その昔、『木下恵介劇場』というテレビドラマの枠があって、そこで放映されて今でもよく覚えている話があります。
主人公の男女は、毎朝、通勤のときにすれ違う電車に乗っていて、それでお互いを意識するようになるの。もちろん電車がすれ違うのは、ほんの一瞬だけど、毎朝、お互いの存在を確認するのを楽しみにするようになるのよね。
ところが、あるときから男の姿が見えなくなっちゃって、女は、「どうしたのかしら。転勤になったのかしら」って気をもむんだけど、その後、仕事で再会して、関係を深めていく…というお話でした。
みんな、こういう話、大好きよね。偶然の出会い、偶然の再会。それもこの広い東京で再び会うなんて、これはもう「運命♪」みたいな(笑)。
現実には、そんなドラマチックなことって、めったに起きないかもしれないけれど、でも、それに近いことが現実であったときに、「もしかして縁かもしれないなぁ」と思ったほうが、人生おもしろいじゃんって、私は思うのよね。人生、潤うことが少ないから、そういうときめきは大事にしたいじゃない?「袖触れ合うも他生の縁」という言葉もあるしね。
そういえば、『恋のめまい 愛の傷』という作品では、偶然、再会してしまう男女を描きました。それも婚約者の弟が、かつて旅先で愛し合った男だったという設定。この再会はまずいし、やばいし、楽しくない。
でも、この最悪の再会でさえ、「何か新しいことが起きるきざし?」って思うことができたら、一気にドラマチックな展開になるかもしれない。出来事をどう受け止めるかで、不幸にも幸福にもなれるとしたら、テンション上がる受け止め方をしたほうが、人生、楽しめると思います。
このコロナ禍では、きっと妄想する人が増えてると思うのよね。「縁」を感じる出会いを自分なりに妄想して楽しんでください。
「恋のめまい 愛の傷」コーラス1994年8月号扉
取材・文/佐藤裕美