オーベルジュ。そこでしか味わえない旅の美食を楽しみに泊まる宿があります。今回の旅は、伊豆半島の真ん中にある湯ヶ島温泉のアルカナ イズ。目の前で料理人たちが自分のための一皿を仕上げてくれるライブキッチンスタイルを世に送り出して話題となった温泉オーベルジュです。天井が高くて広々したダイニングに、ソーシャルディスタンスで着席、横並びのカウンターですから、ゆったりと寛いで食事を楽しめます。
糸井佑磨(ゆうま)シェフのお料理は、まさに、旅。ディナーのテーブルに置かれた、シェフからの招待状を開くと、本日の美食の旅の始まりです。伊豆半島の地図の中心にアルカナ イズ、そして、今日の食材のイラスト。伊豆半島のどの海やどの山で育ったものかが一目でわかります。左には謎の形のスケッチ。料理の設計図のようでもあり、期待がふくらみます。
そこに登場したのは大きな木のオブジェ。そう、これは、アルカナの森です。シェフ自らがアルカナの森の木を使って作ったもので、毎シーズン異なる造形物が登場するのです。今回は、このダイニングから眺める夏の森の様子。木漏れ日が注ぐ木々の枝や石の上に、伊豆半島の夏が隠れています。「えだ豆のトライアングルコロッケ」はさくっとした衣の中に濃厚な味わいの枝豆ソースがとろり。「アオリイカとクリームチーズ クレープトルー」「やわらか鮑のクリスピー揚げ」「本エビのプリプリトースト 胡麻つけ」と、海山のごちそうが木々に並び、その下の渓流の石の上には「あまごマリネしそ風味」と、川のごちそう。
鮮やかな緑のお料理は、真蛸とズッキーニ。夏を感じるぷりんぷりんの真蛸にズッキーニのソース、バジルオイルとキャビアの塩味が美味しいアクセントになっています。キンと冷えたスパークリングワインがぴったり。
チャーミングな一皿は、釣り鯵と茄子。「釣り鯵」とは、一本釣りの鯵のことで、網漁のものとは鮮度や身の締まりが全く違うといわれています。さっと炙って旨みを引き出した味に夏茄子ソースの甘みととろみが絡んで、うわっ美味しい。魚の骨型のクッキーは干物味で香ばしい。
料理人たちは真剣勝負。目の前で次々と料理を仕上げる様子は、ついつい見入ってしまいます。あれはわたしの料理かな?などと、思わずにんまり。
あまりの美味しさに悶絶した天城軍鶏リゾット。天城軍鶏の身がごろごろ入ったリゾットに天城で自然養鶏をする渡辺歌子さんの卵の黄身をからめて、天城軍鶏の濃厚出汁スープと一緒に味わいます。フレッシュマッシュルームやトリュフで味変させながら、軽めの赤ワインをごくり。美味しすぎてほっぺたが落ちそうと、久しぶりにつぶやいてみました。
さて、次はお魚料理です。ソムリエが選んでくれたのは、ケンゾーのロゼ、結yui。白桃のような華やかさとラズベリーやメロンのような果実味、淡い色みもすてきです。
絶妙な火入れの金目鯛。ふんわり口の中へ溶けていく味わい、皮はパリっと脂のジューシーな甘さに包まれます。トマトの爽やかなコクと酸味のソース、こりこりとしたサザエや、おかひじきのシャキシャキした歯ごたえが楽しい。
選べるメインは富士金華豚にしました。甘い甘いとうもろこしがフルーツのようにはじけます。スパイスを利かせたソースと肉の旨みのバランスがたまりません。
デザートは2種類。ブルーベリーとベルベーヌの爽やかな一皿の次は、濃厚マンゴーとショコラ。バイマックルー(こぶみかんの葉)の香りでトロピカルな雰囲気。大輪のひまわりにのった小菓子も登場し、ゆっくりたっぷり至福の晩餐を味わい尽くしました。
各部屋には専用の温泉があります。湯ヶ島温泉の源泉かけ流しで、滞在中いつでも何度でも好きな時に温泉へどぼん。泉質は、ナトリウム・カルシウム-硫酸塩泉。弱アルカリ性のやわらかな感触。湯船は首まですっぽりと入れる深さで、ひたひたと肌がうるおい、たまった疲れもすっとお湯に流れていくようです。アルカナ イズは、チェックイン15時から翌日チェックアウト13時でなんと22時間滞在可能。到着したらまず温泉、夕食前にもう一回、夜入って、朝入って、帰る前にもう一回と、気持ちよすぎて5回も入ってしまいました。
朝もすごいんです。季節ごとに変わるお料理の数々。静岡富士宮のオーガニック野菜「北山農園」をはじめ、有機野菜やハーブがたっぷり。夏のフレッシュサラダには氷結したトマトのパウダーがドレッシング。
朝も糸井シェフが目の前で卵料理を作ってくれます。卵はもちろん歌子さんの自然養鶏卵です。5種類の調理法と4種類の具材から選ぶのですが、シェフや料理人たちが即興で仕上げていくので、2つと同じ料理がないという鮮やかさ。
オムレツにしらすとピーマンの組み合わせを選んだわたしの卵料理。ウキウキしてしまうような色どりと、とろけるオムレツと卵の美味しさにうっとり。幸せいっぱいの旅ごはんでした。
アルカナ イズ
写真&文/石井宏子
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ブログ「日本と世界の温泉を旅する旅行作家・石井宏子」http://ameblo.jp/onsenbeauty/
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