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「おとな北欧旅」フィンランドの人気テキスタイルブランドの町、ラプアを訪ねて

新谷麻佐子

新谷麻佐子

あらたに・あさこ●イラストレーター、編集者。雑誌や書籍、お菓子のパッケージ、ステーショナリーのイラストを手がけている。友人でライターの内山さつきさんとクリエイティブユニットkukkameri(クッカメリ) でも活動中。kukkameriの著書に『とっておきのフィンランド』『フィンランドでかなえる100の夢』(ともにGakken)がある。https://asakoaratani.net/

伝統を守りつつ、革新を続ける「ラプアン カンクリ」

この夏の北欧旅の締めくくりは、憧れのテキスタイルブランド「ラプアン カンクリ」 創業の地、ラプアへ。そう、ラプアン カンクリは町の名前から来ていて「ラプアの織り手たち」という意味です。

 

昨年、ポストカードのデザインを考えていたときに、浮かんできたのが「ブランケットを自慢げに持つクマ」の絵。ずっとそのクマとブランケットの絵が心に残っていて、いつかブランケットが生まれる場所を訪ねてみたいと思っていました。

「ブランケットを得意げに持つクマ」

そして私の中でブランケットといえば、やっぱりラプアン カンクリ。2024年フィンランドに行くことが決まり、取材依頼をしたところ、快くOKしてくださいました。

 

ラプアは、ヘルシンキ中央駅から長距離列車に乗って3時間半。なかなかの長旅ですが、不思議と長く感じないのがフィンランドの列車旅。特にラプアへの道のりは美しい湖水地方を通るので、車窓からの景色を満喫。一人旅でもまったく飽きません。

ラブアン カンクリの店

 

お店で待っていてくれたのは、オーナーのヤーナ&エスコ夫妻。二人はとびっきりの笑顔で迎えてくれました。

「ラブアン カンクリ」のオーナー、ヤーナ&エスコ夫妻

 

夫のエスコさんが創業一家の4代目で、同じラプア出身のヤーナさんと結婚したのだそう。お二人の出会いはなんと15歳! エスコさんのお母さんは、ヤーナさんのことをお嫁さんというよりも、本当の娘のように思っているのだそうですよ。今回の取材は、そのヤーナさんが担当してくれました。

 

こちらが店内の様子。

「ラプアン カンクリ」店内

「ラプアン カンクリ」店内

 

もしかしたらどこか見覚えのある方も多いかもしれません。そう、東京・表参道にあるラプアン カンクリのお店と同じ日本の設計事務所「ima」(小林恭さん、マナさん)が手がけているのです。

 

ラプアン カンクリのウールブランケットは本当に温かくて、私はここ数年、白樺柄ブランケット<KOIVU>を愛用しています。そして、今シーズンついにグリーンのポケットショール<IIDA>も購入。これで寒い冬も怖くない!なんて思ってしまいます。

白樺柄ブランケット<KOIVU>とポケットショール<IIDA>

 

ヤーナさんはラプアン カンクリの歴史とともに、ウールブランケットの温かさの秘密を教えてくれました。

 

「私の夫、エスコの祖父が、1917年にラプアン カンクリの前身となるテキスタイルカンパニーを創業しました。地元の農家からウールを集めてフェルトシューズを作り、そしてウールから糸を紡ぎ、ブランケットを作りました。しかし祖父は戦時中に亡くなってしまったので、エスコの父ユハスは15歳の若さで学校を辞め、おじの織物工場で働き始めました。

 

1930年代になるとジャカード織機を購入。20代と若かったユハスは、デザインをファブリックに落とし込む技術を習得し、リネンのアイテムも作るようになりました。

 

そして1973年、ユハスは妻リーサとラプアン カンクリを立ち上げ、ジャカード織機の技術とデザイン力を生かした商品作りを志しました」

 

しかし確かな技術があったとしても、今の時代ではフィンランドの羊毛を集めることは簡単なことではないそう。

 

「コロナによるパンデミックが1つの転機となりました。世界中の展示会が中止になり、普通なら途方に暮れそうになるところ、『今の私たちには時間があるから、フィンランドの農家から羊毛を集めることに集中しましょう』と、2020年からフィンランドウールを集め、今では30以上の農家と契約しています」

「ラプアン カンクリ」の羊毛について語るヤーナさん

 

こうしてフィンランドの農家から羊毛を購入し、糸を紡ぎ、天然素材で染色して、ラプアにある自社工場のジャカード織機で商品を製造しています。

 

「こちらのオレンジ色のブランケット<JUHANNUS(夏至祭)>は、パウリグコーヒー*で染色しているんですよ。原料からすべてフィンランド産なんです」
*1876年創業のフィンランドを代表するコーヒーブランド。

<JUHANNUS(夏至祭)>ブランケット

 

コーヒーから染色というとてっきり茶色かと思いきや、輝くオレンジ色とはびっくりです。一方の茶色はというと、こちらは染色せず、羊の天然の色を生かしているそう。

「ラプアン カンクリ」ブランケット

 

ヤーナさんとエスコさんご夫婦がラプアン カンクリを引き継いだのは2000年のこと。当時、二人には夢がありました。

 

「私たちはタンペレの大学でデザインを学びました。タンペレはフィンレイソンやタンペラをはじめ、テキスタイルの街として有名です。特にタンペラから発売されていたドラ・ユング(1906〜1980年)のデザインが大好きで、彼女の作品は、常に私たちのインスピレーションの源でした。いつか私たちもこんな仕事がしたいと思っていたのです」

 

しかし二人が学生の頃、1990年代初頭のフィンランドは経済危機にありました。エスコさんは家業を助けるためにラプアに戻り、ヤーナさんも卒業後に帰郷。

 

その際、大好きなドラのデザインを復刻させようと試みましたが、叶わず。新しいデザイナーを発掘すべく、アアルト大学との共同プロジェクトをスタートさせます。才能あるデザイナーとの出会いに恵まれ、会社は順調に成長していきました。こうして実績を積んでいき、一度は諦めたドラの商品を復刻するチャンスが訪れます。

 

「アアルト*がこの世を去っても、彼のデザインは今なお生きています。ドラの作品もそうあるべきだと思ったのです。ドラの親族と話し合いを重ね、遂にラプアン カンクリのドラのリネン製品が完成。2010年のフィンランドの見本市『ハビターレ』でお披露目となりました」
*アルヴァ・アアルト(1898〜1976年)。フィンランドを代表する建築家であり、デザイナー。

 

こちらは、ドラがデザインした「KIELO(すずらん)」の復刻版。

「KIELO(すずらん)」の復刻版

 

上の写真からもわかる通り、ラプアン カンクリの看板商品といえば、前述のウールとリネン。リネンの中でも特筆すべきは、エスコさんのアイディアで生まれたという新商品、二重構造のタオルです。

 

「リネンのタオルといえば、通常は1枚ですが、それを2枚重ねた構造にしたのです。そうすることで、生地と生地の間に空気が入るので、布団の夏掛けとしては涼しいですし、バスタオルとしては吸収力がアップします。ヨーロッパ市場では『タオル界のメルセデスベンツ』と言って宣伝しています(笑)。そのくらい画期的で業界トップのクオリティなのです」

「ラプアン カンクリ」の二重構造タオル

 

良質なリネンを作るために、原料も厳選しています。

 

「現在、フィンランドでフラックス(亜麻)を育てることはできないので、ベルギーやフランス産のフラックスを使用しています。そうすることでヨーロッパのフラックス業界を守りたい。伝統を守り続けることはとても大切なことなのです。

 

またラプアン カンクリではさまざまなデザインを取りそろえていますが、1シーズンではなく、長期間、製造・販売しています。また用途を限定せず、テーブルクロスでも、ブランケットでも、カーテンでも使える“マルチファンクショナリティ”を心がけています」

「ラプアン カンクリ」の製品

「ラプアン カンクリ」の製品


そして2024年も特別なデザインが誕生しました。minä perhonenの皆川明さんがデザインしたリネンのアイテムです。

 

「皆川明さんとは今回が初めてのコラボレーション。今回、ラプアン カンクリのために2つのデザインを提供してくれました。1つは<KESÄKUKKA(夏の花)>。フィンランドの街の道端に、さりげないけれど楽しそうに咲く花々をイメージして生まれた絵柄です。

「ラプアン カンクリ」の製品<KESÄKUKKA(夏の花)>

 

もう1つは<METSÄLAMPI(森の湖)>。こちらはアキラがフィンランドに来たとき、ラプアに向かう列車の中ですでにイメージがあったそうです。場所はフィンランドの湖畔のコテージ。森では雨が降っていて、湖に雫が落ちる様を描いています。これはまさに私たちが思い描く、フィンランドらしい夏の風景です。

 

アキラは世界的なデザイナーですから、最初はとても緊張したのですが、ラプアで語り合っているうちに、長年の友人のような気持ちになりました。今後もコラボレーションは続けていきたいと思います」

「ラプアン カンクリ」の製品<METSÄLAMPI(森の湖)>

 

このほかにも、定番アイテムから最新デザインまで、それぞれの誕生ストーリー、他社とのコラボレーション、さらには工場見学と、ヤーナさんとスタッフの皆さんは1つ1つ丁寧にお話ししてくださいました。それはもう1冊本が書けそうなくらい! ぜひまたの機会にお伝えしたいと思います。

 

ちなみに、ラプアのお店では、毎年7月の終わりにアウトレットセールを開催しているそう。夏のフィンランド旅行を考えている方はぜひ。アアルトの町として知られる、お隣のセイナヨキとセットに訪れるのがおすすめです。

 

もちろんラプアに行かずとも、通常商品はヘルシンキでも、そして東京の店舗やオンラインショップでも購入(取扱商品や在庫状況は変更の可能性があります。予めご了承ください)できるので、チェックしてみてください。

 

こうして4年半ぶりの北欧旅は、心とスーツケースをパンパンに満たし終了しました。フィンエアーの羽田行きは、ヘルシンキ18:30発。帰国日もギリギリまでショッピングも楽しみました。

 

ちなみにヘルシンキのヴァンター国際空港には素敵なお店がいっぱい。早めに空港に行くのもおすすめです。こちらは若い世代を中心に人気のセカンドハンドショップ&カフェのお店。

ヘルシンキ・ヴァンター国際空港のショップ

ヘルシンキ・ヴァンター国際空港のカフェ

 

もう買いものは十分! 搭乗までのんびり過ごしたいという方にはラウンジ利用がおすすめ。フィンエアーのラウンジは2カ所。ビジネスクラスもしくはラウンジパスを購入すれば利用可能です。

 

シェンゲン協定加盟国エリア(3階ゲート21付近)のラウンジは昨夏、リニューアルしたばかり。秋に、Artek Tokyoとコラボしたことでも話題になった、Studio Joanna Laajistoがインテリアをデザインしています。大きな窓から飛行機を眺めながら、食事や休憩をとり、ゆったり過ごせます。

ヘルシンキ・ヴァンター国際空港

 

非シェンゲンエリアは、日本便の搭乗口に近く(ゲート52付近)とても便利です。

ヘルシンキ・ヴァンター国際空港

 

フィンエアーは、羽田、成田、関空のほかに、2024年名古屋も再就航し、便利になりました。さらに2024年6月には長距離路線の全機材のリニューアルが完了。新しく生まれ変わった客室でこれまで以上に快適に過ごすことができます。

 

私が、フィンエアーを好きな理由はいろいろあるのですが、特にうれしいのはマリメッコとのコラボレーション。「ウニッコ柄」や「キヴェット柄」の機体があったり、ビジネスクラスやプレミアムエコノミークラス利用時にはマリメッコのアメニティがもらえます。

フィンエアーのアメニティ

 

ラップランドで観るオーロラや樹氷、2月ごろから始まるイースターシーズンと、冬のフィンランドも楽しいんだよなあというのを、この記事を書きながら思い出しています。そして頭の中はすでに次の旅の計画でいっぱい。皆さんもぜひ素敵な旅を。Hyvää matkaa!(ヒュヴァー・マトカー! 良い旅を!)

 

新谷麻佐子さんの北欧旅連載

『今人気の田園ツーリズム。フィンランド、ラトビア、エストニアに行ってきました!』

 

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