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樹木希林さん、軽妙洒脱な菩薩様でツンデレ女王の彼女があなたに語りかけた言葉とは?

全身がんを公表、延命治療は受けず死の直前まで淡々と仕事をこなし、1年前に人生という舞台の幕を自ら引いた樹木希林さん。

舞台はとっくに暗転したというのに、カーテンコールはいまだ鳴りやまず、彼女の写真や映画や著作を目にしない日はありません。しかも本はベストセラーを更新、新たな著作も次々発売に。まるで、日本中が、いまさらながら喪失した存在の大きさに気づいたかのよう。

 

というわけで、樹木希林さんの新しい本がでました。

『老いの重荷は神の賜物』。

(集英社 900円+税)

タイトルからして彼女らしさ満載で、頁をめくる手ももどかしくさっそく開いてみると――

亡くなる6年前の2012年12月20日、慶應丸の内シティキャンパスで行われた講演会でのスピーチをまとめたもので、全編話し言葉で書かれているので、自分も聴衆の1人になったようにすんなり頭に入ってきます。

希林さんの詩の朗読に続き、希林さんの妹さんが演奏する琵琶で始まるプロローグ。

ちなみに、希林さんによると

琵琶という楽器は、死者の魂を悼み、鎮魂するための霊楽器だそうで、たしかに有名な平家物語の序「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」は、日本人なら知らない人はいないほど有名な一説。祖父、父、そして妹と琵琶奏者の家系に生を受けたことで陰に陽に影響を受けた希林さんは、そういう環境で育ったことを幸運と語っています。

 

話は変わりますが、

亡くなる前年に希林さんの日々を追いかけたNHKのドキュメンタリー番組が、昨年放映されました。番組後半、構成で行き詰っていたプロデューサーに、希林さんはどうしたかというと、このままではまとまらないとはっきり告げ、その後新聞社の別の取材に同席するよう連絡をよこし、全身にがんの転移が認められるPET検査のデータを、これを使っていいわよと撮影させ、おかげで番組は無事日の目を見たことまで、赤裸々に語られていました。

たしかに、希林さんの言葉は厳しい。けれど、その真意は相手を思いやる情に満ちている。これが本当の優しさなんだと、印象的だったのを覚えています。

 

そう。

希林さんは、誰に対しても、どんなことでも、歯に衣着せずはっきりと言う。みんなが遠慮して言わないことを、ずばっと言ってのけるので、傍で聞いている方は気持ちがいい。言われた方はというと、その時は希林さんを恨んでも、やがてそれが愛の鞭(!)だったとわかると、がぜんなついてしまう。だって、身内でもないのに、そこまで思ってくれる人ってそうはいないから。ユーモアのセンスもあるし、なにより、いや味がない。本物の大人な女性だなあ・・・と、改めて思い至りました。ここではた!と気がついた。今、これほど素敵な大人がいるだろうか? ひるがえって、自分はどう? 相手のために心を鬼にして本当のことを、はっきり言える?

横道に逸れました。

プロローグに続き語られる老いや病気のこと、女優という仕事や日々の暮らしのあれこれなど、ある意味重いテーマでも、暗くならないのは、自分のことも他人と同じように公平に見る目を持っているから。女優の道を選び自分を正確に見つめる目を若いうちにもてたことは、自分の最大の財産だと希林さんは断言しています。

でも、私たちにとってこれが一番難しい・・・

ひょんなことから女優の道を歩むことになった希林さん、当時から大女優だった長岡輝子さんや杉村春子さんとの思い出話にも、希林さんでなければ語れないエピソードがちりばめられていて、たぶん、往年の名女優たちが無防備に素顔を見せたのも、希林さんがすっぴんで向き合っていたからかも。

 

これ以上は、ネタバレになってしまうオソレがあるので、省略しますが、今、人生に悩んでいる人、病気で苦しい人、なんとなくつまらないと思っている人がいたら、頁を開くことをお勧めします。

自分を、美人女優でないことはよくわかっているけど、かといって両親からもらった自分だから決して卑下もしない。希林さんのそのあたりのバランス感覚は絶品です。

 

この著書の中で一番心に響いたのは、最終章の質疑応答で、才能のある人や本当に素晴らしい人に日が当たらないことについてどう考えるか? という問いに、そういうことはよくある。が、あまり思いつめずに気楽に生きていくこと。そして「真実を見極めるんです。自分の中に常に本物を見たいなという思いさえあれば、本物に出会えます」という回答でした。

そうですよね! 希林さん。希林さんはいつも本物を見たいと思っていたんですよね? そのためには、まず自分自身が本物に近づく努力をしなければ・・・!

飄々としているようでいて、大事なことはかたくななまでに持ち続ける。そのブレない生き方に私たちは惹かれるのです、希林さん。ありがとうございます。希林さんの遺してくれたものを胸に、私たち、生きていきます。

 

文/佐野美穂

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