
一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、(株)ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、国立理化学研究所客員研究員等を経て現在は老人病研究、未病研究等に携わる。休養に対する社会の不理解を解消すべく、多方面で活躍。著書に『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)がある。
働きすぎでもないのに疲れているのは「休み方を知らない」から
朝、起きた瞬間から「なんか疲れた」、会社に行って帰ってくるだけでヘトヘト、週末は昼過ぎまで寝だめ…。
こんな毎日を送っている人はとても多いのではないでしょうか?
実際、20~79歳の約8割の人が「疲れている」と感じていることがわかっています。(日本リカバリー協会 2024年調査より)
1999年の厚生労働省の調査では「疲れている」人が6割だったのに対し、25年間で約2割も増加しています。
「近年は働き方改革が進み、かつてのように朝から深夜まで働くといった仕事の仕方はずいぶんと減りました。
OECD(経済協力開発機構)の2022年の調査では、日本の全就業者の平均労働時間は年間1607時間。これは世界の平均である1752時間よりも145時間も少ない。
『日本人は働きすぎ』と言われることも多く、自分自身でもそう感じている人は多いかもしれませんが、数字で見ると、全体としてはそこまで働きづめというわけでもないのです」(片野秀樹先生)
疲れていても休みづらい、日本人特有の空気感
なのになぜ、こんなにも多くの人が疲労を感じているのでしょうか?
「日本人特有の全体主義の中では、どうしても『ほかの人が働いているのに自分だけ休めない』と遠慮したり、頑張り屋で責任感が強い人ほど『疲れているけどやらないと』と無理をしてしまう。
このように、『疲れていても休みづらい』といった状況がまずあります」
そして、調査結果からは、男性よりは女性のほうが疲れている人の割合が高いことがわかっています。
「共働きが増えているにもかかわらず、どうしても家事や子どものことなどの負担は女性のほうが多くなりがちという背景があります。
それに加えて、50代女性は体や心の変化といった自分自身のことや親の介護も出てきたり、負担が大きく、疲れている人も相当多いでしょう。
それなのに『休み方』を知らない人がとても多い。それは、『正しい休養のとり方』を習っていないからです。
厚生労働省は、50年も前から健康のために大切な3本柱として『運動』『栄養』『休養』の3つを掲げています。この3つの中で『運動』と『栄養』は学校の体育や家庭科などで習ってきたし、学問体系も確立されています。
ところが『休養』だけは学校では習わないし、専門的に学べる機関もない。
そのせいもあって、多くの人が疲れを取る目的でやっていることが、科学的には間違っている場合がとても多いのです」
ダラダラ寝、寝る前の1杯、ご褒美ケーキは自律神経のバランスを乱して疲労の元に
間違った休み方の代表的な例はこちら! 心当たりがある人も多いのではないでしょうか?
・週末に昼過ぎまで寝ている
・疲れて帰宅したあと、お酒を飲んで寝る
・甘いものを食べて自分にご褒美
これらはすべて、私たちの体の仕組みからすると「よくない休み方/リフレッシュ法」だそう。
遅起き&終日ゴロゴロは夜眠れなくなる
「普段から睡眠不足が続いている人は、十分に寝て体力を回復させることはもちろん大切です。
ですが、その後も一日中家の中でゴロゴロ過ごすのはNGです。
私たちの体には太陽が地球を1周するのに合わせて活動的になったり眠くなったりする『概日リズム』というサイクルが備わっています。
遮光カーテンなどで太陽光を遮って概日リズムを無視して長い時間寝ていると、サイクルが乱れ、かえって夜よく眠れずに月曜日に差し支える…といったことにもなりかねません。
また、家の中でダラダラゴロゴロを続けるより、散歩や軽い運動など多少体を動かすほうが、疲労からの回復は早くなることがわかっています。
いつもよりも朝寝坊をするのはOKですが、『○時まで』と決めてその時間になったら起き、漫然と過ごさないほうがいいのです」
寝酒は自律神経のバランスを乱す
お酒は、リラックス効果が期待できる一方で、体の中は休めていません。
「アルコールを分解するため肝臓は大忙しで働くので、自律神経がきちんと副交感神経に切り替わりません。また、アルコールを飲むと寝つきはよくなりますが、利尿作用があるために夜中に目が覚めて睡眠を中断させてしまうことも。寝る前のアルコールは、疲労回復の点からはおすすめできません」
ご褒美スイーツは体が休まらない
疲れると甘いものを食べたくなるというのも、睡眠の質に悪影響を及ぼします。
「疲れると何かむしょうに食べたくなるのは、ストレスに対する体の防御反応です。
食べ物が体に入ると血糖値が上がり、膵臓からインスリンが分泌されて血糖値を下げようとします。これを元に戻そうとコルチゾールというホルモンが出ますが、コルチゾールは交感神経を優位にするために、体は興奮モードになってしまうのです。
本来なら、疲れて帰ってきたら体を早くお休みモードにしたいところ。ご褒美にチョコレートをひとかけら、くらいなら問題ありませんが、甘いものを食べるとむしろよく眠れなくなってしまいます」
常に疲れを感じている、疲れが取れない…そんな人は、習慣化してしまった「間違った休み方」を見直してみるところから始めてみませんか。
イラスト/二階堂ちはる 取材・文/遊佐信子
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『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』