その昔、私がまだ20代の小娘だった頃、男に痛い目にあったことがあって、腹がたつやら、悔しいやらで、部屋でシクシクと泣いておりました。その時、ふと鏡に写った泣き顔を見て、「自分の泣き顔って、もうちょっとイケてると思ってたけど…我ながら不細工と言うか、笑えるくらい壊れただらしない顔だなぁ」と。
まじまじと顔を見ていた私は「えっっ?」と驚いてしまった。
それまで涙って、目尻のほうから、つつつーっと頬を伝って流れるものだと思ってたから、漫画でもそう描いてたのよ。
ところが!鏡を見たら目頭から鼻のほうに向かって流れているじゃありませんか。コレではまるで鼻水…
「えっ、涙って目頭から出るの!?」と気づいたとたん、涙が止まっちゃって「チョ…ちょっと待てー!止まるな!ちゃんと見せんかーぃ!!」って(笑)。
鏡の前でしばらく涙を振り絞ろうと頑張ったんだけど、そんな自分の姿に気づいてしまって…これは「あかん」です。
恋する乙女から一瞬にして漫画家に変身してしまった。恋愛の醍醐味に溺れられないこの性格では、この先何が起ころうと、ついうっかり変身してしまうんだろうなあと、己を悟ってしまいました。
ああ、クリエイターの悲しき性(笑)。
まあでもね、自分を客観視する性格のおかげで、漫画家として成功できたと思うし、何かあった時、必要以上に落ち込まないでいられると思うのよね。
世の中には失恋しただけで、この世の終わりみたいに落ち込んだりする人がいるけど、それはその男とうまくいなかっただけのことで、全世界の男から否定された訳じゃないでしょう?人の好みは様々で、たまたま合わなかっただけで、悲しいけどそういうことは普通にあります。
だから世界の終わりだと嘆く必要もないし、その時間があるなら、むしろ自分と相手のどこが合わなかったのか、どこで間違ったのかを具体的に分析して今後の人生の糧にしましょう!
こう書いていて思ったんだけど、受験と恋愛って似てるなあ。
同じ個所を間違えないように傾向と対策を練って、次の受験に向かう!どちらも人生かかってますよね。
ちなみに、20代の私は、その後、涙の描き方を変えたか。じつはあまり変えませんでした。だって目頭から流すと、絵柄的に美しくないのよ。だから目頭をちょっと濡らす程度にして、あとはそれまで通りに。でも、よりリアルになったんじゃないかと思ってます。
「恋のめまい 愛の傷」コーラス1994年10月号扉
取材・文/佐藤裕美