え~~これは私の体験に基づくものです。
私はかなりのナルシストで、よって考え方も当たり前だが自己中心的で、当然、いちばん大切な人間は自分です。かわいがっている姪にも、チャンと公言してました。
たとえば砂漠で私と姪が迷子になって、もう干からびそうになって死を感じた時、水がボトル1本しかなかったら、私は迷うがやっぱり自分で飲むわと(笑)。いざとなったら自分を取るけど、ごめんねって言ってました。まずは自己救助が先決です!
ところがある正月前、岡山の実家に姪と私と蘭丸(当時飼っていたコリー犬40㎏)とで帰省することになり、姪と交代で車を走らせておりました。
朝5時頃、姪も蘭丸もぐっすり寝てて車もほとんどいない高速道路を私が運転し、上り坂から下り坂になった瞬間、目の前に突然、道路幅一杯に落ちている巨大な青い物体が出現!!高さが2~3mはある。ンギャ~~!!と思いつつ、道路の壁の隅に少しの隙間発見!
急ハンドルをギュギュンと切って隙間に突進したら、今度は反対側の壁にぶつかりそうになり、またもハンドルをギュギュギュ!!車は右に左に激しく蛇行し、そのつど車は傾き、片方のタイヤが浮いてるのがわかる!アクション映画のカーチェイス!あれですよ!!
時速130キロくらいで走ってたので、とにかく減速せねばとポンピングブレーキをポンポンポン試みるも、全く制御不可能!目まぐるしいハンドル操作にパニクりながらも粘ったけど、ああコレは無理かもしれない…右の壁か左の壁かどっちかにはぶつかる。仕方がない、どっちかなら私の方で…っと思って気を抜いた瞬間、覚えてないがどうも自分側でぶつけたらしい。
姪に起こされて気がついた。姪も気絶していたのを、後から来たトラックの運ちゃんに起こされたらしい。バックシートの蘭丸が、でべそを出して倒れている。ギャー蘭ちゃんが死んだ!!急いで抱きしめると毛に血がベタ~とついてる!
どこよ!?何処から血が!?毛をかき分けて傷口を探す私。どこよ!?ボタッ…ボタボタ…あれ?
私の顎の辺りから血が垂れてる。あれ?なあんだ、私の血だ。良かった~って、本当にそう思ってホッとしたのですよ。いやまったく、我ながらびっくりですよ。
マジかよ~、そんな人間ではないと思ってたのに、私って!私が思っていたより良い奴じゃん(笑)。いざという時、人間の本性が出るというけど、私、自分のこと誤解してましたわ。
というわけで、自分の本性って、自分では意外とわかってないものですね。「私、打たれ弱いんですぅ」とか言う女に限って、「おまえほど、図太い女はいないわい!」って性格だったりするし(笑)。思い込みや願望で、自分の本質を見誤らないようにしましょう。
そうそう、落ちてた巨大な青い物体。あれはトラックの荷物を包む幌だったそうです。高速道路はたいてい横風が吹いてて、トラックから落ちた幌が横風で膨らんで、巨大な塊に見えたみたいです。
全身打撲と顎をぶつけて、歯はアチコチ欠け、私はえらい目にあいました。愛車のBMW2002tiiは廃車になりました。
あそこで幌を落としたトラックの運ちゃんは見つかりませんでしたが、きっと今は不幸でしょう。なぜならば…私が恨んだからですよ…ふっふっ、こんなに良い人の私が恨んだのですから、きっと不幸です。
「デザイナー」りぼん1974年7月号扉
取材・文/佐藤裕美