6月16日に公開される『魔女の香水』という映画で、白髪のウイッグを付けて初老の女性を演じている黒木瞳さん。
素に戻ればご覧の通り、相変わらずの美貌と存在感で輝いている。
映画監督や舞台の演出など、さまざまな分野に活躍の場を広げながら、ひとりの女優としてカメラを見つめる視線は、きりっと強い。
アグレッシブに人生を切り開いている彼女は、普段いったいどんな暮らしをしているのだろう?
(黒木さんが言葉と香りの力について語ったインタビュー前編はコチラ)
撮影/富田一也 ヘア&メイク/在間亜希子(MARVEE) スタイリスト/大迫靖秀 取材・文/岡本麻佑
黒木瞳さん
Profile
くろき・ひとみ●福岡県生まれ。1981年に宝塚歌劇団入団。入団2年目で月組娘役トップとなる。映画『化身』(1986年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『失楽園』(1997年)で第21回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。『破線のマリス』(2000年)で日本映画評論家大賞女優賞受賞。『仄暗い水の底から』(2002年)、『東京タワー』(2005年)、『終わった人』(2018年)など数多くの映画作品に出演。近年は映画監督として4 作品を手がけ、舞台演出などエンターテインメントの世界で幅広く活躍中。
今日の私が一番若い!
「白髪のウィッグは、最初から監督がそういうイメージでいらしたので、イヤとも言えず(笑)。いろいろ試行錯誤しながら決めました。似合っていました?」
はい、とても。それに最近は、グレイヘアに憧れる女性も増えているようで。
「そうですってね。でも白髪ほど、お手入れが大変だと聞きました。『よほどの覚悟がないと、素敵なグレイヘアをキープするのは難しいですよ』って、美容師さんが教えてくれたんです。
私は、特にグレイヘアへの思いはなくて、いろんな役を演じたいから、役に応じて黒髪でも金髪でも(笑)」
どんな役でも千変万化。黒木さんを見ていると、女優という仕事は、まさに魔女だなと思ってしまう。年齢は、ただの数字にすぎない。年齢を意識することは、あるのだろうか?
「ありますよ。まずは自分の年齢を知り、受け入れることからすべては始まると思っています。そして、自分を過信しないこと。その上で、自分を諦めないこと。大分前から私の口癖は、『今日が一番若い!』なんです(笑)」
そんな黒木さんが最近、老いについて考えさせられる局面があったとか。
「私、毎朝のラジオ番組(ニッポン放送の「あさナビ」)を持っていて、月に4回いろんなジャンルのプロフェッショナルな方をお迎えして話を聞いているんです。
この前来ていただいたのが脳科学者の方で、話のテーマは『脳を老化させないためにはどうしたらいいか』。おすすめは低GI食でした。食事は野菜から食べ始めるといいとか、しらたきのパスタがいいとか」
GIとは、グライセミック・インデックス(Glycemic Index)、食後血糖値の上昇を示す指標のこと。肥満やメタボリックシンドロームの予防・改善のために、90年代から低GI食が注目を集めてきたけれど、健康のためだけでなく、脳の老化予防にも効果があるらしい。
「それに、言葉です。ネガティブな言葉、例えば『私も歳だから』とか『どうせダメなのよ』とか、否定的な発言は脳を老化させる一番いけないことらしいんです。
・・・でも、言うでしょ?(笑) 言ってしまいますよね。そういうときは『でも』を付けなさい、と。『もう歳だから。でも今日が一番若いのよ』って(笑)。『でも』をつけることで脳が活性化するそうです。
それに、昔話をするのもいいんですって。『昔は良かったね』とか。『ほら、あの時あんなことがあって、笑ったよね』みたいな、昔楽しかった思い出話をすると、幸せホルモンのオキシトシンがいっぱい分泌されるって伺いました。
だから美容で若作りするよりも、大事なのは脳なんだなって」
そのラジオ番組で、いろいろな方をゲストにお招きすることも、黒木さんの脳を活性化させているらしく。
「とても刺激になっています。科学者とか超ミニマム主義の人とか365日ホテルに泊まっている人とか、いろんなジャンルのプロフェッショナルな方とお話するので、その準備のために今まで知らなかった分野の本を読んだりもしますし。
女優だけやっていたら絶対出会えないような方たちと出会って、すごく刺激になるし、どんどん好奇心が湧いてくる。知らなければ聞くし、聞くは一時の恥ですからね。知らないことがいかに多いかを知るのも面白い。
やっぱり欲と好奇心が長生きの秘訣だというのは、確かにそうだと思います」
体のためにやっているのは、タップダンス。時間に余裕のあるときにレッスンに通っている。
「足の筋肉が鍛えられるので、続けようと思っています。
そういえば、その脳科学者の方が言ってらしたけど、筋力だけでなく大事なのはバランス感覚らしいです。
ほら、よくあるじゃないですか。目を閉じて片足で30秒立っていられますか?って。私は絶対にできないんですけど、毎日やっていたら、30秒立てるようになるんですって。
あとはバランスボールに乗るとか、平均台。平均台がある家ってないと思うんだけど(笑)、脳の老化を防ぐためには何か考えなくちゃと思っています。
今のところ立ったまま靴下を履けているので、これも私にとってはバランス感覚を養う良いエクササイズだなとか、日常の中で見つけるようにはしています」
3年前からのコロナ禍で、体のためにもうひとつ始めたことがある。
「散歩に目覚めました。もともと私、歩くのが好きじゃないんです。踊るのは音楽に合わせて躍動感があるし、何かを表現できるから好きなのね。でも歩くのって、何が面白いのかな? どこかへ行ったら帰らなきゃいけないし、だったら行かなきゃいいじゃない?って思ってたくらい(笑)。
でも緊急事態宣言が出て、何かしないと、ずっと家に引きこもっているわけにもいかないから、朝の5時くらいに夫を起こして一緒に歩いていました。
最初は30分くらい、だんだん伸ばして最後は1時間くらい。今日は東、今日は西、今日は南、みたいな感じであてもなく」
パートナーと一緒って、仲がいいんですね!
「それはね、自分ひとりで散歩したくないから(笑)。しゃべりながら歩くほうが、気が紛れるかなと思ったんです。
でもそのおかげで、夫婦の会話が増えましたね。家の中にいると話題が少なくなるけれど、外を歩いていると、『ああ、そういえば』って、普段しゃべらないようなことを話していましたね」
体重管理のために、毎日必ず体重計に乗ってチェックを欠かさない。
「50グラム増えていたら、今日のうちに50グラム減らそうとか、そんな感じです。そんなにストイックじゃなくて、自分に甘いんですよ」
そういえば少し前、テレビのバラエティ番組で披露していたのは、まるで都市伝説のようなエピソード。都内の某コンビニに、パジャマの上にコートを羽織った黒木瞳が現れ、カップヌードルを買っていくという・・・。
「そうそう、どうしても食べたくなる時があるんです。カップヌードルとチキンラーメンが。受験勉強していた頃、午前3時4時になるとカップ麺が食べたくなって。あの時の味が忘れられないのね。だから食べたくなったら、パジャマの上にコートを羽織ってでも近所のコンビニに買いに行きますよ」
塩分や糖質のとりすぎなんて、コンビニに行く時点で記憶から消去されている。
「いいの、無性に食べたくなったら食べる、それも大事なことでしょ。今日が一番若いんだから!(笑)」
『魔女の香水』
〈魔女〉と呼ばれるひとりの女性が、自ら作り出す香水の香りによって、夢に挫折した若い女性を成功へと導いていく物語。派遣社員として働く若林恵麻(桜井日奈子)は正義感の強さから職を失い、自暴自棄に。夜の街のスカウトマンの案内で〈魔女さん〉こと白石弥生(黒木瞳)の店を訪れ、香水に秘められた力を教えられる。そこから恵麻の人生は大きく変わっていくが……。
2023年6月16日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
配給:アークエンタテインメント
監督・脚本:宮武由依
出演:黒木 瞳 桜井日奈子/平岡祐太 水沢エレナ 小出恵介 落合モトキ 川崎鷹也 梅宮万紗子/宮尾俊太郎 小西真奈美
©2023 映画「魔女の香水」製作委員会
公式サイト:https://majo-kousui.jp/