多方面で活躍しながら、俳優として着実に存在感を増している風間俊介さん。
2024年11月30日の大阪公演初日から12月28日の東京公演千秋楽まで、全国4カ所の劇場で意欲作に挑戦し、3年ぶりの単独主演を務める。
日本初演となる衝撃作『モンスター』の主人公トムは、経験豊富な彼でも「演じる役者は、のたうちまわる」と形容するほどの難役らしく。
とはいえ、この舞台への抱負を語る彼は、なんだかとても楽しそう!
撮影/富田一也 ヘア&メイク/清家いずみ スタイリスト/手塚陽介 取材・文/岡本麻佑
風間俊介さん
Profile
かざま・しゅんすけ●1983年6月17日生まれ、東京都出身。1997年に芸能活動をスタートし、98年にドラマデビュー。翌年『3年B組金八先生』で日刊スポーツ・ドラマグランプリ最優秀新人賞を受賞。2011年のドラマ『それでも、生きていく』で日本放送映画藝術大賞 優秀助演男優賞などを受賞。俳優として活躍するとともに、朝の情報番組『ZIP!』の月曜パーソナリティや、ハートネットTV『フクチッチ』の司会も務めている。近年の主な出演作に舞台『儚き光のラプソディ』(24)、『隠し砦の三悪人』(23)、映画『先生の白い嘘』(24)、ドラマ『初恋、ざらり』(23)、『たとえあなたを忘れても』(23)、『silent』(22)などがある。
今度の舞台は超コワイ! そして楽しみなんです
「最初は、『モンスター』というシンプルなタイトルに惹かれました。世の中にモンスターという題名の作品は星の数ほどあるけれど、本作は何をもってモンスターと命名し、どんなふうにその姿を描くのか。
初めて台本を読んだとき、直感的に、モンスターというのは日常のどこにでもいる潜在的なものではないか、モンスターという言葉は他者ではなく自分に向くのではないかと思いました。
同時にこれは、客席で観たら最高な作品だけど、演じる役者にとってはすごく大変な高い山だな、と。この役を引き受けた僕は、美しく高い山を登ろうとしているんだな、と。
正直言って今、僕はモンスターに恐れおののいています(笑)」
豊かな言葉を持つ人だ。
風間俊介さんが出演作『モンスター』について語るのを聞いていたら、「この舞台、絶対見逃したくない!」という気持ちが高まっていた。今年の締めの舞台は、これかも。
登場人物は、4人。風間さんが演じる主人公トムは、大企業を辞めて教員という新しいキャリアを始めようとしている。
教育の現場で出会うのが、松岡広大さん演じるダリルという14歳の生徒。一筋縄ではいかないこの問題児への対応に、トムは困惑する。
家に帰れば、トムの婚約者ジョディ(笠松はる)は間もなく出産を控えている。そしてダリルの保護者として登場するのは、祖母のリタ(那須佐代子)だ。物語が進むうちに、トム自身の抱えている問題も、次第に見えてくる。
「僕個人は、4人全員がモンスターだと思っています(笑)。良いところばかりの人間なんていないし、誰でも光と闇を持っている。
僕自身もそうです。
デビュー直後から20代はずっと、ダークサイドを描いた役をたくさんやらせていただきました。30代になってからは、光が当たっているキャラクターを演じることが多くて。
どちら側の役もたくさんやらせていただいたので、良い人の役を演じるときには、『この人の闇はどこなんだろう?』と探すし、悪い人の役を演じるときは、『この人にとっての光はどこなんだろう?』と考えます。
人前に立たせてもらう仕事なので、僕が皆さまの前に登場するときはいつも、光が当たっている面を見ていただくことが多いのですが、それを少し残念に思うくらい、ちゃんと色濃く闇は持っている人間です(笑)。
その闇の部分を垣間見ていただけるのが、演劇だったりドラマだったり映画だったり、僕が俳優としてやっているときなんです」
理性的な好青年というトムの第一印象は、場面を重ねていくと、少しずつ剥がれ落ちていく。脆くて危うくて、かなりの難役だ。
「観客の皆さんは、芝居が始まるとしばらくの間、違和感を覚えるかもしれない。トムとダリルの会話が、成り立っていないんです。相手の話をしているようで、自分の話をしたりするから、噛み合わない。
でもしばらく見ていると、このディスコミュニケーションが確信的なものだとわかって、そこから面白くなるんでしょうね。やっている僕たちにとっては、成り立っていない会話を続けるのはすごく難しいし、台詞を覚えるのも大変なんですけど(笑)。
お芝居を始めて、もう24~5年になるのかな? こういう芝居をするのって、初めての挑戦になるんじゃないかと思っています」
泣いたり笑ったり、スカッと爽快なお芝居ではないけれど。
「ここ数年、コロナウイルスや経済的な停滞があって、鬱屈が溜まりに溜まっている状況ですよね。そんな中でこの舞台を観ていただくのは、とても意味があることだと思う。そして、この舞台に足を運んでくださるのは、今という時代が内包している恐怖心とか焦燥感を敏感に感じ取っている方たちだろうと思います。
本当は、そんなことに気付かずにいる方たちにこそ、観て欲しい作品なんですけどね。
そしてこの作品、東京公演を上演する新国立劇場にぴったりだと僕は思っています。
僕が観客として新国立劇場に行くときは、爽快でわかりやすいエンターテインメントを求めていなくて。観たあとでじっくり自問自答したり、なんか、心や頭に効く栄養素、つまり教養を補給しに行く感覚なんです。だからこれ、新国立にぴったりの作品だなって(笑)」
難しい役とわかっているからこそ、今、風間さんは、やる気に満ちている。
「超怖い!と思いながら、すごく楽しみにしています」
ところで風間さん、風間さんが抱えている闇って、いったいどんな?
「怒りの遅効性、ですね(笑)。怒るのが遅い、遅すぎるんです。
例えばどこかのお店に行くとします。そこで『何、それ?』『なんなの?』って、腑に落ちないイヤなことがあったとする。でも僕、その場では怒らないんですよ。いったん飲み込んで、精査する。
『こっちが悪かったのかな』とか『お店の人、忙しかったのかな』『あの人、何かイヤなことでもあったのかな』って、いろいろ考える。
その場を離れて1時間後、1週間後、ときに半年後、『やっぱり変だ!』って思うんです。そんな自分が『ヤバイ!』って思います(笑)。
店を出て3時間後くらいに、一瞬、想像することもあるんですよ。その店に戻って『さっきのことですけど』って言いに行こうかなって。
そういう妄想をしているときの自分が怖い。その場で突発的に怒る人のほうがマシ、と自分では思っているので。それが僕のモンスター、ですね」
感情を爆発させることなく、その場の状況や自分自身の胸の内をあれこれ考えて、それでも残る違和感をとことん分析する。
冷静にして理性的。セルフ・コントロールの達人かもしれない。
40代に入ったばかりで、気力体力ともに十分。とはいえ、若い頃と比べると、あちこち変化も感じる年頃。自分の健康について、活力維持について、どんなヴィジョンを持っているのかは、記事の後編で。
知識と経験に基づいた、自信に満ちたコメント力は、美と健康についても発揮されるのか?
(風間さん自身の体や健康についてのインタビュー後編はコチラ)
『モンスター』
華やかな職場から逃れ、深い問題を抱えて再出発を目指す新人教師のトム。彼の目の前に現れたのは、家族から十分な愛情を受けられず、問題児として扱われる生徒ダリルだった。ふたりの対話から、各々が抱える闇が見えてくる。未成年の反社会的な行動の背景には大人の責任があるのか、教育や家族の果たすべき責任とは? 劇作家ダンカン・マクミランが2005年に執筆し、英国演劇界で頭角を現すきっかけとなった戯曲で、マクミランは今や英国を代表する劇作家になっている。
出演:風間俊介 松岡広大 笠松はる 那須佐代子
【大阪公演】松下IMPホール 2024 年11月30日(土)、12月1日(日)
【水戸公演】水戸芸術館ACM劇場 2024年12月7日(土)、8日(日)
【福岡公演】福岡市立南市民センター 文化ホール 2024年12月14日(土)
【東京公演】新国立劇場 小劇場 2024年12月18日(水)~28日(土)