50代、60代、大人になったその後に、これからの人生をどう生きるか。
このところ、そんなテーマの本が書店の棚にずらっと並んでいる。
人生の諸先輩がたくさんの本を出しているその中で、キラリと光る本を書いたのが、山本浩未さん。
ヘア&メイクアップアーティストならではの斬新な視点で、年齢について老化について、健康について日常の暮らしについて、ユニークな持論を展開。
読者とのコミュニケーションも深くて熱くて、なんだかとても楽しそう!
撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑
山本浩未さん
Profile
やまもと・ひろみ●1964年、広島県福山市生まれ。資生堂美容学校を卒業後、資生堂ビューティークリエイション研究所でヘア&メイクアップアーティストとしての仕事をスタート。1992年フリーランスとなり、雑誌、広告、CF、カタログなどでヘア&メイクを担当。自らの体験と経験をもとに独自の美容メソッドやキレイになる情報を発信してきた。毎日12時15分から10分間インスタグラムのライブ配信『毎日Beauty Live』が人気を集めている。インスタグラム @hiromicoy
我慢はしない。でも諦めない。
大人のためのキレイメソッド
山本浩未さんは、今までにもたくさんの本を出している。ヘア&メイクアップアーティストだからメイクアップについての美容本が多いけど、近年は〈年齢を重ねてからのキレイ〉をテーマにすることが増えてきた。
「約10年前、私が50歳になるちょい前に、『同窓会で二番目にキレイになるには…』という本を出しているんです。でも最近その本を見直してみたらね、『あれ? なんか違う!』って思ったの。50歳と60歳って、全然違うんです。
50歳のときは『これから先自分が年を重ねていくのが楽しみ!』みたいな、けっこう前向きなことを書いたけど、実際は私、50代をそんなに軽やかに過ごせなかった。更年期の症状はあったし体も変化したし、見た目の変化は本当に著しいし。
それに、小さな我慢ができなくなるんです。今はもう、ヒールの高い靴は履きたくないし、重いバッグは持ちたくない。やっぱりコロナもあったし、お洒落の意識も変わってきているしね。
で、自分の気持ちも前とは違うと自覚したから、よし、もう一冊書いてやろうって」
そこで書いたのが、『60歳 ひとりぐらし 毎日楽しい理由』。
もちろんキレイになるためのヒントやノウハウもてんこ盛りだけど、健康のために何をするか、ハッピーに生きるためにはどんなマインドでどんな習慣で過ごせばいいか。50代、60代以降の人生を真っすぐに見つめて、普段の自分を飾らずぶっちゃけて書いている。
「やっぱりみんなキレイになりたいし、楽しく生きたい。美容だけじゃなくて衣食住全部、楽しくできたらいいじゃないですか。
実はそんなにびっくりするようなたいしたことは書いてないですけど(笑)、読んでくれている人に、私が横から応援しているみたいな。
字も大きくしてあるから、読みやすいしね(笑)」
背景にあるのは、毎日続けているインスタライブだ。毎日10分間、時には素顔からメイクテクニックを披露したり、あれこれキレイのヒントを連日発信している。
「インスタを始めて気づいたのは、今まではそれほど美容に熱心じゃなかったけど、でもやっぱりキレイになりたいという大人の女性が世の中にはいっぱいいるということ。その人たちのためにも、簡単で安心で挑戦しやすい美容テクニックを広めていきたい。それが私の役目かなって思ったんです。
だからハードルは高くないの。美魔女になる必要はないし、若作りするのも賛成しません。自分なりに、その人のキャラで年を重ねていけばいい。でもそのためにはやっぱり、年を重ねれば重ねるほど手間がかかるんです。
だって私たちはしなびた野菜、ドライフルーツだから(笑)。ちゃんと手をかけてあげないと、おいしく食べられない。でも生きている限りは変化することができるから、あきらめちゃいけなくて」
水と油分を補って、とにかく保湿。スチーム洗顔もおすすめ。血行は大事、などなど、本に紹介されているのは気軽に今すぐ始められそうなアイデアばかり。
そして、今日。彼女自身のメイクは松竹梅の松!
「メイクも要は松竹梅なんです。TPOを考えずにいつも同じメイクをしちゃう人が多いけど、そうするとメイクが楽しくないし面倒臭くなっちゃう。ルーティンワークになるからワンパターンで、いつのまにか時代と合わない古臭いメイクになってる。
でも松竹梅って設定すると、今日はちょっと楽しもうとか、今日は手抜きでいいやとか(笑)。自分の気持ちも変えられると思うから、そう提案しているんです。
松が一番きちんとしたメイク。竹は人と会ったり会社に行ったり、ちょっとお出かけしたりするときのメイク。で、梅っていうのはウチで過ごして誰にも会わない、せいぜい近所に買い物に行くくらいの日のメイクです。
メイクしない日もあっていいけど、でもやっぱりこの年になると、ノーメイクで掃除してるときにふと鏡に写った自分の顔を見てびっくりするのね(笑)。
だからメイクは、若い頃は周りの人のため、身だしなみとして必要だと思っていたけど、今は何よりもまず自分のため。自分にスイッチを入れるような感覚です。宅配便が来てもあわてない、買い物に行ってもひるむことがない、みたいな(笑)」
あるあるの体験談と一緒に語られると、確かにメイクをこの辺で1回、見直したくなる。
メイクの松竹梅を、もう少し突っ込んで聞いてみると。
「メイクの基本は〈白・黒・赤〉。その3色があると、とりあえずみんな元気にキレイに見えます。
白っていうのは明るい肌色。日焼け止めに色がついたのをピピッて塗って、パウダーで押さえて。そうすると紫外線が当たっても大丈夫だし。
黒っていうのはマスカラとかアイラインとか。ちょっと付けると強くなる。
で、赤はリップクリームやチークの血色感です。
この3つさえ抑えておけばなんとかなるんですよ、大人の顔って。
最低限の梅の日は、日焼け止めを塗って眉を描いてリップクリームをつけるだけ。
竹の場合は自分の個性をちょっと活かしたり、ダメなところをカバーしたり。日焼け止めだけじゃなくてシミを消すとか、アイカラーを入れて色と質感を出すとか、マスカラもちゃんとつけるとか。
そして最上級の松の日は、メイクを濃くするというよりは、丁寧にする。することは竹と変わらないけど、時間をかけたり、アイテムをちょっと増やしたり。
メリハリがつくので、もちも良くなるし、顔立ちが変わります。これはもう、圧倒的に変わります。丁寧さによって肌の質感とか、生き生き感も変わるんですよ!」
毎日同じメイクをしていると、同じ自分にしか出会えない。メイクにもバージョンアップが必要なのだ。
「使う化粧品も、です。今のメイクアイテムは、質感の出し方が昔とは比べものにならないくらい良いんです。若向きのプチプラコスメも、使いこなしてしまえば強い味方になります」
ヘアもまた、大事な要素。
「髪の毛って、メイクより大事だと思うんですよ。顔を縁取る額縁だから、ちゃんとした形にしたい。
今の自分に合うヘアスタイルを探すのって本当に難しいし大変だけど、でも難しいと思っているだけでは、どうにもならない。いろいろチャレンジして、ベストのヘアを見つけて欲しいですね。面倒臭いと思ったら、もうそこでおしまいだから」
山本さんの言葉には、魔力があるみたい。聞いているうちにどんどんやる気がみなぎってくる。
あまり軽やかには過ごせなかったという更年期をどう乗り越えたのか、今の元気の素はどこにあるのか。楽しいお話の続きは、後編でじっくりと。
(山本さんの現在の楽しみと、更年期についてのインタビュー後編はコチラ)
『60歳ひとりぐらし 毎日楽しい理由』
著者:山本浩未(小学館 1,650円)
〈自分を心地よくできるのは自分だけ!〉という信念をベースに、健康と元気を作る、キレイな人になる、ハッピーに生きるためのヒントを大公開。さらに心も体もそれまでとは違う60代を、快適に楽しく生きるためのアイデアやノウハウがてんこ盛り。読み終わる頃には元気100倍。家族がいてもいなくても、自分の力で自分なりに、これからの人生を楽しもうという勇気がわいてくる。