料理家として、また旅エッセイの著者として、幅広いファンを持つ山脇りこさん。
還暦を前に揺れる心情と揺らぐ体調を綴った本『ころんで、笑って、還暦じたく』が書店に並んでいる。
50代、いったいどんな変化があり、どう受け止めているのか。そして最近の暮らしぶりは?
(還暦を前に山脇さんが心がけていることについてのインタビュー前編はコチラ)
撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑
山脇りこさん
Profile
やまわき りこ●料理家として『きょうの料理』(NHK)などのテレビ番組、新聞、雑誌、WEBで、旬を大切にしたシンプルな手順で作りやすいレシピを提案している。『いとしの自家製』(ぴあ)、『明日から、料理上手』(小学館)など著書多数。台湾好きでも知られ、旅のガイドブック『食べて笑って歩いて好きになる 大人のごほうび台湾』(ぴあ)など台湾三部作もある。ひとり旅の楽しさを綴った『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)がベストセラーになり、文筆家としても活躍の場を広げている。
50代に入って、まず最初に感じたのは、心の変化
「ひたすらきげんが悪かったんです(笑)。更年期の年齢になってもホットフラッシュのような体調の変化は感じなかったのですが、気持ちが落ちてしまった。
もともと、瞬発的に怒ることはできなくて、あとからじくじく、あれは怒るべきだったと思い悩むタイプなんですけど、当時はすごく、その場できげんが悪くなっていました。
夫にはもちろんのこと、母にも仕事の現場でも、今までなら聞き流していたようなことにむっとしてしまったり。しゃべるのが面倒臭くて寡黙になってしまったり」
きげんが悪いときには、悪いのは周りのせい、と思い込みがちだけれど。
「それにしても、このきげんの悪さは異常だなって自分で思ったんです。もともと自分はそんなにきげんの悪いタイプじゃない、むしろのんきで明るいと思っていたので。
その頃に、『更年期できげんが悪くなったために離婚した』という体験記を発見しました。『子どもとか夫に当たり散らして、それが原因で離婚したけど、更年期が過ぎて落ち着いてきたら、すごく後悔している』って」
そうか、これは更年期のせいなのかも? そう思った山脇さん、状況を改善するために、スポーツを始めた。
「この『ころんで、笑って、還暦じたく』にも書きましたけど、私はもともと運動が苦手で、走ることさえもできなかったんです。
でも相性のいいトレーナーさんに出会って、その人の叱咤激励のおかげで少しずつ走れるようになりました。
ステップを踏むだけのエクササイズとかボクササイズもちょっとかじって、そうするうちにだんだんきげんの悪さが解消していきました。
当時、ちょっと太ったりもしていたので、運動を始めてから体重が落ちてきたのも良かったのかな。いろんな要素が重なって自分で自分が嫌いになっていたんですね。負のスパイラルにハマっていたと思います」
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走ることの楽しさを知ってから、週に1度くらいは家の周りを最大5キロ、走るように。
「いつも走る前は、めっちゃイヤなんです。気合を入れて走り始めて、最初の1キロくらいまでは、やっぱり今日は止めて帰ろうって、戻ろう戻ろうって思いながら走っていて、でも1キロを超えるとだんだん楽しくなってきます。というと、ランナーっぽいですが、今もへっぽこです。
あと、転んで手の指を骨折してからは、これじゃいけないと思って、スクワットとか踵を上げるとか、筋トレほどじゃないけど、そういうのはけっこうマメにやるようになりました」
旅先でも、朝起きてホテル周辺を走る“旅ラン”が、今やルーティンワークに。
「死ぬまで歩きたいから、走っているんです。小走りができるオバチャンでいたい。電車に間に合わないとか、薄着してきて寒いとかいうときに、走れる人でいたい。
マラソン大会に出たいとか、そんな野望はありません」
現在は、なんとか健康。体調に不満はないけれど、時おり胃が痛くなることが。
「仕事、特に原稿に追いつめられているときです。
以前、『ごきげんひとり旅』を書いていて、もう少しで完成というときに、息苦しくてエコーを撮りにいったくらい。書き終わって本が出たら、治りました(笑)。
でも、子どもの頃から本が大好きで、たくさん本を読んできたので、今こうやって自分が書いた本が次々に出せるのは、夢みたい。『すばる』を毎月読んでいた中学生の頃の私に、教えてあげたいです(笑)」
『ころんで、笑って、還暦じたく』
著者:山脇りこ(ぴあ 1,540円)
もうすぐ還暦を迎える著者が、60代を人生のご褒美にするための準備の覚え書きとして書き下ろし。楽しく老いるのが理想だけれど、つらいものはつらいし、悔しいものは悔しい。とはいえ、凹んでばかりもいられない。自分なりに、できる範囲で機嫌良く生きるためにはどうしたらいいか、軽快な文章で綴った、新たな還暦本。