【教えていただいた方】
1969年生まれ。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園等で勤務。東日本大震災をきっかけに防災食の研究を始め、現在は防災食について講演やワークショップ、商品開発などを行うほか、テレビや雑誌などメディアを通じて災害食のレシピなども発信。『災害時も、普段も、役立つ「お湯ポチャ」調理 免疫力アップレシピ』(清流出版)など著書多数。
災害時も温かいものが食べられる!
湯せん調理の「お湯ポチャレシピ」
温かい食べ物を口にしてホッとするのは、誰しもがわかる感覚。災害という非常時であればなおさらです。
「水、食べ物、カセットコンロ&カセットガスボンベ。これだけあればガスが止まったり停電したりしても、温かいものが食べられます」と今泉マユ子さん。
「私が提案するのは、高密度ポリエチレン袋に食材を入れて湯せんする調理法。
『パッククッキング』という呼び方を聞いたことがあるでしょうか?
それと同じなのですが、お湯にポチャッとつけておくだけでできるので、より親しみやすく『お湯ポチャ』と名づけました」(今泉マユ子さん)
今泉さんが提案する「お湯ポチャレシピ」は、オムライスやスパゲティなどの主食系から肉じゃがなどのおかず系、さらには味噌汁などの汁物系までバラエティ豊か。
「本当にただ湯せんするだけでできるの?」と驚くようなものがたくさんあります。
「揚げたり焼いたりといった調理はできないため、どうしても似た感じにはなってしまいますが、それでも食材や味つけを替えれば本当に多くのレシピができます。
私は過去に脚を骨折して、1カ月間キッチンに立てないことがあったのですが、その1カ月間はお湯ポチャレシピだけで、バラエティ豊かなおいしい食事を楽しめました」
災害時にお湯ポチャ調理が適している理由は3つ。
「まず湯せん用の水も鍋も汚れないため、湯せん用の水は繰り返し使えます。水は蒸発するのでつぎ足す必要はありますが、洗い物をするより断然量が少なくてすみます。
次に、調理はポリ袋で完結するので、それを広げて器にかぶせればそのまま食べることができます。器が汚れないので洗い物も出ません。
そして、お湯ポチャはポリ袋ごとに分けて調理できるので、人によって好き嫌いやアレルギーなどがある場合も対応しやすい。ひとつの鍋で同時にいくつも調理できるのもガスや水の節約になります」
お湯ポチャ調理の際に守るべき3つのルール
ポリ袋に食材を入れて湯せんする。それだけの簡単なレシピですが、安全においしく作るためのルールがあります。
1.ポリ袋は「高密度ポリエチレン製」のものを使う
高密度ポリエチレン製は、半透明。熱に強いので湯せんに適しています。
パッケージの表示を確認し、必ず「高密度ポリエチレン」または「湯せん可」と書いてあるものを選んでください。ジッパー付きの保存袋だと、熱で穴が開いてしまう恐れがあるのでNG。
2.ポリ袋に穴が開かないように鍋底に皿を敷く
熱でポリ袋に穴が開いてしまうこともあるので、皿を1枚鍋の底に敷いて、鍋底に直接ポリ袋が触れないようにします。
鍋底に入るサイズの平皿、もしくは金属製の水切りザルでもOK。なければ紙皿をアルミホイルでくるんだもので代用してもよいでしょう。
3.食材は小さく切り、1袋に入れる量は1人分
食中毒予防のため食材にはしっかり火を通すことが大事です。肉や野菜は薄切りや小さく切るなどして火を通りやすくします。
また、1袋で作るのは1~2人分。数人分を一度に作る際は、袋の数を増やすようにします。
ライターYが家にある食材だけで、お湯ポチャレシピに挑戦
本当に湯せんだけでおいしい料理ができるのか? ライターYがお湯ポチャレシピに挑戦しました。
災害時を想定して、カセットコンロとカセットガスボンベ、備蓄してある水を使い、食材は家にあるものだけでオムライスとキャベツのコンソメ煮を作ってみました。
【材料(1人分)と作り方】
オムライスは、ケチャップライスの材料(無洗米1/2合、水100ml、ケチャップ大さじ2、小さく切ったベーコン適量)と、オムレツの材料(卵2個、シュレッドチーズ20g、塩ひとつまみ)をそれぞれ高密度ポリエチレン袋に入れる。
キャベツのコンソメ煮は、材料(小さく切ったキャベツ100g、ベーコン適量、コンソメ顆粒適量)を高密度ポリエチレン袋に入れる。
それぞれ、食材をよく混ぜてから袋の空気を抜いて口をねじり、上のほうで結んだあと平たくして袋の中で食材を広げる。
鍋の底に皿を敷いて、鍋の半分くらいの高さまで水を入れたら、食材の袋を入れる。
鍋にふたをしてカセットコンロの火をつけ、お湯が沸騰したら中火にして、オムライスは20分、キャベツのコンソメ煮は15分加熱する。
火を止めて5~10分蒸らしたら引き上げ、完成。
オムライス
キャベツのコンソメ煮
【ライターYの感想】
「実際に災害が起きたら『まず冷蔵庫の中のものから消費すべし』と以前聞いたので、今回は家にある食材だけで試してみました。
湯せん料理もほとんどしたことがないので、『本当においしくできるのか?』と半信半疑でしたが、結果は…本当においしくてびっくり!
今回は災害を想定してポリ袋のまま皿にのせて食べましたが、普通に盛りつけたら家族もお湯ポチャ料理だと気がつかないかもしれません。
出来たては本当に温かく、災害時にライフラインがストップして心細い中でこの食事がとれたら、ホッとして気持ちが明るくなるだろうなと感じました。
被災地などの食料配布だと、どうしてもおにぎりやパンなど炭水化物ばかりに偏りがちだと聞いたことがあります。
でも、普段に近い食事を作れるお湯ポチャレシピなら、栄養バランスも程よく、何より温かい。これからいろいろ作ってみて、レシピのバリエーションを増やしてみたいと思いました」
撮影・取材・文/遊佐信子