年齢を重ねたら、どんなふうに生きるのが正解? そんな悩みに応えようとするコンテンツが人気を集める今、強力な映画が公開される。
波瀾万丈な人生を強靱な精神力で生き抜き、90歳にして人気エッセイの連載を開始した作家の佐藤愛子さん。そんな彼女をモデルにした『九十歳。何がめでたい』だ。
まさに今90歳の草笛光子さんが主演、その娘・響子役を演じているのが、真矢ミキさん。
実生活でも作品の中でも、魅力的な先輩たちをたくさん見てきた彼女が今、思うのは?
撮影/富田一也 ヘア&メイク/平 笑美子 スタイリスト/佐々木敦子 取材・文/岡本麻佑
真矢ミキさん
Profile
まや・みき●1964年1月31日生まれ、大阪府出身。1979年宝塚音楽学校に入学。1981年宝塚歌劇団に入団。1995年花組トップスターに就任。個性派スターとして人気を集め、「ヅカの革命児」と呼ばれたことも。1998年に退団後は俳優として、ドラマ・映画・舞台など幅広い分野で活躍。2017年『高等学校卒業程度認定試験』に合格している。近年の出演作に、Netflix映画『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』、ドラマ『TOKYO VICE SEASON2』『ブルーモーメント』、近著に『いつも心にケセラセラ』(産業編集センター)など。
パワフルな母親に立ち向かい、寄り添う娘を演じて
ヒロインが90歳! そんな映画は初めてかも。
演じている草笛光子さんがとてもチャーミングで、ヒロインを支える娘役の真矢ミキさんがとっても素敵で、『九十歳。何がめでたい』は、老いという逃れようのない現実を描きつつ、なぜか元気が湧いて、ほっこり優しい気持ちが残る作品になった。
「草笛光子さんとご一緒するのは2 回目です。最初は2012年に私が主演した連続ドラマ『捜査地図の女』で母親を演じてくださいました。そして今回も私が、娘の響子さんを演じています。
草笛さんはひと言で言うと、『粋』な方。温かいし優しいし思いやりもあるしサービス精神たっぷりなんですけど、それらがすべて、さらっとしている。
おそれ多いですけど、私自身の母と、ちょっと性格が似ています(笑)。母と草笛さんは生まれ育ちが横浜で、異国の方が普通に街を歩いているような、そういう土地柄もあるのかな、憶測ですけど(笑)。
お節介まではいかないけど、親切なんです。母の口癖は『for others』と『ハマッ子はね、自由で寛大なのよ』でしたから」
残念ながらお母さまは数年前に他界されてしまったけれど、ともに過ごした晩年の時間は、今回の役作りに大いに役立ったとか。
「最後まで、そんなに手のかかる母親ではなかったのですが、一緒にいる時間が長くなると、そうそういつも優しく接することが難しくなるんですね。
半年前までできていたことができなくなったり、急に食の好みが変わったり、それも老いなのかもしれないけれど。こちらの言葉遣いもだんだんキツくなってしまう。
この映画でも私が登場するシーンの最初の台詞が『うるさいなー!』ですから(笑)。もうね、その言い方にはいろいろ苦心しました」
佐藤愛子さんはあまりにパワフルな母親なので、娘の響子さんには他からはうかがい知れない苦労もあるはず、だけど。
「たぶん響子さんは、その場の空気とか求められているものを瞬間に察知して、バランスを取ることのできる方。自分の存在を消すこともできるし、ぱっと助けに行くこともできる。そんな存在なのだと心づもりをしながら演じました」
母と娘ならではの、愛情や面倒臭さや馴れ合いや阿吽(あうん)の呼吸が、スクリーンから伝わってくる。
この母がいてこその娘であり、この娘がいてくれるから、母親は母でいられる。
真矢さんのお母さまは、どんな方でした?
「私の母は、知り合いの前ではいつも、私の頭をポンポン叩きながら『こんなのはどうしようもないのよ』『器量も悪いし頭も悪いし』って言うような人で(笑)。
愛情たっぷりなくせに、それが恥ずかしいのか、謙遜と卑下ばかり。愛情表現がちょっと屈折していましたね(笑)」
そんな母から向けられる視線は、真矢さんの人生にも大きく影響したらしく。
「私が宝塚音楽学校に入ったのは15歳の時ですけど、進学できなかった分、『新聞をとって、1日1行でもいいから読みなさい』『本を読みなさい』ってずっと言われていました。そのおかげかどうか、本を読むのは好きですね(笑)。
宝塚を卒業して俳優になって、一時期、朝の情報番組を任せていただくようになったときに、ふと母の言葉を思い出したんです。『私、大丈夫かな?』って。
番組では日々さまざまな情報が流れるから、せめて私は基礎的な知識だけでもきちんと備えておかなければ、と」
どうすればいい? と悩んでひらめいたのが、『高等学校卒業程度認定試験』。
「『そうだ、受験すればいいんだ!』って(笑)。資格が欲しかったわけじゃないんです。私が最後まで頑張りきれる、何か締め切りが欲しかった。やっぱり大人になると締め切りの大切さを感じます(笑)」
53歳にして、受験に成功。
「受験はすべて暗記と記憶だと思っていたから、ちょっと侮っていたんです。私は舞台人として記憶力があるし、映像の仕事をして暗記の力もついたから大丈夫だろうって。
でも8科目はさすがに、本当に死ぬかと思った。頭にはキャパシティの限界もあるんですね(笑)。苦労しました。
今、役者としていろいろな方の人生を演じるということは、台本に書いてある台詞だけではすませられない。その物語の時代背景とか社会情勢をつかんでおくことは大事ですから、勉強できたことは私の力になっていると思います」
そして真矢さんは2024年の今年1月、60代に突入。相変わらずの美貌とスリムなプロポーションをキープしながら、人生の新しいフェーズに乗り込んだところ。
体のこと、心のこと、どういう変化を感じ、どう立ち向かっているのかなどなど、インタビュー後編で聞いてみた!
(真矢さんの更年期や体についてのインタビュー後編はコチラ)
『九十歳。何がめでたい』
数々の文学賞を受賞してきた作家・佐藤愛子さんのベストセラーエッセイを草笛光子さん主演で映画化。90歳を過ぎて断筆宣言したものの、ウツウツとした日々を過ごしていた佐藤愛子(草笛光子)のもとに、中年の編集者・吉川(唐沢寿明)が執筆依頼にやってくる。歯に衣着せぬストレートな文章で世の中の矛盾を突くエッセイは意図せず大好評となり、愛子の人生は大きく変わっていくのだが・・。真矢ミキさんは佐藤愛子の娘で共に暮らす響子を演じている。
2024年6月21日(金)より全国公開
製作幹事:TBS 配給:松竹
原作:佐藤愛子「九十歳。何がめでたい」「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」(小学館刊)
監督:前田 哲 脚本:大島里美
出演:草笛光子 唐沢寿明 藤間爽子 木村多江 真矢ミキ
Ⓒ2024 映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 Ⓒ佐藤愛子/小学館