疲労は「病気のサイン」という認識を
日本でも近年は働き方改革が進み、長時間労働や休日返上といった働き方は減ってきました。
それでもなお疲れた人が減らないのは、「休んで疲れを癒すことへの理解が、まだ不十分だから」と片野秀樹先生。
「疲れていると言うと、『みんな同じなのだから』と思う風土がまだまだ日本の社会には根強いと思います。
今でも時々、過労死の痛ましいニュースがあります。
過労死の直接的な原因というのは、実はわかっていないところが多いのですが、疲労との関連は大きいと考えられています。
体は病気になる前に3つの信号を出すといわれます。そのひとつが『疲労』です。その他のふたつは『痛み』と『発熱』です。
この中の『痛み』『発熱』については、はっきりとした症状があるために、休むことの理由として認められやすいですし、自覚もしやすい。
一方で『疲労』に関しては、自分でも『なんとかなる』と思ってしまいがちで、それを理由に休むというのはためらわれます。
でも、疲労も間違いなく病気のサイン。そのまま疲労が継続することで、体のホメオスタシス(生命維持に必要な機能を一定に保つ仕組み)が保てなくなり、病気へと向かっていくのです」
今後、どんどん働き手が減っていく社会が訪れることを思えば、持続可能な働き方を考えることは不可欠です。
それには、働く人、雇用する側両方の意識改革が欠かせない、と片野先生は言います。
「例えば、日本では誰かが休むとすぐ『他の人が替わりをしないと困る』と考える風潮があります。
でも、私がかつて住んでいたドイツでは『担当者がいなければ仕方がない』と待ってくれる風土がありました。
これは社会全体の問題で、個人がすぐにどうこうできることではありませんが、お互いに休むことをもっと許容できる社会になればいいのに、と願っています。
日本の企業も、勤務時間の長さではなく、限られた時間のなかでいかに効率よく働くか、といった考え方がずいぶん浸透してきたように思いますが、まだまだ課題は多いといえます」
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令和の働き方は「休みを先に確保する」
ここでは、個人でできる働き方・休み方についての意識改革を考えていきましょう。

「これからの働き方は『オフ至上主義』であるべきだと私は思います。
仕事が終わったそのときから、翌朝までにどれだけ充電できるかをまず考える。
そうすると、何時に職場を出て、ジムに行って、何時に夕飯をとって、ベッドには何時までに行く…とおのずと逆算できるでしょう。
休む時間をまず確保したうえで、仕事を切り上げる時間を決めておくのです。
私はよく講演などで『あなたに合った睡眠時間は何時間ですか?』とお聞きすることがあります。
そうすると、多くの人は『7~8時間ですかね』と答えます。
でもこれって、自分で確かめたわけではなく、どこかで聞いた“よしとされる”睡眠時間であることが多いのですね。
大谷翔平選手は『10時間寝る』と公言しています。
自分に必要な睡眠時間がきちんとわかっているって、実はすごいこと。自分をマネジメントできているということです。
『いやいや、プロなんだから当たり前』と思う方もいるかもしれません。
でもスポーツではなく、また彼ほどの高いレベルの話ではないにしろ、私たちだって仕事をしている以上は“その道のプロ”です。自分のパフォーマンスを最大限に発揮するなら、そこを考えないといけないのです。
これは毎日の過ごし方だけではなく、長期休暇などの取り方についても同じことが言えます。
まず『ここで休みをとろう』と決めてしまう。そうすれば、絶対に休みをとるためには、この時期までには何をして…としっかり計画を立て、効率よく仕事を進められるはずです。
そして、休暇をとるときにもうひとつポイントがあります。
可能なら『忙しくなる前にとる』ことです。多くの人は忙しさのピークが過ぎたら休暇を、というイメージでいるかもしれません。
でも、先に休暇をとって、十分に活力を得て気力・体力が充実した状態で大きな仕事に向かうほうが、高いパフォーマンスが発揮できるというのは容易に想像できます。
これまでとは逆の発想で、『疲れたから休む』ではなく、『疲れそうだから先に休んで活力を上げておく』。
これが持続可能な令和の働き方・休み方ではないでしょうか」
【教えていただいた方】

一般社団法人日本リカバリー協会代表理事、ベネクス執行役員。東海大学大学院医学研究科、国立理化学研究所客員研究員等を経て現在は老人病研究、未病研究等に携わる。休養に対する社会の不理解を解消すべく、多方面で活躍。著書に『「休み方」を20年間考え続けた専門家がついに編み出した あなたを疲れから救う 休養学』(東洋経済新報社)がある。
イラスト/二階堂ちはる 取材・文/遊佐信子
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