
管理栄養士としてレシピ開発、食育、SDGsクッキングの指導を行うとともに、防災食アドバイザーとしても活躍。災害時でもポリ袋と湯煎で簡単にできる調理法「お湯ポチャレシピⓇ」の指導や備蓄アドバイスなどを行う。さらに、2017年には防災士の資格を取得。食の範囲にとどまらない幅広い防災活動に従事する。これまでに、全国で行ってきた講演は400以上。日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)リーダー。東京消防庁から拝受した感謝状は11枚になる。著書に『SDGsクッキング(全3巻)』『親子で学ぶ防災教室』シリーズ(理論社)『かんたん時短、「即食」レシピ もしもごはん』(清流出版)など22冊。テレビ出演200以上、ラジオ出演300以上。新聞、雑誌、WEBサイトなどでも活躍中。
水や食べ物の備えが役に立つのは「命があってこそ」
こんにちは。管理栄養士、防災食アドバイザー、防災士の今泉マユ子です。
近年、全国各地で自然災害が相次ぎ、改めて防災の重要性を実感している方も多いことと思います。
では、皆さんは「災害への備え」というと、まず何を思い浮かべますか?
「水や食料の備蓄」と答える方も多いかもしれません。災害時、在宅避難できるように水や食料を備えておくことはとても重要です。私自身も管理栄養士・防災食アドバイザーとして、災害時の食についてさまざまな場所でお話をしてきました。
ですが、防災士でもある私が、災害時の食についてのお話と併せて、こうした機会に必ずにお伝えしているのが「まずは命を守ることが大切!」ということです。水や食べ物の備えが役に立つのは「命があってこそ」なのですから。
では、災害が起きたとき、どうすれば命を守れるでしょうか。
過去の災害を知り「もし自分だったら?」と考える習慣を
そこで、まずご紹介したいのが、内閣府による防災情報Webサイトに掲載されている「防災一日前プロジェクト」です。
これは、「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか?」という問いに対して、全国から寄せられた被災者の方々の体験談を掲載したサイトです。これをやっておけば、被害を抑えられたのに…と思うことを、たくさんの方がお話ししてくださっています。
こうした体験談には多くの学び、教訓があります。例えば、私が印象深かったのが、以下のようなコメントでした。
■「タンスがあんなに簡単に倒れてくるなんて思わなかった」
→家具転倒防止の留め具をつけておいた家具だけが倒れなかった。すべての家具を固定しておくべきだった。
■「コップや茶わんの破片が散らばって家の中を歩けなかった」
→室内にも靴を置いておくべきだった。
そう。普段は安全で、いちばんくつろげる場所である家や住み慣れた街が、大地震発生時には命を脅かすような危険な場所に一変するのです。でも、それを平常時にリアルに想像することは、意外と難しいことなのです。
でも、防災の第一歩は、災害時にはどんな危険があるのかを知ること。日常生活からは想像もできないことも多いので、これまでに大地震を経験した方々のお話は大変貴重です。
また、例に挙げたような、「家具を固定する」「靴を室内にも置く」といったことは、防災の記事やテレビ番組で聞いたことがあるかもしれません。でも、「いつかやろう」と思いつつそのままになっているという人も多いようです。
ですから、こうした体験談を「誰かの身に起こったこと」ではなく、「自分ごと」としてリアルにとらえられるようになるということが重要です。
では、「自分ごとにする」とはどういうことか。
それは、「自分だったらどうする?」と考えて、実際に行動することです。
反対に「他人ごと(ひとごと)」という言葉がありますよね。ひとごととは、「自分には関係ない」と思うことです。
命を守るためにはどちらが大切でしょうか? 答えは明らかですよね。過去の災害について知り、「自分だったら?」と考える習慣をつけること、そしてそのための備えをすることが命を守る第一歩です。
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災害を疑似体験することで防災を自分ごとに
そこで、震災を自分ごととしてとらえられるようになるきっかけとして訪れていただきたいのが、災害伝承館です。
「南三陸町東日本大震災伝承館 南三陸311メモリアル」など、東日本大震災に関する災害伝承館では、震災の記録、遺構の保存、避難行動の検証などを通じて、防災意識を高める取り組みが行われています。災害の記憶を風化させず、未来の命を守るために、伝承館は重要な役割を果たしています。
なかなか被災地まで行けないという方は、防災体験ができる施設に行ってみてください。
これまでに自分が経験したことのない、震度6や7の地震を疑似体験できたり、避難のシミュレーションをしたりすることで、命を守る行動についてリアルに学ぶことができます。
もちろん、本を読んだり、テレビなどで映像を見たりするだけでも学びはたくさんありますが、こうした体験型のシミュレーションは、よりリアルに災害の危機を感じることができます。
◆東京臨海広域防災公園
そなエリア東京「防災体験学習」
1階の防災体験ゾーンでは、「東京直下72h TOUR」と題した、地震発生後72時間の生存力をつける防災体験学習ツアーが行われています。
大地震発生時、国や自治体の支援体制が十分に整うまでは自力で生き残らなければなりません。そして、その目安はおよそ3日間(72時間)といわれています。
そこで、地震発生から避難までを体験できるのがこの防災体験学習ツアー。マグニチュード7.3、最大震度7の首都直下地震を想定し、タブレット端末を使ったクイズに答えながら防災体験ゾーンを歩き、生き抜く知恵を学びます。
また、2階の展示コーナーには、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災の現場体験から自助の知恵を学ぶコーナーや、防災グッズの展示コーナーなどがあります。
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◆阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター
阪神・淡路大震災で起こったことを伝え、大地震発生時に役立つ知恵や知識をわかりやすく発信。
西館4階は震災追体験フロア。阪神・淡路大震災の地震破壊のすさまじさを、大型映像と音響で体感できる「1.17シアター」や、大地震直後の街をジオラマで再現したコーナー「震災直後のまち」があります。
また、「大震災ホール」では、復興に至るまでの街と人を、直面する課題とともに紹介するドラマを上映しています。
また、3階の「震災の記憶フロア」には貴重な当時の資料が展示され、2階の「防災・減災体験フロア」では、減災グッズや備えチェックリストの展示、防災・減災ワークショップが行われています。
「東館3階「BOSAIサイエンスフィールド」にある「ハザードVRポート」では、地震や津波、風水害の現場を360°広がるVR映像と音声で体験。
「クエスチョンキューブ」は、命を守る最善の行動を学ぶためのコーナー。災害時のさまざまな場面を体験できる映像空間でクイズに答えることで実際に役立つ知識を身につけられます。
◆福岡市民防災センター
いろいろな災害の模擬体験を通して、もしものときの防災に関する知識や対処方法などを身につけることを目的とした施設です。
VR防災体験(火災・地震・風水害をリアルなVRで体験)、火災体験(煙が立ちこめた暗い部屋を、誘導灯を頼りに出口を目指す)、消火体験(水消火器を使って消火器の特性を理解する)、地震体験(最大震度7の揺れを実体験できる)などが行われています。
また、インターネット環境を利用したオンライン来館や、公式Instagramにより防災情報も発信しています。
「自分の身は自分で守る!」ためには、危険を知ること、気づくこと。それが命を守る行動の第一歩です。
今回ここで紹介した施設以外にも、各自治体や消防機関が運営している防災館・防災センターが、札幌、東京、横浜、名古屋、大阪、京都、富山など、全国各地にあります。これらの施設は、地域の防災意識向上や災害時の対応力強化を目的としています。とても学びになるので、お近くの施設を探してみてください。インターネットの検索サイトで「防災館」あるいは「防災センター」と入力して検索してみましょう。
取材・文/瀬戸由美子