
古くから人々は香木をあたためてその香りを楽しんで来ました。「香りはかぐのではなく聞く」、すなわち「聞香(もんこう)」といいます。室町時代には、作法をともなう香道(こうどう)として確立しました。
今、東京の上野の森美術館で開催されている「正倉院 THE SHOWー感じる。今ここにある奇跡ー」(2025年11月9日まで)は、1300年の時を経た正倉院の宝物を3Dデジタルデータや再現模造などで体感できる展覧会。加えて、伝説の香木「蘭奢待(らんじゃたい)」の香りを再現していて、実際に”聞く”ことができます。

↑本展では、「蘭奢待」のレプリカが展示されています。
「蘭奢待」の宝物名は「黄熟香」、長さ156.0cm、重さ11.6kg。香木「沈香(じんこう)」の中でも名香とされ、足利義政・織田信長・明治天皇らが切り取ってその香りを聞いたようです。この正倉院の宝物である「蘭奢待」の香りの再現は、香木をビニールで覆ってたまる空気の分析に加えて、香木の脱落片を加熱したものの分析も行われています。

↑ガラスの器に入った「蘭奢待」の香り。甘くてスパイシー、私にはロマンチックに感じられました。
香りの再現でも調香師が聞香をしています。会場では、ガラス器に香りのサンプルが入れてあり、実際に香りの体験ができます。私には甘くてスパイシー、光明天皇の聖武天皇への深い気持ちを感じました。展覧会開催中だけの特別な香りの体験です。
さて、この展覧会に先立つこと、1週間前。京都でこの雅やかな「聞香」を体験する機会がありました。嵐山の渡月橋から大堰川を遡った先にある「星のや京都」での聞香体験です。小倉百人一首ゆかりの小倉山が目の前にあり、春は桜、秋は紅葉の絶景の地。嵐山は平安貴族が別邸を構えて、舟遊びなどに興じていたのでしょう。

↑宿までは専用の船で。全室リバービューの宿は絶景。
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↑香木を温めるのに使う炭を加熱する間、まずは香木そのものの香りを聞いてみます。
そもそも香木とは東南アジアで育った沈丁花科アキラリア属の樹木の内部に樹脂が蓄積したもの。伽羅(きゃら)や沈香(じんこう)があり、加熱をすることでそれぞれ特有の香りがします。室町時代の足利義政の時代に、これらをの香りを聞いて楽しむ「香道」ができました。

↑金の畳紙(たとうし)に包まれたお道具で聞香炉を整えます。
香木は、聞香炉で温めてその香りを聞きます。炭にのせた灰を寄せて山にして、てっぺんから穴を開け、そこからの熱で雲母の上にのせた香木片を温めます。細やかな作業にもお作法があり、とても集中できます。

↑伽羅の香りとは…甘い香りをほのかに感じました。
そして、いよいよ香りを聞きます。手で軽く香炉をカバーして立ち上る香りを聞きます。伽羅を聞きましたが、ほのかな甘い香りを感じたものの、うっすらとしたもので顔をいったん離して、2度3度と試してみました。
聞き分けられるようになるまではまだまだのようですが、香炉を整えて香りに向かい合うまでの集中できる時間が心地よいものでした。(聞香体験 3,388円、税サ込み、宿泊者限定)
体験する機会の少ない聞香をたしなむことができ、優雅なひとときを過ごせました。


