長きにわたって信仰され、体験を通じて導かれた禅の教え。「三業(さんごう)を整える」という言葉から、片づけに関する心得を、曹洞宗徳雄山建功寺(とくゆうざんけんこうじ)住職の枡野俊明さんに教えていただきました。
部屋の乱れは心の乱れ
禅に学ぶ、片づけの極意
禅の教え 三業を整える
三業とは、「身業(しんごう)」「口業(くごう)」「意業(いごう)」のこと。たたずまいや所作を整え、正しく美しい言葉遣いをすれば、おのずと心が整い、良縁が集まってきます。
<心得>
「片づけ」とは己の心を整えること
一点の曇りもない、清々しく、落ち着いた気持ちで日々を過ごす。それは、心豊かな暮らしです。では、心を整えるには、どうしたらよいのでしょう。
禅には、「三業を整える」という言葉があります。まずは、服装や立ち居振る舞いなど「身業」を整える。
すると、誰に対しても思いやりのある、正しく美しい言葉遣いをするようになり、「口業」が整います。
そして、このふたつが整えば、おのずと心、「意業」も整ってくるという考え方です。
皆さんにも経験があると思いますが、フォーマルな装いをしたときと普段着とでは、姿勢やしぐさ、言葉遣いなどが変わりませんか? そんなふうに、外見を整えることで、内面は整ってくるのです。
空間を整えるという行為にも、同じことが言えます。例えば、仕事場のデスクの上がいろいろな物であふれ、散らかっていたとしたら…。すぐに仕事に取りかかれないどころか、やる気がそがれてしまうような気がします。
また、必要な物を探すことから始めなければならないので、なんとも非効率的です。逆に、整然と片づいていれば、スムーズに仕事が始められ、クリアな頭でよいアイデアが浮かぶのではないでしょうか。
自分がいる場所を片づけるということは、自分の心を整えること。そう心得てください。
<心得>
部屋は己の心の表れ
もしも、「部屋がどんなに散らかっていようと、汚れていようと、まったく気にならない」のなら、それはとても危険なこと。部屋が散らかっているのが常態化していて、乱れや汚れに対する感覚が鈍っている可能性があります。
裏を返せば、部屋の乱れが気にならないくらい、心が乱れているのかもしれません。
お寺の玄関先に、「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」や「看脚下(かんきゃっか)」という言葉が掲げられているのを目にしたことはありませんか?これは、「自分の足元をよく見なさい」という意味です。
つまり、「自分が脱いだ靴をきちんとそろえなさい」と、諭しているのです。靴がそろっていないのが気にならないということは、心が乱れていることの証し。部屋の乱れも、また然(しか)りです。
部屋が散らかっているのが「気にならないことを、気にしてほしい」と思います。
教えていただいたのは
枡野俊明住職
Shunmyo Masuno
1953年生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺(とくゆうざんけんこうじ)住職。庭園デザイナーとして国内外で活躍し、多摩美術大学環境デザイン学科教授も務める。『片づける禅の作法』(河出文庫)、『限りなくシンプルに、豊かに暮らす』(PHP文庫)など著書多数
曹洞宗徳雄山建功寺
神奈川県横浜市鶴見区馬場1-2-1
※毎週日曜7時~8時坐禅会を開催(現在休止中。再開についてはHPで確認を)
撮影/福知彰子 取材・原文/村上早苗