
撮影/富田一也 取材・文/松山 梢
山口馬木也さんのインタビュー前編(『侍タイムスリッパー』主演で話題に。山口馬木也さんの素顔は子煩悩なお父さん)はこちら。
「パパを自慢したくてしょうがない」
写真撮影の際、照れ笑いを浮かべながらどこか居心地悪そうにカメラの前に立った山口さん。役を背負わずに“山口馬木也”として写真を撮られることに、まだあまり慣れないという。主演映画『侍タイムスリッパー』の大ヒットは、山口さんの周囲にも大きな変化を及ぼしていた。
「家族の反応はすこぶるよくて、子どもたちもうれしいことを言ってくれるんです。『パパを自慢したくてしょうがないけど、学校では言わないようにした』って。それを聞くと泣けてくるというか、ああ、うれしいなって思いますね。
母親も泣いて喜んでいます。それだけ、今まで不安にさせていたんだなとも思いますけどね。映画館で『侍タイムスリッパー』のパンフレットを近所の人に配るために5、6冊買おうとしたら、転売目的だと思われて嫌な顔をされたらしいです(笑)。
近所のコンビニの店員さんは、映画が話題になったときに最初に『おめでとうございます』と声をかけてくれました。日本アカデミー賞を受賞したあとに行ったら、その場にいた2、3人のお客さんに『この人とったんですよ!』と伝えてくれて。皆さんから拍手していただいたり。
なんかそういうことが、すごくありがたいですね。SNSでの声も、すごく身近に感じるものなんだなという発見がありました」

公式インスタグラムには、ファンの人たちからの温かいコメントがあふれている。中にはファンクラブを作ってほしいという熱い声も。そのことに心から感謝しつつも、最近は「SNSを見るのが怖くなってきた」そうで…。
「応援してくださる皆さんにお返しがしたいなって、すごく思っちゃうんです。でも何もできないから、想いがどんどん積もっちゃって。事務所が管理しているインスタグラムにもっと自分で声を届ければいいのかもしれないけれど、どうも昔から苦手なんですよね。
もちろん喜んでもらいたいし、そのためにはなんでもしたいと思うんですけど。人がどんなことで傷つくかわからないじゃないですか。
例えば『今日、うまいものを食べた』とか、『こんな料理を作りました』という投稿をしたとして、見た人がすごく不愉快に思うこともあるのかなあなんて。僕も結構生活に苦労をしてきたから、いろんなことを考えちゃうんです。
TikTokとかを見ていても、矛盾とか間違いが日常的に起きていると思うんです。それを考えると、なかなか一歩先に進めない。たぶん、性格的にSNSが向いていないのかもしれません」
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おじさんなら、おじさんなりでいいんじゃない?
ちなみにTikTokはゴルフ関連の投稿を見ているそうで、娘さんとアカウントを共有しているため、最近では「画面がピンクや紫のポップな投稿で埋め尽くされるようになった」と笑う。
「ゴルフは単純に趣味としてやっているので、健康のために積極的にやっていることは一切ありません。これは自信を持って言えるかもしれません。僕の美学として、『おじさんなら、おじさんなりでいいんじゃない?』と思っているところがあるんです。骨格が大きいからあまりバレてないけど、ちゃんと52歳の体をしています(笑)」
もちろんおしゃれには興味があり、この日は事務所の社長にゴルフで勝ったときに買ってもらったという、「メゾン マルジェラ」のサマーニットを素敵に着こなしていた。ちなみにメイクも自前!
「取材が始まる前に、妻から借りてきたシャネルのやつでテカリだけ抑えました(笑)。彼女はあまりメイクをしない人だから、余っていたみたい。でも目の下のシワとかくまとかは、全然気になりません。職業的に若作りすると演じる役の幅が狭まるから、白髪染めもしていないし、アンチエイジング的なことはやっていないんです」
世界のありとあらゆる料理を作ります!
そう言いつつ、「これは僕の考えだし、もちろん人それぞれですけどね」とつけ加える。気遣いを忘れない人だ。もうひとつの趣味が料理。こちらも健康のためではなく、単純に好きで続けている。
「最近、家族から好評だったのは、久しぶりに作ったタイ料理。昨日はそばを打ちました。子どものためにキャラ弁を作ったりもしますし、パンも好評です。本当に世界のありとあらゆる料理を作ります。
自分が食べるだけだったらありものでパパッと終わらせますし、体に悪そうなものしか作らないんですけどね。凝った料理を作るのは、家族に喜んでもらえるから。
料理は結果的にストレス発散になるし、ゴルフも役者につなげて考えることができるから面白いんですよ。心の中で考えていることと結果が違ったりするから、意外にのめり込んじゃう。普段から料理とゴルフのことをずっと考えています(笑)」
そう言ったあと、「あ、もちろん舞台のことも考えてます!」とつけ加える。やっぱりチャーミングな人だ。気遣いの人だからこその気苦労も多いと思うが、メンタルケアはどうしているのだろう?
「寝る前に『今日の取材でもいらんことしゃべってしまった』とか、モヤモヤすることはあるんです。そんなときは、『10個願いがかなえられるなら何をしよう』と考えながら寝ます。
まず死ぬまで健康でいたいという願いがひとつでしょ。お金も大切。あとはセリフを一回で覚えられる頭脳とか、世界中の人と共通言語でしゃべれる博識さも欲しい。
そんなことを考えていると、10個挙げる前にだいたい寝ちゃっています。欲を妄想で埋めていくと意外に楽しいし、いつの間にかモヤモヤも消えていくんです。あまり人にすすめられる方法じゃないですけどね(笑)」
インスタグラム @makiyayamaguchi_official
山口馬木也さん
Profile
やまぐち・まきや●1973年2月14日生まれ、岡山県出身。1998年に日中合作映画『戦場に咲く花』で俳優デビュー。2000年に蜷川幸雄演出の『三人姉妹』で初舞台を踏み、同年公開の映画『雨あがる』で時代劇に初挑戦した。主な出演作はドラマ『剣客商売』『水戸黄門』、大河ドラマ『八重の桜』『麒麟がくる』『鎌倉殿の13人』、映画『告白』など。初めて長編映画で主演を務めた『侍タイムスリッパー』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞など多くの賞に輝いた。
舞台『WAR BRIDE-アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン-』

桂子(奈緒)は1951年、20歳のときに米軍の兵士(ウエンツ瑛士)と結婚し、海を渡った。そして「戦争花嫁」と呼ばれた--。アメリカ兵と歩いているだけで娼婦と誤解された時代に、なぜ桂子は敵国だった軍人と結婚したのか?アメリカに渡り、ひどい人種差別にあったときにどう乗り越えたのか? そこにあった幸せとは--。「私は日本を誇りにできる、そしてアメリカが誇ってくれるような女性になりたかった」。激動の時代を生き、日米の架け橋となった桂子の生き様、家族、苦悩、そして喜び。その人生を描く、真実の愛の物語。
出演:奈緒、ウエンツ瑛士、高野洸、占部房子、山口馬木也ほか
【東京公演】よみうり大手町ホール 2025年8月5日(火)〜8月27日(水)
【兵庫公演】兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール 2025年9月6日(土)、9月7日(日)
【福岡公演】久留米シティプラザ ザ・グランドホール 2025年9月13日(土)、9月14日



