疲労の正体とは? それが続くと神経系の病気に
「疲労がたまっている」などは、日常的に口にする言葉ですが、では「疲労」とはいったい何でしょうか?
「疲労の定義とは『精神的、肉体的な活動能力が低下している状態』。
例えば、動き続けているとスピードが落ちてきたり、計算をずっとやっているとミスが多くなったりします。みなさんも経験上わかると思いますが、運動や勉強、仕事など肉体的・精神的な活動を続けていると本来持っている能力が出せなくなりますね。
その状態を疲労といいます。
ちなみに、状態を指しているだけなので蓄積はしません。
なので、正確には疲労が“たまる”という表現は正しくないのですが、私たちはよく『疲労がたまっている』といういい方をします。
疲労には急性疲労、亜急性疲労、慢性疲労の3段階があります。
急性疲労は1日~数日寝れば回復する状態、亜急性疲労は寝ただけでは回復せず疲労が1週間~数カ月続く状態、慢性疲労は半年以上続いている状態を指します。
つまり『疲労がたまっている』というのは亜急性疲労や慢性疲労の段階といえます」(片野秀樹先生)
ところで私たちが「疲れた」と感じるとき、体の中ではどのようなことが起きているのでしょうか?
「人間は酸素を吸って活動しています。
それによって活性酸素が発生し、それが細胞を傷つけますが、傷ついた細胞を回復するのは細胞内のミトコンドリアで作られるATPという物質。
これはいわば体を動かすガソリンのようなもので、ATPがたくさんあれば細胞をすぐに修復できますが、ATPが枯渇していると修復ができません。その状態が疲労です。
急性疲労の段階で休んで回復できればなんら問題はありません。
でも休まずに活動を続けていると修復が進まず、亜急性疲労、慢性疲労と進んでいくとどうなるか?
私たちの体には、大きく分けて神経系、内分泌系、免疫系という3つの制御システムがありますが、疲労が続くことで自律神経のバランスが乱れ、交感神経優位の緊張状態が続くと、この3つが変調をきたします。
そこからさらに発展すると、頭痛や筋肉痛、喉の痛み、倦怠感などが6カ月以上続く『慢性疲労症候群』になるリスクも。
これは脳脊髄という中枢神経系の炎症で、病気のひとつといえます」
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高度に発展した脳のおかげで疲労を「マスキング」できてしまう
疲労が続いた状態になると、私たちの体は「だるさ」や「おっくうさ」などの不快感を自覚します。
それこそが疲労感で、「これ以上活動を続けると危険ですよ」という体からの警告なのです。
「動物を見てください。彼らは疲れると動かなくなりますね。
それは、疲労で活動能力が落ちると天敵に命をねらわれることをわかっているから。
でも人間はそうはしない。
それはなぜか? 私たちは疲労感を上から覆い隠せる=マスキングできてしまうからです。
使命感、責任感、やりがい、昇給への期待etc.さまざまなもので、疲労感にふたをしてしまう。
これは高度に発達した脳を持つ人間ならではで、この能力があるからこそ、『ここいちばん』のところで頑張れることも確かです。
問題なのは、マスキングを恒常的に繰り返してしまうこと。
40代まではそれでもなんとか無理して乗り越えてきた、という人も多いのではないでしょうか?
でも、自覚があると思いますが、50代は更年期でただでさえ自律神経が乱れやすい年代。体力も40代と比べてガクンと落ちます。いうなれば、無理をすることが病気や不調にダイレクトに影響してしまうのです。
ひどい場合には、心がポキッと折れて何もする気が起きない=燃え尽き症候群になってしまう。
そういう50代はたくさんいるんです」
カフェインでのリフレッシュも一種のマスキング
ちなみに、コーヒーやエナジードリンクなどを飲んで疲労を紛らわせている人も要注意。
「私たちが活動によってATPを使うと、それがアデノシンという物質に分解されて燃焼します。
このとき出たアデノシンの燃えかすが、体にある受容体にスポッとはまることで、覚醒作用のあるヒスタミンの放出が抑制されて眠くなります。
ところが、カフェインはアデノシンの燃えかすと化学構造が似ており、アデノシンの燃えカスが出る前にカフェインを摂取すると、受容体に先にはまってしまいます。
でも、カフェインはヒスタミン放出を抑制しないため、眠いという信号が出ず、目がさえた状態に。
眠気覚ましにコーヒーやエナジードリンクを飲むのは、こうした仕組みを利用したものです。
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『ここは踏ん張りどころ』というときは、こうしたもので一時的に乗り切るのもアリ。
ですが、それに頼ってばかりいるのはNG。
体からの警告にふたをしてしまうことになり、間違ったリフレッシュ法のひとつといえるでしょう」
イラスト/二階堂ちはる 取材・文/遊佐信子
【教えていただいた方】

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、国立理化学研究所客員研究員等を経て現在は老人病研究、未病研究等に携わる。休養に対する社会の不理解を解消すべく、多方面で活躍。著書に『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)がある。
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『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』