新しい作品に出演するたび、リアルな演技と独特の存在感で、くっきりと印象を残す南果歩さん。
注目作『君の忘れ方』では主人公の母親役を演じているけど、案の定、従来の母親役とはひと味違う。
作品の方向性を示す重要な役割を、どんな気持ちで演じたのだろう?
撮影/露木聡子 ヘア&メイク/黒田啓蔵(K-Three) スタイリスト/坂本久仁子 取材・文/岡本麻佑
南果歩さん
Profile
みなみ・かほ●1964年1月20日、兵庫県生まれ。84年、映画『伽耶子のために』で主演デビュー。『夢見通りの人々』(89)でエランドール新人賞、同作と『螢』(89)でブルーリボン賞助演女優賞、『お父さんのバックドロップ』(04)で高崎映画祭最優秀助演女優賞を受賞。近年は海外ドラマ「Pachinko パチンコ」(AppleTV)、韓国映画『そばの花咲く頃』、台湾映画『アドレナル Adrenal 腎上腺』など、国内外で幅広く活躍。絵本『一生ぶんのだっこ』(講談社)、エッセイ『乙女オバさん』(小学館)がそれぞれ好評発売中。
重いテーマですけど、演じるのは喜びなんです
最愛の恋人を突然失った主人公は、その後、どうやって生きていくのか。映画『君の忘れ方』はシリアスで切なくて、だけど誰にでも起こりうる重いテーマを、丁寧に丁寧に掘り下げる、深い作品だ。
南果歩さんは主人公・昴(すばる)の母であり、医師でもある洋子を演じた。洋子もまた、昴が7歳のときに、夫を突然失ったつらい過去がある。
「洋子さん自身、どう生きればいいのか、その答えを一生懸命求めてきた人なんです。彼女にとってはそれが、人生の主題になっていたんでしょうね」
昴はいったん故郷の飛騨高山に戻り、生活を立て直そうとする。グリーフケアの集会に足を運び、さまざまな理由で愛する人を失った人たちが、どうやって悲しみを乗りこえようとしているのか、見つめながら、自分のとるべき道を模索する。
南さん自身はそんなとき、どうやって悲しみと対峙してきたのだろう?
「私は、とことんそれに向き合いますね。何かに打ち込んで気を紛らわすとか、無理して楽しいことを考えるのではなく。落ち込んでいるなら、とことん落ち込む。悲しいのなら、とことん悲しむ。
今の自分に専念するというか、そうするうちに絶対何かのきっかけで、少しだけ気持ちが上向いたりするんです。そのタイミングを待つという感じです」
悲しみや苦しみと、とことん向き合う。それはそれで、つらそうだけれど。
「同じ場所にずっといるということではないんです。場所は変えます。例えばひとりで知らない場所に行って、知らない人と触れ合ってみるとか。旅に出てもいい。
向き合うっていうと、何もしないイメージかもしれませんが、そうではないんです。そうやって自分を見つめる時間を持つうちに、最初はショックだったことが、時間とともにひたひたとした悲しみに変わっていく。
そうやって時間が過ぎるうちに、その状況が自分の一部になってくる。それはある意味、受け入れるということかもしれません」
実はこんなことがあって、と、大切な思い出を話してくれた。
「大学のときの親友を、30歳を過ぎた頃に亡くしているんです。
そのときは信じられなかった。今でも時おり彼女のことを思い出して、今そばにいたらどんな話をしてるだろう? とか、一緒に歳を重ねたらもっと楽しかったのに、とか、考えることがあります。
でも今思うのは、彼女と出会ったこと自体が、幸せなことだったということ。大切な人だということに変わりはないし、彼女の代わりはいないのだし。そんなふうに、静かに思い出せるようになりました」
この作品は、坂東龍汰さんの初単独主演映画ということでも注目されている。映画『弱虫ペダル』や最近話題だったTVドラマ『ライオンの隠れ家』での好演も光っていた彼が、息子の昴を演じている。
「すごくナチュラルな方なので、ごくごく自然に親子関係を築くことができました。ああしようこうしようって打合せなくても、相手が投げたボールを受けて、投げ返して、という台詞のキャッチボールが自然にできる方で、演じていて楽しかったです」
テーマが重いので、笑顔のシーンは少なかったけれど。
「そうですね。重いシーンばかりでした。でも苦しいことが楽しかったり、重いシーンが楽しかったりする。これ、なんでしょうね(笑)。
演じるということは、別世界に行けるということで。日常ではなかなか感じ得ないことを感じたりするのが、俳優としてはやっぱり面白いんです」
息子の昴が故郷に戻ってきたそのタイミングで、洋子自身の人生にも思わぬ変化が起きて、本作はクライマックスへ。
「人と関わることで、突破口が見つかるんだと思います。やっぱり人は人に救われて、人は人に傷付けられて、生きていく。他者からの影響は大きいと思います。
私自身、積極的に人の影響を受けたいタイプなので(笑)。自分と違う感性を持っている人と接することで、自分の中で眠っているものが呼び覚まされる。
もちろん自分の感覚で生きているから、他人の意見なんていらないって思う瞬間もありますけど。でも、他者からの影響を面白がれる自分でいようと思っています。
だって他人って、面白いじゃないですか。私はいつも、面白そうな人に興味津々、ワクワクしてます(笑)」
そんな南果歩さんに、会う度に思う。いつも笑顔で、いつも生き生きと元気。しばらく一緒にいるだけで、こちらもエネルギーが湧いてくる。このパワーの源は、いったいどこから? というお話は、インタビューの後編で。
(健康オタクを自任する南さんが今ハマっているあれこれを教えてくれた、インタビュー後編はコチラ)
『君の忘れ方』
最愛の恋人(西野七瀬)の死を受け止めきれずに、飛騨にある実家に戻った昴(坂東龍汰)を、医師である母親・洋子(南果歩)は静かに見守る。洋子自身、昴の父親である夫の命を通り魔による殺人で突然奪われた経験があった。やがて昴がグリーフケアの会に参加するとそこには、さまざまな方法で自らの哀しみを乗りこえようとする人たちがいた…。
1月17日(金)より、 新宿ピカデリーほか全国公開
配給:ラビットハウス
原案:⼀条真也『愛する⼈を亡くした⼈へ』(現代書林・PHP 文庫)
監督・脚本:作道 雄(さくどう ゆう)
エンディング歌唱:坂本美雨
出演:坂東龍汰 西野七瀬 津田寛治 岡田義徳 南 果歩
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会2024
公式サイト:https://kiminowasurekata.com/