家族それぞれが対応できるよう
賞味期限パトロールをやってみよう
災害時のために食料の備蓄をしている人も増えてはいますが、「ただ備蓄すればいい、食べ物があればいいというものではありません」と今泉マユ子さん。
「備蓄しておいたものが、いつのまにか賞味期限切れ…というのはよくあります。
それでは実際に災害が起きたときに役に立ちませんし、食品ロスももったいない。
そこで私が実際にやっていて、皆さんにもおすすめしているのが『賞味期限パトロール』。
災害は自分一人が頑張っても乗り越えられません。家族みんなで防災意識を高めることが大事です。そこで、家族全員に賞味期限パトロールをしてもらうのです。
例えば『今日は10月31日より前の賞味期限のものを全部出して!』とミッションを出し、賞味期限の近いものをピックアップしてもらって夕飯などで食べます。そして、食べた分をまた後日補充します。
大事なのは、『普段メインで料理をしている人じゃない人』がパトロールをすること。
いつも自分が料理をしているなら、パートナーや子どもにやってもらうことです。
これによって賞味期限切れを防ぐことができ、また食の備蓄で大事なふたつのことが『見える化』できます。
ひとつは、備蓄場所の見える化。
災害が起きたときに、誰がどこにいるか予測はできません。災害時に自分が家にいなかった場合でも、家にいる家族が困らないように、それぞれが何がどこにあるのかをわかっておく必要があります。
ふたつめは、食べ方の見える化。
例えばアルファ化米を備えておいて、でも実際に食べようとなったときに水はどのくらい使うのか、袋に入っていたスプーンで食べたら案外手が汚れる…ということがわかって、『じゃ、柄の長いスプーンやウェットティッシュも一緒に備蓄しておこう』となる。
自分で作ったり食べてみて初めてわかることも多いので、『実際に役立つ防災食』であるためには、平時に実際に試してみるということが大切です。
そして、何よりも大事なのは、自分や家族が『毎日食べているあれ』を必ずストックしておくということ。
災害時は心も体も不安で緊張しています。そんなときに『いつものあれ』を食べることで、日常を取り戻せるのです。
例えばコーヒーを毎日飲んでいるなら、その1杯を飲むためには何が必要か? 水、カセットコンロ、やかんか鍋、コーヒー粉、マグカップ…。でもマグカップは断水していたら洗えないから紙コップにしよう…など、食べ物を考えるときにはその周辺にも目を向けなくてはいけないのです。そこまでやって、初めて本当に使える備えになるんですね」
非常食のド定番! 乾パンはアレンジ次第でこんなにおいしく!
今泉さんがおすすめし、実際に自身も備えているのは「普段食べ慣れているもの」が中心ですが、「非常食の定番である乾パンも、賞味期限は5年間と長く、1缶200円程度で低コスト、場所を取らないといったことなどから、優れた非常食であることは間違いありません」とのこと。
「乾パンが苦手な方からは、パサパサとして口の中の水分が奪われるという声をよく聞きます。また、味に飽きてしまい、連続して食べるのはつらいという声も。
だったらアレンジしてしまえばOK。
すごく簡単なアレンジだと、マヨネーズやケチャップ、メープルシロップなどをつけるのもおいしいですよ。
あとは油で揚げてしまうのも、お子さんには好評です。
お菓子作りが趣味で材料が家にあれば、乾パンティラミスもおすすめ。
どれも乾パンのイメージを覆すおいしさで、おかわりしたくなる味ですよ」
ライターYが作ってみました!
今泉さんのアドバイスをもとに、ライターYが備蓄していた乾パンをさっそくアレンジして食べてみました。
乾パンのオーロラソースがけ
「ケチャップとマヨネーズを同量で混ぜ合わせたものを、乾パンの上にのせるだけ。
乾パンのパサつきが気にならなくなり、お酒のおつまみにもいいようなスナックになりました。
メープルシロップやはちみつなど、甘味を足すのも子どものおやつにgood!」
揚げ乾パン
「乾パンを少量のサラダ油で30秒ほど揚げるだけ。それだけで、さらにサックリ&カリカリに!
香ばしさが加わって、ついつい手が伸びてしまうおいしさでした。
揚げ時間が長いとすぐ焦げてしまうので、手早く揚げるのがポイントです」
乾パンティラミス
「通常はスポンジ生地を使う底の部分に細かくした乾パンを敷き詰めました。コーヒーシロップ(インスタントコーヒーを濃いめに溶いて砂糖を入れたもの)をしみ込ませた乾パンは、「本当に乾パン!?」と思うほどしっとり。
泡立てた生クリームとマスカルポーネチーズと砂糖を混ぜたクリームをのせ、ココアをふって出来上がり。おうちでちょっと贅沢なおやつを食べたいときにもおすすめです」
【教えていただいた方】
1969年生まれ。管理栄養士として大手企業社員食堂、病院、保育園等で勤務。東日本大震災をきっかけに防災食の研究を始め、現在は防災食について講演やワークショップ、商品開発などを行うほか、テレビや雑誌などメディアを通じて災害食のレシピなども発信。『災害時も、普段も、役立つ「お湯ポチャ」調理 免疫力アップレシピ』(清流出版)など著書多数。
撮影・取材・文/遊佐信子