5月31日に公開される映画『お終活 再春! 人生ラプソディ』に主演している高畑淳子さん。
今年(2024年)10月11日の誕生日には70代に突入する。
舞台に映画にドラマにバラエティと、忙しい毎日を送っているけれど、いつも元気、いつも明るく、いつもエネルギッシュな印象だ。
どうして? どうやって? と質問すると、その答えはやっぱりあちこち脱線して、笑えるエピソードが大渋滞!
(高畑さんの肌にハリをもたらす秘密兵器や、映画についてのインタビュー前編はコチラ)
撮影/富田一也 ヘア&メイク/山口久勝(Allure) スタイリスト/森美幸(監物事務所) 取材・文/岡本麻佑
高畑淳子さん
Profile
たかはた・あつこ●1954年10月11日生まれ、香川県出身。1976年に劇団青年座に入団。舞台、映画、ドラマで活躍する一方、バラエティでも人気を集めている。最近の舞台出演は『チョコレートドーナツ』(20、21、23年)、『4000Miles~旅立ちの時~』『冬のライオン』(22年)、『さるすべり』(24年)など。映画出演は『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』『女たち』(21年)、『母性』(22年)、『仕掛人・藤枝梅安』『月』(23年)、『あまロック』(24年)など。14年秋、紫綬褒章受賞。ほか紀伊國屋演劇賞個人賞、菊田一夫演劇賞演劇大賞など受賞歴多数。現在、テレビ朝日系のドラマ『Destiny』に出演中。
『白い巨塔』は更年期で汗ダラダラでした!
最近は体力作りのために、1日おきにプールで泳いでいるという。
「1キロ泳いでいます。学生の頃水泳部だったので、泳ぐのだけはかろうじてまだできるので。クロールで25メートル行ってターンして帰りは背泳ぎ。それを連続して50分くらい。毎日やるとちょっと肩が張るので、1日おきです。
もちろん疲れますし、しんどいんですけど、毎日続けている自分を見るのが好きなんです。じゃないと私、すごいぐうたらなので。放っておくと朝方まで映画やドラマを見て、昼の3時くらいに目が覚めるようなひどい生活をしてしまうんですよ(笑)。
若い頃は子育てに追われていたので、思う存分映画を見たり夜更かししたりっていうのができなかったんですね。それが今できるから、うれしくて。
それに俳優って不規則な仕事だから、夜中過ぎまで撮影ってこともありますし。だから寝られるときに寝たいという思いがあるから、ついつい惰眠をむさぼって不規則になってしまいます」
そんな高畑さんが更年期に悩まされたのは、今から約20年前。テレビドラマ『白い巨塔』(2003年)で、前のめりにしゃべりまくる個性的な教授夫人を演じた頃のこと。
「なんかおかしいなと思って病院に行ったら、先生が『あ、ホルモンがなくなったんだね。薬出しますから、はい、次の方どうぞー』って。
『3時間待ってそれだけかい?』と思って腹が立ちましてね。ホルモンがなくなったってカスみたいに言われて、ベルトコンベアに乗せられているみたいに追い払われたのが、すごく腹立たしくて。
『だったら自分で治したるわい!』と思って、ビデオのレンタルショップに行って、エッチなビデオを数本、初めて借りました。いやらしいことを考えたらホルモンは増えるんじゃないかと思って(笑)」
どんな更年期症状だったのかというと。
「妙にイライラする、妙に哀しくなる。あと、ほてる。
『白い巨塔』の撮影中だったんですけど、ドーランを塗ったとたんにジャッと汗が流れるんです。すごく暑くてだらだらと汗をかいて、メイクさんが『地塗りができません』って泣いてました。それが一番困りましたね。
私の娘を演じていた矢田亜希子さんが『撮影現場が寒い』と言って膝に毛布を何枚もかけているのに、隣で私は汗だくでした(笑)」
そんな不調にもめげず必死にこの役に取り組んだのには、実はわけがあって。
「郊外に小さな建売住宅を買ったばかりだったんです。大きな買い物ですけど、半年続く連続ドラマのレギュラーが決まっていたので、そのギャラをあてにして思い切って買いました。ところがそのドラマがある事情で中止になってしまって。切羽詰まって『どうしよう?』と。
そこからは『どんな役でもやります!』って、宝石を買いに来る客Aとか、ちょっとしかでてこないお母さん役とかを次々にゲットして、“ワンシーン荒らし”って言われたくらい(笑)。
ちょうどその頃、『白い巨塔』の教授夫人役が二人、まだキャストが決まってなくて、どちらかやらせていただけるかもしれないというのを聞きつけまして。
『はいはいはい!』って手を挙げたら、『どっちにする?』と聞かれたので、『出番の多いほう!』って(笑)。ですからもう、汗をだーっと流しながら頑張りました(笑)。
本当は最初ちょっと出るぐらいの役だったのが、なんだか好評で、あとまで出していただけたんです。
ただ所属していた劇団にはすごく怒られました。実はあの役、25年前に田宮二郎さんが主演された『白い巨塔』(1978年)で、青年座の創立メンバーの女優さんが品良く演じた役だったんです。なのに私があんなふうに演じたものだから『もうちょっと落ち着いて演じなさい』って、いろんな人に叱られて。
でもあの役が好評だったおかげで、私という俳優を認知していただいた。なんか面白い人として、バラエティ番組にも呼んでいただけるようになったんです」
ツラくて大変だったはずなのに、笑えるエピソードにしてくれた。
それからの50代、60代、いちばんの変化は?
「台詞覚えです。台詞の入り方が、千倍遅くなりました。
台詞を覚えるために私、紙に書いて壁に貼りまくって覚えるんですけど、長い台詞がある役だと壁中が文字だらけで、『耳なし芳一』みたいな家になっちゃう(笑)。
しかもいったん役に入ると、頭がほかのことを受け付けなくなるんですね。忘れ物、落とし物、なくし物が多くて。娘には『お母さん、5秒前に言ったことを忘れているよ』って、よく言われます。
お芝居に入るともう、99.9%そっちに行っちゃうので、残りの0.1%でかろうじて生き延びているような感じです」
それでも、できるだけ長く俳優の仕事は続けたい。だから。
「人間ドックに行っています。年に1回、MRIで体を輪切りにして全部撮って、でも消化器系は写らないので無痛の胃カメラも飲んで。今のところ『脂っぽいものやお酒は控えめに』と言われる程度で済んでいます」
食生活は、五味五色。
五味(甘い・塩辛い・酸っぱい・苦い・辛い)と五色(赤・白・黄・緑・黒)を毎日の食事にまんべんなく取り入れることで、健康を保っているそう。
「元気なご高齢の女優さんに『何に気を付けていらっしゃいますか?』と聞いたら、教えてくれたんです。
朝一番にヨーグルトを食べますから、白ですよね。それと果物。パイナップルも肌の保湿に良いらしくて、黄色でしょ。黒はとりにくいけど、ひじきとかゴマとか。
朝忙しいときは残り野菜をミックススムージーにして飲むようにしたら、私、もともとすごい肌荒れがひどくて、ほっぺたにクレーターのようなニキビ跡があったんですけど、きれいになりました。効くんですね!
それと腸にはゴールデンタイムがあって、夜の11時なんですって。だから寝る前に、ちょっと小腹が空いたなというときには、ヨーグルト飲料を飲むようにしています。肌と腸はすごい関連してるっていうから、それも効いているんじゃないかな。
あと『リンゴは朝一番に食べないと意味がないんだよ』とか、ちょっと聞いたことを妄信的に信じる癖がありますね」
きっちりいろいろ、やっている。
「すぐ人に聞くんです。そして良いと言われると、すぐやります。
3日前にも、同窓会みたいなものがありましてね、そこでひとり、とてつもなく若く見える男性がいて。まわりは髪の薄くなったオジサンばかりなのに、その人だけ髪が黒々としていて、血色もいいんです。
聞いたらその人はNMNをとっているというので、早速ネットで注文しました。まだ届いていないんですけどね」
元気そうな人に会うと、体のために何をしているかを聞いて、実践する。真面目で謙虚で素直で実行力がある、そんな真っすぐな姿勢が、今の高畑さんの健康の秘訣のようだ。
それは健康に関することだけではなくて。
「芝居についても聞きます。『お芝居で大事になさっていること、教えていただけますか?』って。でも誰にでも聞くわけじゃなくて、今までに聞いた方は3人しかいません。
森光子さんは、『“和”かしらね』って。市原悦子さんは、『そうね、たかが芝居、されど芝居ってことかしら』って。なるほどなって思いました。
あとひとり聞いたのは、古田新太です。『フルチン、あんた芝居って何が一番大事やと思う?』って聞いたら、『“流れ”っすかねー』って(笑)。
3つとも宝です、私にとって」
高畑さん自身は、何を大事にしているのだろう?
「客席に今自分が座っていたら、その自分が見たい芝居をやる、ということです。
演じるときには演じる怖さがあるから、ヘタに見えたくないとか間違えたくないとか、一生懸命になるんですけど、雑念はとっぱらって、客席の自分が面白いと思うような芝居をしたいです」
きっぱり、言い切った。まだまだこれからも、活躍は続く。
「この先年齢を重ねても、体が動くならどんな役でもやりたいですね。舞台の上手から下手までグダグダ走り抜けるだけのオバアサン役とか、座ってるだけで面白い役とか、ご長寿早押しクイズに出てくるご老人みたいな役も(笑)。
私、役柄にはこだわりませんし。歳をとったらとったで、シワやたるみが武器になるかもしれない。ですから今はこう、カツラの下で肌を引っ張り上げていますけど、なるべくいじらないで、これからも素の自分で勝負していこうって思っているんですよ(笑)」
『お終活 再春! 人生ラプソディ』
21年に公開された『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』の続編。前作に出演した橋爪功、剛力彩芽、松下由樹に加え、長塚京三、鳳稀かなめ、藤原紀香(友情出演)、大村崑など豪華キャストが競演。すれ違いばかりの熟年夫婦、親子の葛藤や介護の現実などなど、身につまされるエピソードがいっぱい。でも、かつての夢にチャレンジするなら、今! これからの人生を楽しむことも、ひとつの「終活」だと教えてくれます。
2024年5月31日(金)より全国公開
配給:イオンエンターテイメント
脚本・監督:香月秀之
出演:高畑淳子 剛力彩芽 水野勝 松下由樹 橋爪功
Ⓒ 2024年 年「お終活 再春!」製作委員会