高畑淳子さんの魅力がフルに生かされた主演映画『お終活 再春! 人生ラプソディ』が公開される。
70代を目前にした今も、その大らかな存在感とリアルな演技はキラキラと輝きっぱなし。
このパワー、この迫力、この元気の素はどこから来ているの?
質問するとその答えはあっちに行ったりこっちに行ったり。爆笑続きのインタビューとなった。
撮影/富田一也 ヘア&メイク/山口久勝(Allure) スタイリスト/森美幸(監物事務所) 取材・文/岡本麻佑
高畑淳子さん
Profile
たかはた・あつこ●1954年10月11日生まれ、香川県出身。1976年に劇団青年座に入団。舞台、映画、ドラマで活躍する一方、バラエティでも人気を集めている。最近の舞台出演は『チョコレートドーナツ』(20、21、23年)、『4000Miles~旅立ちの時~』『冬のライオン』(22年)、『さるすべり』(24年)など。映画出演は『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』『女たち』(21)、『母性』(22)、『仕掛人・藤枝梅安』『月』(23年)、『あまろっく』(24年)など。14年秋、紫綬褒章受賞。ほか紀伊國屋演劇賞個人賞、菊田一夫演劇賞演劇大賞など受賞歴多数。現在、テレビ朝日系のドラマ『Destiny』に出演中。
『愛の讃歌』を歌いあげます
5月31日に公開される映画『お終活 再春! 人生ラプソディ』の中心人物は、高畑淳子さんと名優・橋爪功さんの熟年カップル。
このふたりが並んでいるだけで、ほっこり笑えてちょっぴりどこか哀しくて、これからどんな物語が始まるのか、わくわくする。
「橋爪さん、大好きなんです。世の中にあんなすごいオッサンはいないな、って思います。悪口ばかり言ってますけどね(笑)。私が近づくと、『お前はうるさいからあっちに行け!』とか言うんですよ。娘役の剛力彩芽さんが来ると、ニヤニヤうれしそうに話しかけるくせに(笑)。
橋爪さんは撮影のとき、家のセットに入ると、まずソファにごろんと横になって昼寝を始めるんです。そうやって自分の家にいるように、日常の生活がそこにあるみたいに、わざとらしく作り上げないようにしているのね。それが今回、橋爪さんと私のテーマでした」
この老夫婦、娘が結婚して家を出て行き、ふたりだけの暮らしが始まる。ところが夫に認知症の兆候が出てきて、しぶしぶデイサービスへ。一方妻は、思い切ってシャンソンのレッスンに通い始める。ステージで歌うという、若い頃の夢を叶えるために。
本作は21年に公開された『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』の続編。前作の評判は上々、さらにバージョンアップした意欲作だ。
最初に台本を読んだときの印象は?
「実は私、台本が読めないんです。『こういう仕事のオファーが来ましたけど、やりますか?』って渡されても、大体3ページも読まないうちに寝てしまいます(笑)。台本だけじゃ、その作品の良し悪しなんてわからないんですよ。
今までで1回だけ、チェーホフの『三人姉妹』の台本だけは、すらすら読めたし面白かった。けれど不思議なもので、ちゃんと読める台本というのは、舞台の上でそれ以上発展しないんです。
逆に『スリー・トール・ウィメン』というピーター・シェーファーの台本は、難解で3ページも読めなかったんですけど、いざ芝居になったらすごく面白かった。
ですから台本で判断はしないですね。あまりアテにならないので」
では出演作を何で判断するか、というと。
「共演する俳優さんとか、監督さんのお人柄とか(笑)。
今回、すごい豪華キャストでしょ? 私の好きな俳優さんが多いなって。橋爪さんはじめ主演クラスの、1本映画が撮れる方ばかり。それに私、石橋蓮司さんの大ファンで、石橋さんがしゃべっているだけで、うれしくなっちゃう」
ヒロインの高畑さんはラスト近く、ステージでシャンソンを歌いあげるシーンも。
「いやもう、穴を掘って入りたいです(笑)。でもこれは普通の主婦が、人生最後に夢を叶えたという設定ですから。うまい下手はともかく、人前で歌う、その気持ちが大事なのだ、と。上手に歌おうとか、そういう気持ちじゃなくて」
ドレスアップしてステージに立つその姿は、さすがの美しさ。取材している最中もきりっとした表情で、失礼ながら年齢を感じさせない。
「これはね、ヘアメイクさんが頑張ってくださったおかげです(笑)。地毛をギューッと引っ張ってからカツラをかぶせていますから。
柴田理恵さんもほら、アップにしてポニーテールにしてますでしょ? ベテランの女優さんは、そうやって縛り上げている方、多いです。内緒ですけどね(笑)。
もう、ギューッと顔の皮膚が上がるので、カツラはなかなかの武器になるんですよ(笑)」
作品の中で歌っているのは、『愛の讃歌』。
実はこの歌には高畑さん、因縁がある。舞台『越路吹雪物語』(2006~2008年)で越路さんのマネジャーであり、『愛の讃歌』の日本版の歌詞を作詞した岩谷時子さん役を演じ、絶賛されているのだ。
「当時、岩谷先生は『この大女が自分を演じるのか』って、心配になったんでしょうね。帝国ホテルのティールームに呼ばれて、8時間お茶したんです。きっと『言うべきことは言うとかんとあかん』と思ったんでしょうね。
何から何までいろいろお話をしてくださいました。そのとき岩谷さんをじっくり観察できたおかげで、演じるのが楽しくなりました。
舞台上の私が『本物の岩谷さんそっくりに見えた』って、たくさんの方にお褒めいただいたんですよ(笑)」
と、それはともかく。本作では70代にしてようやく自分が抱えていた夢を実現するヒロインの姿に、思わず拍手喝采。
「もしかしたら私も、このヒロインと同じような人生だったかもしれないって思います。生まれ育ったのは田舎だったので、生の舞台も見たことがなくて。母が映画好きだったくらいで、こういう芸能の世界とはまったく無縁なところで成長したんです。
母には『学校の先生になりなさい』って言われてました。でも大学に進学するときに思い切って演劇を学べる学校に飛び込んだおかげで、今こうしているんですけどね」
大学を卒業後、劇団青年座に入団したものの、なかなかスポットライトが当たらなかった20代。30代に入る頃から舞台女優としてじわじわと評価が高まり、40代でTVドラマに進出し、50代からは大ブレイク。
そのブレイク前夜に更年期が重なり、大変だったという話は後編でじっくり。お楽しみに!
(高畑さんの更年期や健康についてのインタビュー後編はコチラ)
『お終活 再春! 人生ラプソディ』
21年に公開された『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』の続編。前作に出演した橋爪功、剛力彩芽、松下由樹に加え、長塚京三、鳳稀かなめ、藤原紀香(友情出演)、大村崑など豪華キャストが競演。すれ違いばかりの熟年夫婦、親子の葛藤や介護の現実などなど、身につまされるエピソードがいっぱい。でも、かつての夢にチャレンジするなら、今! これからの人生を楽しむことも、ひとつの「終活」だと教えてくれます。
2024年5月31日(金)より全国公開
配給:イオンエンターテイメント
脚本・監督:香月秀之
出演:高畑淳子 剛力彩芽 水野勝 松下由樹 橋爪功
Ⓒ 2024年 年「お終活 再春!」製作委員会