災害が起きたらその場にとどまる!
すぐに帰宅するのは危険
職場やレジャーに行った先で、もしも大きな地震が起きたら?
多くの人は真っ先に家を目指すのではないでしょうか?
「それはやめてください。二次災害、三次災害の恐れがあります」と、多くの災害の現場を見てきた辻直美さん。
「東日本大震災が起きたとき、災害発生時刻が昼間だったこともあり、首都圏などでは勤めに出ている人たちが家に帰ろうと道路は大渋滞でした。
大勢の人が一斉に移動を始めると、とんでもなく混雑・混乱します。2022年10月、ハロウィン時季の韓国・ソウルの梨泰院(イテウォン)での雑踏事故を覚えている方も多いと思いますが、あれと同じことが起こり得るのです」
「東京都では『東京都帰宅困難者対策条例』を制定し、『STAY for SAFETY』として、一斉帰宅の抑制を呼びかけています。
また企業には、防災備蓄の努力義務として、被災時に労働者を守るために食料や水など従業員数×3日分の備蓄を指定しています。
でも自分に何が必要かなど、細かいことは自分にしか分かりません。
だからこそ、いつどこで被災してもひとまずの時間を乗り切れるように、自分仕様の防災グッズを常にバッグに入れて持ち歩く必要があるのです」
トイレ待ちが7時間!?
東京都の「災害シナリオ」をチェックしてみよう
東京都は一昨年、首都直下地震の発生を想定した「災害シナリオ」を発表。
「災害シナリオ」とは、巨大地震発生直後から15分後、30分後、1時間後、1日後…と発生から1カ月までの間に起こり得る出来事を、細かく時系列でまとめたもの。
大災害が起きるとどのような状況になるのかが記されています。
「これによると、災害発生から3~6時間後には多くの人が家を目指し、途中のコンビニでトイレを借りようとする。そのときの待ち時間は7時間となっています。
7時間も待てますか? とても無理ですよね。
だから『携帯用トイレはひとつ持っておこう』など、外出用の防災グッズとして最低限何が必要なのかをイメージすることができます。
災害を具体的にイメージできないと、何を持っておけばいいのかわからず、何でもかんでも必要に思えて防災グッズが増え、重たくなって結局持ち歩かなくなる…となりがちです。
『災害シナリオ』を参考にして、すぐに必要なものは何か、3日後に何を使いそうか、などを考えながら、まずは自分に必要と思えるものから用意してみるといいでしょう」
災害発生の緊急時を乗り切る
17個のアイテムをポーチにイン
辻さんが外出時に常に持ち歩いている防災ポーチには、17品入っているそう。
「私の場合は自分自身の身を護れることは当然で、誰かを護るのが仕事。そのためのグッズも入っているため、皆さんが防災ポーチを作るときは全部がこのとおりでなくてもいいと思います。
とはいえ、誰にとっても役立つものがいくつかあるのでご紹介します」
辻さんのポーチに入っているのは、常備薬、紙石鹼、携帯用の災害トイレ、ウェットティッシュ、絆創膏、生理用品、レジ袋、脇汗パッド、レスキューシート、大人用レインポンチョ、アルコール消毒ミスト、ハッカ油、アロマオイル、のど飴、アルミスプーン、穴を開けたペットボトルキャップ、マスキングテープ。
「携帯トイレは前述したように、災害時にはトイレ待ちが発生するため。ハッカ油は用を足したあとの消臭や殺菌に使えます。
脇汗パッドは高分子吸水ポリマーを使っているので、例えば発熱した際に水を含ませて冷やすことができます。
アルミスプーンはどこかに閉じ込められたり何かが挟まってしまった場合、こじ開けるためなどの工具として使えます。
マスキングテープは止血テープや名札代わりに使え、避難所などではゾーニングをすることもできます」
防災グッズのポイントは、ひとつのものを「どれだけ多用途に使えるか」で考えること、と辻さん。
「本来の目的でない使い方はメーカーさんは推奨しないと思いますが、自分を護るのは自分です。
やわらかい頭を持って、例えばマスキングテープなら10通りくらいの使い方を思い描けるといいですね。
防災グッズをそろえるときの落とし穴で、『プロが使う〇〇』みたいなグッズを高いお金をかけて買う人がいます。
もちろん、日頃からそれを使えていれば災害時でも役に立つでしょう。でも結局使いこなせず『お守り』になってしまっていることが意外と多い。
だったら安くてもいいので、日常的に使うアイテムを『どう汎用できるか』自分で試しながら見つけていくほうがよほど実用的。
これこそが日常の延長にある防災です。防災に本当に必要なのはグッズそのものではなく、スキルなんですね」
【教えていただいた方】
一般社団法人育母塾代表理事。1991年、看護師免許取得。1993年「国境なき医師団」の活動で上海に赴任。帰国後、阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。以降、国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)において国内外の被災地で活動。現在はフリーランスのナースとして講演、防災教育、被災地支援活動を行う。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)ほか、防災関連の著書多数。
イラスト/ミヤウチミホ 取材・文/遊佐信子