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持病がある、要介護…高齢の親を災害から護るには?

40代、50代ともなると親が後期高齢者である人も多いはず。「薬を飲んでいる場合、紙のお薬手帳を必ず持っておいて」と、国際災害レスキューナースの辻直美さん。老親の被災時の備えについて、アドバイスをいただきました。

要介護の親がいる場合、
一人で頑張ろうとしすぎないで

「護らなくてはならない人がいる場合、備蓄品や薬のストック、避難所のことなど、『もしも』の備えは自分がリードしていかなくてはいけないとプレッシャーになりがち。

特に老親の在宅介護をしている場合、介護者がいろいろなことを一人で抱え込んでしまいます。

 

私自身、義父母の介護をしながら育児をし、犬も飼っていて…という状況で、もうパンパンということがありました。

でも病院で看護師として働いていたときには、周囲の看護師たちと手を取り合い協力して仕事をしていたはず。それを思い出したら『自分一人ではできっこない』『周囲の人の手を借りればいいんだ』と気づいたのです。

 

そこからは日々の挨拶に始まり、ご近所とのかかわりを少しずつ増やしていきました。程よい関係を築いておくことが、いざというときの助け合いにつながります。

介護している方は、まず普段のご近所との挨拶から始めてみてはいかがでしょうか」(辻直美さん)

 

 

避難所候補は3カ所以上。
平時から足を運んでおこう

地震による津波や台風による水没の危険がある地域に住んでいる場合、どこの避難所に行くかをあらかじめ決めておくことも大切です。

 

「避難所は収容人数に限りがあるので、行った先で必ず受け入れてもらえるとは限りません。避難所の候補は3カ所以上持っておき、優先順位をつけておくのをおすすめします」

 

今いる場所から移動するというのは、高齢者にとってはかなりのストレス。避難所に行くことに難色を示す場合もあります。

 

「平時から散歩などで一緒に足を運んでおくといいと思います。

『桜の木があるね、春はきれいだろうね』など、ポジティブな会話をしておくと避難に対する恐怖心や抵抗感をやわらげることにつながります。

 

いざ避難!となったら、『ここは危険だから急いで』など恐怖をあおる言い方は避け、『あっちのほうが安全だから行ってみよう』などポジティブな言い方を心がけるとよいですね」

 

身体機能が低下している人と逃げるのは、一人で逃げるよりも困難が増えます。

 

「津波のときはなりふりかまわず一刻も早く逃げるべきですが、台風などの際はテレビやラジオで情報収集しながら、警戒レベル3になった時点で避難を開始しましょう。

 

足元が見やすい明るいうちに移動することも大切です。

自家用車は渋滞で動かなくなってしまう可能性もあるため、歩きでの避難を心がけてください。

 

車椅子や寝たきりなど、自力歩行が困難で介護が必要な高齢者がいる場合には、自治体の『避難行動要支援者名簿』に登録をしておきましょう。

日頃から、地域の民生委員や福祉関係の方々と密なコミュニケーションをとり、安全に避難できる下地を作っておくといいですね」

 

辻さんは、要介護者がいる場合には、地震などで家が倒壊したり倒壊の恐れが高いとき以外は、なるべく在宅避難をおすすめしているそう。

 

「そのために、家の地震対策をきちんととっておくこと、そこで生活できるだけのスキルを蓄えておくことが大切です」

 

 

薬のストックは自己判断は禁物!
主治医に必ず相談を

親が持病を抱えていて薬の服用が欠かせない場合、薬のストックは考えておかなければならない問題です。

 

「飲み忘れたり余っていた薬をストックにするのは絶対NG。

薬はその時々の症状に合ったものを、その時の体重なども考慮して処方されるものです。

病気自体は変わらないのだから前のものを飲んでもいいだろう、と適当に服用するのはとても危険です。

薬をストックしておきたい場合は、どのくらいの量がいいのかなど必ず主治医に相談してからにしましょう」

 

 

災害時も使えるのは
アナログな「紙」のお薬手帳

親がどんな薬をどのくらい飲んでいるのか。

今はお薬手帳もアプリが増えているけれど、「災害時を考えるとアプリだけではリスクが高いです」と辻さん。

 

 

被災時には紙のお薬手帳とアプリを併用。イメージイラスト 

「大きな災害が起きるとスマホがネット接続できなくなるというのは、東日本大震災で経験した人も多いのではないでしょうか?

時間がたってつながるようになっても、アプリのサーバーがダウンしていたり、薬局のコンピューターに不具合が出ていたりしたら使えません。スマホの充電がなくなっても見られません。

アプリでの管理は便利である一方で、災害時にはリスクが伴います。

 

お薬手帳の内容が確認できないと、例えば高血圧の薬を飲んでいたということまではわかっても、何という名前の薬で何mgのものなのかまでわからないと、薬局側も対応できません。

血圧の薬だって一般的なものだけで10種類以上あるのです。

 

だから私は、昔ながらの紙のお薬手帳を持つことをおすすめしています。

アプリと紙のお薬手帳を併用できるところもあるので、今アプリで管理をしている場合は、かかりつけの薬局に紙の手帳も持てるか確認してみましょう。

 

また、親が今現在どういう薬を飲んでいるのか、1カ月に1回は確認して共有しておくことも大切です。

薬が処方される際に、薬の説明書きを同封してくれると思うので、それをコピーして自分も一部持っておき、防災リュックなどに入れておくのもいいですね。

 

便利は不便と隣り合わせ。どちらに転んでも何とかなるような態勢をとっておくのがいいと思います」

 

 

【教えていただいた方】

辻 直美
辻 直美さん
国際災害レスキューナース
公式サイトを見る
Instagram

一般社団法人育母塾代表理事。1991年、看護師免許取得。1993年「国境なき医師団」の活動で上海に赴任。帰国後、阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。以降、国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)において国内外の被災地で活動。現在はフリーランスのナースとして講演、防災教育、被災地支援活動を行う。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)ほか、防災関連の著書多数。

 

イラスト/ミヤウチミホ 取材・文/遊佐信子

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