
撮影/富田一也 取材・文/松山 梢
舞台はお客さんに育てられるもの
『WAR BRIDE-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』は、第二次世界大戦直後の激動の時代に、アメリカ兵士と結婚した実在の人物、桂子・ハーンの人生を追ったドキュメンタリーの舞台化。山口さんは、奈緒さん演じるヒロイン、桂子の父親役を演じる。
「奈緒さんとは初共演ですが、一度、食事会を企画していただいてお話をさせてもらいました。桂子さんに会うためにアメリカにも行かれたそうで、作品に対する熱量をすごく感じましたね。
僕にも娘がいるのですが、どういう教育を受けたらこんな娘さんになるんだろうって思うほど素直な方で。父親を演じるうえで、純粋に奈緒さんのご家族のこともお聞きできればいいなと思っています」
山口さんは現在、OurAge世代の52歳。二人のお子さんを持つ子煩悩な父親として、異国へ娘を送り出す気持ちをどう受け止めたのか。役への印象を聞くと、「今は解釈しないようにしているんです」と意外な言葉が返ってきた。
「初めに台本をいただいたときはもうドキドキして、『どうしたらいいんだろう?』なんてことを考えたんです。でも自分で役を一方的に解釈すると、意外に間違いを起こしたりする。奈緒さんをはじめ、共演する役者さんと対峙して感じるものがすべてなのかなと。きっとそれがいちばん正解に近い気がしています」

お芝居をするときに、第一条件として大切にしているのが「そこに存在すること」。もちろん芝居ではあるけれど、リアリティを持って人間を体現しないと、どんなキャラクターを作り上げても客の五感は刺激されないと考えている。
「舞台はお客さんに育てられるという言い方をよくするんですけど、まさにそうだなと。わかりやすいところだと、笑い声や泣き声を殺す感覚、張り詰める空気も共有できたりするんです。
その分、怖いんですよ。もしも舞台上で何も起こらなかったらどうしようって。だからこそ、勝手に役を解釈して舞台に立つことをあまりしないようにしているんです」
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一方、周囲から偏見や差別を受けながらも愛を貫いたヒロインと夫の行動について、個人的に思うことはもちろんあるそうで。
「自分のことを思い返してみても、若い頃って、周りが見えなくなるくらい相手のことを好きになってしまうことってありますよね。きっと彼らもそうだったんじゃないかなって。僕くらいの年齢になってくると、ちょっと想像がつきにくくなりますけど(笑)。
ただ、さらに重要なのはその後。差別を受けながらもアメリカで何十年も夫婦で寄り添い、桂子さんは94歳の今もご健在で明るく笑って生きている。実際の彼女の歩みを知ると、人生において大きな使命を帯びていると感じました」

戦争をなくすために、僕ができること
今年は戦後80年。世界では今もなお戦争が続いているが、山口さんが本作へ出演する決め手のひとつになったのが“家族と戦争”というテーマだった。
「たぶん、皆さんも一度は『どうしたら戦争がなくなるだろう』と考えたことがあるんじゃないでしょうか。あまりにテーマが大きすぎるので、まずは個として何ができるかを考えたほうが早い気がするんです。
僕の場合は、今日一日会った人を、決して嫌な気持ちにさせないようにしています。家族や友達はもちろん、それがタクシーの運転手さんやコンビニの店員さんでもそう。これは僕の信条として、プライベートでいつも心がけていることです。
もちろん考えは十人十色ですし、全然違っていていいと思います。でも、戦争をなくすために個人でできることは、いかに身近な相手を思いやり、リスペクトできるかにかかっていると思います。
見守る人は身近な人でいいんです。それ以上に広げようとするから、余計なことが起こってしまう。80年経って戦争が遠く感じてしまうけれど、この作品が、家族を通して戦争を考えるきっかけになってくれたらいいなと思います」
山口さんの趣味や健康法など、プライベートについてじっくり聞いたインタビュー後編は7月27日正午公開
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インスタグラム @makiyayamaguchi_official
山口馬木也さん
Profile
やまぐち・まきや●1973年2月14日生まれ、岡山県出身。1998年に日中合作映画『戦場に咲く花』で俳優デビュー。2000年に蜷川幸雄演出の『三人姉妹』で初舞台を踏み、同年公開の映画『雨あがる』で時代劇に初挑戦した。主な出演作はドラマ『剣客商売』『水戸黄門』、大河ドラマ『八重の桜』『麒麟がくる』『鎌倉殿の13人』映画『告白』など。初めて長編映画で主演を務めた『侍タイムスリッパー』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞など多くの賞に輝いた。
舞台『WAR BRIDE-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

桂子(奈緒)は1951年、20歳のときに米軍の兵士(ウエンツ瑛士)と結婚し、海を渡った。そして「戦争花嫁」と呼ばれた--。アメリカ兵と歩いているだけで娼婦と誤解された時代に、なぜ桂子は敵国だった軍人と結婚したのか?アメリカに渡り、ひどい人種差別にあったときにどう乗り越えたのか? そこにあった幸せとは--。「私は日本を誇りにできる、そしてアメリカが誇ってくれるような女性になりたかった」。激動の時代を生き、日米の架け橋となった桂子の生き様、家族、苦悩、そして喜び。その人生を描く、真実の愛の物語。
出演:奈緒、ウエンツ瑛士、高野洸、占部房子、山口馬木也ほか
【東京公演】よみうり大手町ホール 2025年8月5日(火)〜8月27日(水)
【兵庫公演】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 2025年9月6日(土)、9月7日(日)
【福岡公演】久留米シティプラザ ザ・グランドホール 2025年9月13日(土)、9月14日(日)



