OurAge読者にはおなじみの料理家・山脇りこさんが、またまた本を出した。
今回のテーマは料理ではなく、旅でもなく、還暦を巡るお話。
60代突入を前にして、山脇さんは何を思い、どんな暮らしをしていくのか。
本音の直球とうっかりの体験談が入り交じって、味のある〈ザ・還暦本〉が誕生した。
撮影/富田一也 取材・文/岡本麻佑
山脇りこさん
Profile
やまわき りこ●料理家として『きょうの料理』(NHK)などのテレビ番組、新聞、雑誌、WEBで、旬を大切にしたシンプルな手順で作りやすいレシピを提案している。『いとしの自家製』(ぴあ)、『明日から、料理上手』(小学館)など著書多数。台湾好きでも知られ、旅のガイドブック『食べて笑って歩いて好きになる 大人のごほうび台湾』(ぴあ)など台湾三部作もある。ひとり旅の楽しさを綴った『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)がベストセラーになり、文筆家としても活躍の場を広げている。
つらいものはつらい、悔しいものは悔しい。だけど…
山脇りこさんがOurAgeで連載している『鍋・保存袋・ボウル1つで簡単! ONEレシピ』は大好評。月2回の更新で、すでに126回(2025年3月3日現在)も続いている。
「ということはもう4年、いや5年? そう聞くと、自分でもちょっとびっくりです。
連載のお話をいただいたときに『1個の鍋とか1個のボウルなど道具ひとつでできる料理はどうですか?』ってご提案して始めたんですけど、自分で自分の首を絞めてしまったかもしれません(笑)。
手順がシンプルでなければならないので、いつもレシピに悩みつつ、頑張ってます。プロセスも載せて、わかりやすくと心がけています」
昔から電子レンジは使わない派で、料理家になってからも、全く使わなかった。けれど50代になってから、あるきっかけでレンジを使えるようになりたいと思い、挑戦し始めたのだそう。そのきっかけは今回の本でも書かれいている。
「料理が大好きだった母が、80代になってしばらくしてから、だんだんこれまでみたいにできなくなったと嘆くようになって。火も怖くなってきたと。
その時、レンジが使えたらいいのにな、と思ったんです。母もレンジを一切使わなかったから。
でも考えてみたら私も使えない。80歳からだとなかなか難しいから、今のうちから練習しておこうかな、って思ったんです。
今からフライパンや蒸篭と同じように、レンジも一つの調理器具として使えるようになっておいたら、もっと長く自分で自分の好きな味のご飯が作れるんじゃないかなと思って」
こうして将来の老いにそなえて練習を始めたレンジ調理でしたが、「今の私を助けてくれたんです」と山脇さん。
「料理の幅が広がった」という。その中でよく作るようになったレンチンのカレーをOurAgeで紹介したところ、これが大バズリ。
「今もリクエストがあるので、素材や組み合わせををいろいろ変えて、レンチンカレーのレシピはたびたび紹介しています」
次はどんな料理を提案するか、いつも50代の読者を意識して決めているという。
「だんだん料理が面倒になってくる世代なのではないかと(笑)。30代、40代とお子さんのために頑張って作ってきた方は、お子さんも大きくなってきて、ちょっとお休みしたい時期になるんじゃないかと思うんですね。
わたし自身も食の好みもシンプルになって、旬の食材を焼くだけとか、炒めるだけとか、味つけも塩とレモンだけがおいしく感じるようになって。作り置きもしなくなりました。
きっとみなさんも、ややこしいことや複雑な調味料やスパイスを使う料理は、もうあまりやらなくなっているのではないでしょうか。
サッパリした味付けで、調理しやすくて胃もたれしない、そして洗い物が少ない。連載でもそういう料理を意識してご紹介しています」
それでいて、手抜き感ゼロなのも、うれしいところ。
「旬の食材を使う、野菜をたっぷり使う料理は手抜きじゃないと思うんです(笑)。私は野菜が大好きなので、ウチでは〈野菜の日〉と称して野菜料理しかテーブルにのらない日もあります。タンパク質はお豆腐とかお揚げにして。
夫には、直前に言うんです。『残念なお知らせですけど、今日は全部野菜です』って。
『えっ!』って一瞬息を呑みますけど、食べ終わったら満足しています。そういうお年頃かな、と(笑)」
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こんなふうに50代のリアルなニーズをしっかりと受け止めているからこそ、彼女のレシピは多くの人に支持されている。
「今回の本は、わたし自身が50代半ばを過ぎたあたりから感じていたことを、できるだけありのままに書きました。
本屋さんに並ぶ還暦関連の本や雑誌の特集は、みんな『年をとるのは楽しい』と明るく書かれているものが多くて、『60歳を過ぎてからこそ楽しい』というものに励まされる面もあるんですが、私はなかなかそんな風に思えなくて。
実際は、できなくなることが増えたり、体調や、仕事や、自分を取り巻く環境の変化に、暗くなることもやっぱり多くて」
例えば山脇さん自身、自宅の室内で何もないところで転んだり、公園の階段で転んで手の指を骨折したり。ついついきげん悪く家族に接したり、当たってしまったり。
料理家という仕事の面でも、40代の頃のようなハードな仕事はできなくなり、気がつけば若手にそういう仕事が回っていて…。
「自分が40代の頃には、世代交代に大賛成だったんですけど、交代される側になってみたら、なんだか寂しいじゃん、と。年齢で世の中から排除されるというか、『ごくろうさま~』って言われる寂しさは初めて感じました。
もちろん、70代、80代でも活躍されている方はいらっしゃいますけど、そういう方たちはアスリートでいうとサッカーのワールドカップに出るようなトップアスリートで、誰もがそうなれるわけじゃない。
でもトップアスリートだけがアスリートではないですよね。自分は自分なりにシフトチェンジしながら仕事を続けたいな、と思うようになりました」
年齢を重ねることで、つらいこともある、悔しいこともある。
「それを無理に楽しくしなくてもいいかなと思っています。ただ、丸腰で老いを迎えるのではなく、老いることを学びながら、備えていくことはできるかなと思うようになりました」
詳しくは、本を読んでいただくとして。
山脇さんが特に心がけていることが、ひとつ。
「ごきげんは他人のためならず。まず私自身のためにきげんよくすごしたい。そして私がきげんがいいと、相手もきげんがよくなるという実験結果が、私の中ではでていまして(笑)。うまくコミュニケーションできなかったのは私のきげんが悪かったせいなのかなって思うことも。
そして、大切な人をちゃんと大切にしたいと強く思っています。親や夫や子供って、きげんの悪いまま接しがちな相手ですよね。甘えもあるから。
でも、よく考えたらいちばん大切な人です。外で、デパートの店員さんにきげんよく、愛想よくするくらいなら、親や夫にいつでもきげんよく接するようにしようと決意して、意識して、努力中です。遅ればせながら、ですが」
還暦を前に、「つらい、悔しい、できない、無理!」と思うことばかりが増えていく。
それが現実。それが本音。だからこそ、自分の暮らしや自分自身をもう一度見直してみた本が、『ころんで、笑って、還暦じたく』。
では山脇さん、来たるべき還暦に向けて、心と体、どんなしたくをしているのか、という話はインタビューの後編で。
(山脇さんの現在の楽しみについてのインタビュー後編はコチラ)
『ころんで、笑って、還暦じたく』
著者:山脇りこ(ぴあ 1,540円)
もうすぐ還暦を迎える著者が、60代を人生のご褒美にするための準備の覚え書きとして書き下ろし。楽しく老いるのが理想だけれど、つらいものはつらいし、悔しいものは悔しい。とはいえ、凹んでばかりもいられない。自分なりに、できる範囲で機嫌良く生きるためにはどうしたらいいか、軽快な文章で綴った、新たな還暦本。