろん、「旅の思い出」や「心身を整える日々のたしなみ」、そして「生き方」の話まで。素敵な先輩から勇気とパワーをもらえるファッションフォト&エッセイ。